My Love〜高校生編・第16話「やさしさ紙芝居」
だから…だから、何なのだ?
裕華の口から僕に対する別れを切り出す瞬間がもうすぐ来るのか?ひとみのやつ、一生、恨んでやるぞ!
裕華はしばらくして重い口を開いた。
「だから、私、ひとみちゃんにヒロちゃんの事、宜しくねって答えたの。そうしたらね…そうしたら…ひとみちゃんに言われちゃった。
『どんなに好きな男の子でも心の中に違う女の子がいたなら、さすがの私でも彼には出来ない。荒木君の心の中は、裕華、あなたで一杯なのよ。今、急に彼を信じろって言っても無理だだと思うから少しずつ彼に歩み寄ってあげて、荒木君は好きだけど、心の中に私のいない荒木君じゃどんなに好きでも…愛せないよ…。だからこれだけは荒木君を信じてあげて…。私も軽はずみだったこと……謝ります。だから明日、荒木君ときちんと向かい合って話をして!』って言われて…。」
意外だった、あの大バカ野郎、ずいぶんかっこいい事言ってるじゃないか…、
「ひとみちゃん、そう言いながらおいおい泣いてた。でね…
『もう荒木君とあんなことしないから今までどおり仲良くしてね、そうでないと私、二人の悪者になっちゃう、そんなのイヤだよ…』って…
だから…だから…私も…ヒロちゃんの悪者にはなりたくない。ヒロちゃんのそばにいたい、ずっと、ず~っと…そばにいたい……そばにいたいよ~」
そう言いながら裕華は人目もはばからず、おそらく人生で1番涙を流したと思うくらい泣き出した。僕は人目をはばかって、泣く裕華にそっと肩を貸すのが精一杯だった。
「おい、ヒロユキ、女を泣かすなんて最低だぞ~!」
「お、色男!ヒロちゃん、かっこいい~!」
周囲にいたクラスの男、数人からチャチャが入ったが、そんな奴らの罵声が耳に入らないほど裕華の泣く声に心を揺らされた。もう…二度とこの子を泣かしたくない!泣かせはしない!もっと裕華を大切に、もっと裕華を好きになろう!もっと裕華のためにそばにいよう、もっともっと裕華を愛してあげよう!
肩を貸していただけの僕は、そう思うと華奢で折れそうな肩を抱き寄せていた。
「裕華…ごめん、君を泣かせるような事はもうしないから、絶対にしないから…僕を信じてくれる?」
僕の肩にあった裕華の顔はいつの間にか僕の胸の中だった。僕の言った言葉に裕華は泣きながら僕の胸の中で何度も何度も頭を縦に振った。
破局寸前まで考えていた僕らの愛は、二人のお互いを思う気持ちでさらに強くなって揺るぎないものとなった。こうして僕らの破局寸前だった愛は紙芝居のようなハッピーエンドとなった。
それからの僕は、男の友達といるよりも裕華といる時間のほうが多くなっていったような気がする。トシちゃんの2枚目のシングル「ハッとして!Good」二人それぞれ1枚ずつ買って
曲を覚えた。僕のほうが裕華よりも早く全部覚えてしまって裕華に呆れられた。
そんな他人から見れば他愛のない事でさえ、僕は裕華と同じ時間を同じ事で共有できる喜びに浸っていた。「こんなに近くで共有できる時間、」そんな当たり前のことが間も無く、大人の都合で引き裂かれる事になろうとは思っても見なかった…。
裕華と一緒に過ごした楽しかった夏休みも過ぎ、秋にさしかかろうとした九月十五日の朝…
それは裕華の口から…突然聞かされた…。
〜第17話に続く〜