My Love〜高校生編・第11話「ビューティフル・エネルギー」
朝から落ち着かない一日だった。落ち着くはずもない。朝からイメチェンをした裕華の可愛い姿を見せ付けられ、さらに裕華の「お気に召すまま」宣言を聞かされて、そして今、この隣にその裕華がいて…。
授業中なのに、裕華は僕と目が合うとニコニコと微笑みかける。こんな日本一幸せな男は、日本一そわそわしている男でもあった。
ある意味、普通であれば、裕華のあの言葉は「ウエルカム」を意味するだろう!と思うのだが、なにせ天然が入っている彼女なのでそういう意味で言っているのかどうか自体謎である。
しかしこれはチャンスだ!間違いなくそう思った。自分自身、キスは体験済みではあった。
中学のとき、興味本位でそんなに好きでもない女の子に無理やり迫られ奪われた感じだったので裕華とキスが出来るのであれば本当の意味でファーストキッスということになる。
さて、いつどのような場面でどういう風にすればいいのか?授業も真剣に受けず、そんな事ばかり考えている「ビューティフル・エネルギー」満載の青春真っ盛りの「オス」
勉強など全くもって身に入らない状態にも関わらず裕華とのキッス計画もままならないまま、とうとう放課後になってしまうのだった。
「ご主人様、ヒロちゃん、これからの予定はございますか?」
「うん、デートするぞ、いいだろ裕華。」
「はい……ではどちらへ行きますか?ご主人様?」
「う~ん、天気がいいから、高代(たかしろ)公園でも行こうか?」
「賛成です!おやつ買っていこうね!」
学校の近くには大きな公園が2つあった。自然豊かな湖のある高代公園は森林の中に遊歩道とベンチなどがあって歩くだけでもいい雰囲気の公園だった。
行く途中、近くのお店で裕華がお菓子を買ってきた。
「ご主人様、私のおごりでございます。お食べください。」
まずはアイスを渡された。学校帰りにアイスを食べながらブラブラ帰るのは当時のマイブームだった。2人仲よく食べながら歩いた。
思い付きとはいえ、高代公園はいいんじゃない?と自画自賛している僕は公園内でのキスの
想定を頭の中で描こうとしていた。
「裕華?イエッサー裕華の期限はいつまでなのかな?」
ご主人様、家に帰るまでです。何かございましたか?」
よし、時間はたっぷりある。慌てるな!まずは
キスまでに持っていく雰囲気を作らないと……
「裕香、手を繋いで歩きたい。いいかな?」
裕華は下を向きながら「……はい。」と右手を差し出した。
おぉ、いける!これはまさに「ウエルカム状態」に間違いない。幸せだった。人の目は気にならなかった。完全に自分達の世界に入り込んでいた。高代公園までの約10分ほどの時間、幸せすぎて何を喋ったのか何をしていたのか、全く覚えていなかった。
程なく高城公園に着いた。僕の本能はもう裕華の唇しか頭になかった。
遊歩道を進み、出来るだけ奥へと進む。人がほとんど通らないところまでやってきた。ベンチに座りふたりはお菓子を食べはじめた。
「ヒロちゃん……ひとつ聞いていい?」
「ん?何?裕華?」
「今までに付き合った人って……いた?」
「う~ん、微妙な質問だなぁ………一応は…いた。」
「そっか……裕華はヒロちゃんが初めて……だから、恋人同士ってどうすればいいのか、わかんないんだ。だから今日はヒロちゃんのいう通りにしようと思ったの」
「裕華……凄く嬉しいよ…ありがとう。」
本当の事をありのままに話してくれる裕華は本当に愛しかった。さらに裕華はまさかの言葉を口にした。
「私、ヒロちゃんとキスしてみたい……キスってどんなものかなぁって思って……最初のキスは好きな人と絶対したかったから………ん?ヒロちゃん?」
こ、こ、こんな展開は全く予想だにしなかった。正直、僕は唖然とした。まるでこちらの気持ちを裕華が全て見抜いているようにさえ感じた。しかし裕華はそんな能力もなく、またそんな怪しげな意味でもなく、心からのピュアな気持ちでそう言ったと思った。それに裕華も僕と付き合って少しは大人になったんだなぁとも思った。
これを逃しては男ではない。心のブレーキは効かない。理性のリミッターも外れた。
「裕華、僕も裕華とキスがしたい…。」
二人はお互い見つめあった。左に座っていた裕華の肩に手を回してそっと抱き寄せた。一瞬ビクっとして下を向く裕華だった。しかし裕華は顔を上げ、僕の方を向き
「ヒロちゃん……好・き……。」
裕華は僕の胸の中にしがみついてきた。そして裕華の顔が上を向いた。憂いを帯びたその眼差しはやがて瞼で閉ざされていった。
夕日は沈みかけていた。そして2人のその瞬間はもうすぐだった…。
〜第12話に続く〜