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歯医者で出会った彼女・第21話・「誰かが僕等を見ている…」
その輸入雑貨の店までおよそ5分、僕等はお互いの手を握りながらぎこちなく、いや、多分第三者が見たらかなりぎこちなく見えると思うであろう歩き方で進んでいた。
気分は最高なのにこの緊張は何だ? まるで生まれてから人生初めてのデートのようだった。しかし今までも直美ちゃんとは数回のデートらしきものをしているからこんなはずは……と思っていたが、やはりお互いに意識しはじめると気持ちも緊張もこんなに変わるものなのか?
そういう意味では今日は直美ちゃんとの初デートなんだよなぁ。その記念すべき日だからこその緊張なのかもしれない。
中心部を流れる川沿いに立ち並ぶ雑居ビル、その1階にそのお店はあった。韓国を中心としたアジアの雑貨をメインに販売されているようでちょっとオリエンタルな雰囲気もあった。
「へぇ~!こんなお店が出来たのね。私は田舎者だからこういうお店って初めて!楽しそう…。」
そう言いながら直美ちゃんの目は宝物を見つめるような最高の輝きを見せていた。やはり女の子なんだな、
すぐ飛び込んで行ったのは韓国の化粧品売り場。
僕は全く興味がないのでよくわからないけど、化粧しなくたって直美ちゃんは十分に可愛いとは思う。でも
やっぱり女性は化粧で変われる。今日の直美ちゃんの顔はまさに「勝負顔」完全に僕はポジティブ過ぎる自分の妄想が怖くさえ思えてきた。
直美ちゃんは他にも ポッチュモニという韓国で「幸せ袋」「福袋」として親しまれている伝統的な巾着袋のキーホルダーを2個買っていた。
「直美ちゃん、インテリアの小物はいいの?」
「うん、またゆっくり来る〜。だってみんな欲しくなるんだもん!」
「そっかー、じゃまた僕と一緒に来る?」
「えー?どーしようかなぁー、荒木くん、私に何か買ってくれるなら一緒に来てもいいかなぁー。」
「えっ?そう来たか!わかった、じゃあ、また今度一緒に来た時に買ってあげるからねっ!」
「え、ホント〜?わーい、じゃあ今度また一緒に来ようね!」
「うん、約束する。」
「わーい、嬉しいなっ、ありがとう、ヒロくん♪」
「えっ?」
僕は一瞬、耳を疑った。初めて聞く自分の呼ばれ方…。
直美ちゃんは、あっ!というような顔をして両手で口を隠して恥ずかしそうに下を向いた。そのあとゆっくりと上目遣いで僕の顔を見つめながら言った。
「ヒロくん………ってこれから呼んでもいい? 荒木くんじゃ…もういやでしょ?」
「ぜ、全然OKだよ~!嬉しいなぁ、直美ちゃん。」
とうとう、僕は彼女の気持ちに確信を持った。もう今日は絶対にいける!彼女の唇は僕のものだ!
「じゃ、出ようか、お腹空いちゃった。」
僕等は雑貨店を後にし、今日のメイン、パスタの人気店「イタリアン 中屋」へ再び歩き出した。
僕がまた直美ちゃんの手を繋ごうとしたその時、直美ちゃんは僕を近くの喫茶店の入り口付近まで僕の手を引っ張った。
「ど、どうしたんだ? 直美ちゃん?」
「さっき、手を繋いでた時に気づいたんだけど、歩いているとき、遠くからマスクの男の人がずっと着いて来ている気がするの!学校から出てきたときからマスクをしている男性に後を追われているような感じがあったんだけど途中で消えてしまったので…私の思い過ごしだなぁって思ったんだけど……
さっきゲーセンから出てきたときにもマスクの男がいるのを偶然見ちゃったのよね、そして今雑貨店を出てきてふと遠くを見たら、またマスクの男が…でも、マスクはしているけどみんな服装が違うのよね……でも何か気持ち悪い。」
僕はその喫茶店の奥まった入り口からその男の姿を
静かに見つめた。短髪に黒いキャップ、レイバンのような黒いサングラスをかけ、黒っぽいブルゾンに身を包んでいて!いかにも怪しい様相の男だった。
「直美ちゃん、学校からって言っていたよね? もしかして同じ男じゃないの?」
「でも…学校から後をつけていた人はもう少し体格がよかったし、さっきまでの人は今のその人よりも若かったよ!高校生くらいかな?」
「……3人?どっちにしても気持ちが悪いな、よし見つからないようにとにかくどっかに逃げよう。
マルニデパートの大通館の入り口から入って、地下の連絡通路を走って通って、新館の北口から出よう! マルニに入ったら駆け足だよ!」
「うん、わかった・・・・。」
僕等は横断歩道を渡ってすぐのマルニデパートを目指した。横断歩道を渡り切った瞬間、僕等は手を繋いで駆け足でマルニデパートに入った。ふと後ろを振り返るとなんと、その怪しい男も急に走り出したのだった。
やっぱり男は僕等を、いや直美ちゃんを追っていたのか?一体、誰なんだ? 何が目的なんだ?
デパートに入った僕等は地下の連絡通路を駆け足で通り過ぎた。
〜第22話へ続く〜