My Love〜高校生編・第7話「ランナウェイ」
トシちゃんこと、田原俊彦が僕のライバルだと自分自身勝手に思い込んだその日から、僕は人が変わった。
当時まだあった発刊されていた月間「明星」を買っては田原俊彦の記事や写真を舐めるように読みまわした。裕華のどんな話にでもついていけるように…。
そして当時まだ、レコードレンタル店はこの田舎になかったし、もちろんライバルのレコードを買うなんてとんでもない話なので、TVの音楽番組、FMラジオを録音、録画してとにかく奴の情報を集めまくった。
意外だったのは彼は中学、高校と野球をやっていたという事実。あんな軟弱そうなヘナヘナしたイメージ(ファンの皆様、当時の感想です。目をつぶって許してください!)からは想像できなかった。少しだけ彼をリスペクト出来た瞬間であった。
しかし、踊りは上手だけど歌はヘタクソだよなぁ(何度も暴言すみません、後にファンになる男なので許してください。)僕が歌うほうが全然うまい。
しかしそんな事を裕華の前で言ったら、それこそ🎵カッ!としてグッときて〜🎵殺されそう…。
そんなこんなで知識の受け売り、知識の自転車操業をしながら裕華とのはったりの会話をする日々だった。
「ねぇ、ヒロちゃん、『哀愁でいと』って外国の人のカバー曲なの知ってる?」
「うん、知ってるよ!」
「問題!歌っている人の名前は?」
「レイフ・ギャレット!」
「じゃあ、曲のタイトルは?」
「ニューヨーク・シティナイト」
「ヒロちゃん、すご~い!!」
「えへへ、どんなもんだい!」
「ニューヨーク・シティナイト」は聞いた事はないがレイフ・ギャレットはよく知っていた。
その当時から数年前、第1次ディスコブームというのがあって当時、アメリカの人気アイドルの彼は、日本でも大ブレイクしていた。
「ダンスに夢中」という曲はもちろん日本でもヒットした彼の大ヒット曲の一つ、50代以上の方は泣いて懐かしむことであろう…
というわけでこんな感じで毎日、毎日、毎日、毎日、顔を合わせるたび裕華と僕はトシちゃんの話題ばかり……好きな裕華との会話とはいえ、いい加減!もううんざりだった。
こんな日から脱却したい、もっと現実的に裕華と恋人らしい時間を作りたい。僕は思い切って彼女をデートに誘うことにした。
「裕華ちゃん、今度の日曜日、映画見にいかない?」
僕は「クレイマー、クレイマー」が見たかった。ダスティン・ホフマンの子供に奮闘する姿が面白そうだったからである。余談になるが、「僕と彼女と彼女の生きる道」というTVドラマがあったが、まさにこの映画のパクリであろう。
しかし裕華から信じられない返事が帰ってきた。
「あ、だめ!トシちゃんの出る番組があるから日曜はダメ!」
それまでのトシちゃんに対するストレスもあったせいか、裕華のその言い方も態度に物凄い憤りを感じた。その時もっと大人の対応で我慢をしていればよかったのだが……もう我慢の限界だった。自分の中で何かがぶち切れた瞬間だった。僕は裕華に対してひどい言葉を浴びせてしまうのだった。
「裕華!トシちゃん、トシちゃん、トシちゃんって……俺よりそんなにトシちゃんが好きだったら、トシちゃんとTVでデートすればいいじゃん!やってらんねぇよ!もう!」
放課後の教室、僕はそこから逃げるように走り出した……。彼女の気持ちを踏みにじるかのように…。
〜第8話に続く〜