My Love〜高校生編・第10話「ROBOT」
日曜日、裕華のセルフ罰ゲームが気になって仕方がなかったが、僕がジタバタしてもどうしようもないのでぼーっとラジオから流れる歌謡曲の番組を聴いていた。
ふと、榊原郁恵の歌に聴き入ってしまっていた。「ROBOT(ロボット)」という歌だった。
当時、ゴールデンコンビだった松本隆、筒美京平の作品で、アレンジはYMO(イエローマジックオーケストラ)のいわゆる「テクノサウンド」っ「ぽい」曲のアレンジに思わず身を乗り出した。まだ当時彼女はバリバリの「アイドル歌手」美人とは思わないが、元気な笑顔と明るいキャラクターは好きであった。
「♬愛してると一言、つぶやくだけでいいのよ、この心も手足も 思うままに動くわ お気に召すまま そうよ 私 ロボット…♬」
サビの歌詞である。なぜ、こんなこと長々と語っているのか、この後の展開に深く関わってくるからである。
そんなこんなで悶々とした日曜日の夕方、裕華から電話が来た。
「ヒロちゃん、こんばんはぁ、何してたの?」
「裕華のことばかり考えてた…。」
「何、言ってんのぉ~食事もトイレも行かないで?」
「それは…ちゃんとしっかりしました。ハイ!」
馬鹿な会話をしかけようとしたら逆に返された。どうした、裕華? とても明るい声…。
「ねぇ裕華、裕華の罰ゲームって何をするのか、気になってさぁ…。」
裕華が電話の向こうでニヤニヤと「ドヤ笑顔」をしている顔が目に浮かんだ…。
「そんなに気になる? じゃぁ、明日の朝8時、学校のバス停で待ってて!」
「裕華、そのバスに乗れるのか?いつも遅いくせに?」
「それも罰ゲームのうち!じゃぁ、楽しみにしていてね。おやすみぃ〜。」
結局、何の罰ゲームがさっぱりわからないまま、一方的に電話を切られてしまった。
ま、いいっかー、明日になればわかるんだろうし…」
月曜日、待ち合わせのバス停には7時55分に着いた。
裕華は多分もうひとつのバス、8時着の便で来るのだろう。
待ち合わせて何が罰ゲームなんだろう?
正直、男としてそういう類の罰ゲームとなれば如何わしい事を想像するのだが、裕華本人が自分を戒めるという罰ゲームをこのバス停で実行するということ自体がよくわからない。
まさか松田聖子並みの超ミニスカートで登校してくるのか?それとも背中に何か文字でも貼って晒し者になるっていうのか?
いかんいかん…おかしな想像ばかり膨らんでしまう…。
やがて、もう1台のバスが到着した。
次々と人が降りる中、裕華の姿らしきものを認識できない。乗り遅れたかな?そう思って先に行こうと足を踏み出した時と思った瞬間、裕華の声が斜め後ろから聞こえた。
「ヒロちゃん、おはよう~!」
裕華の声がする すぐさま後ろを振り向くと…
え?
え?
………。
え? え? え?
ゆ・ゆ・ゆ・ゆ・ゆ・ゆ・ 裕華ぁあ~~~~~~~?
そこには今まで見た事のない裕華がいた。
長かった髪が……。
ストレートで背中くらいまであった長い髪がバッサリ切られていた。
「驚いたぁ、罰ゲーム? 大事にしてた長い髪切っちゃったんだよ。うふふ」
「ど、どうしてそんなことしたの?切れなんて言ってないよ。」
「だからこれが私の罰ゲーム、ヒロちゃんをトシちゃんで振り回しちゃったから、今度は私が振り回されようって思ったの、聖子ちゃん好きって聞いたから、それで…。」
確かに、髪型は松田聖子っぽい。
とはいうもののいわゆる「聖子ちゃんカット」
といわれるものが流行する前なので、あんなクッキリとしたふわふわ&ウエーブではなかったが…この子は僕の為に、そんなことまでしてくれて……。感動のあまり、涙が出そうになった。
「ヒロちゃん、でもね、鏡で見たら結構いい感じなんだよね、気にいっちゃったぁ。だから、罰ゲームにならないね。ごめんなさい。」
「裕華……もういいよ。僕、その気持ちだけで十分満足だよ。とっても似合ってるよ♡」
可愛かった。僕の中では世界一、いや銀河系一可愛く思えた裕華だった。
「そして私、今日はヒロちゃんのいうことを聞くイエッサーロボット裕華です。何でも言ってね♡ 今日一日、ヒロちゃんの自由です。」
罰ゲームを簡単に考えてる裕華…俺も男だ。
そんな事言うと…。
♪お気に召すまま そうよ わたしロボット♪
榊原郁恵の歌が頭から離れない一日であった。
〜第11話に続く〜