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生命力に満ち溢れた島

毎年夏に高校の頃の仲間と行ってる夏の旅行、「俺たちの夏」そっからの派生で俺は長い一人旅に出たんだった。
日本を旅していた時、屋久島には行きたかったんだけれど、スキップしてしまっていた。
ってのをなんとなく話していて、今回はその仲間、あきひとに誘われて屋久島に旅行に行く事にしたんだ。
 
寝ぼけ眼擦って飛行機に乗って鹿児島まで飛ぶ途中、綺麗に澄んだ空の下の富士山を、俺は興奮して目に焼き付けるようにじっと見ていた。

カフェで昼飯済ませてから屋久島を一周しようってなって、まずはヤクスギランド迄ドライブ。

どこを旅していても思っていた事だけれど、土地に根付いている木の太さでも、その土地がどれだけパワーがあるのかがわかる様な気がするんだ。
苔から滴り落ちそうになっている雫が可愛い、すでに愛しい森だ。
それから俺達は千尋の滝へ、遠くに落ちている滝も見事だったけど、それの脇に広がるでっかい岩場もすっごく魅力的だったぜ。

僕等は道幅の偉い狭く曲がりくねった西部林道をなんとか越え、永田のいなか浜へやってきた。
静かに波が浜に打ち寄せる。
ここはウミガメが産卵しに訪れる浜らしい。

さぁ。
縄文杉を観に行こう。

トロッコ道をしばらく歩くと夜が明けてきた。
ヘッドライトを外して朝日を浴びる。
朝露に濡れる苔たち。
川のせせらぎの音。
瑞々しい空気を存分に吸い込んでひたすら歩く。

諦めずに目的地まで辿り着けるか、僕は未だに人生勉強の最中にいる。

森林に包まれていると苔が僕等を見守ってくれているような気持になる。
長かったトロッコ道を経て今度は山道を登って行く。
木々を愛でながら歩く。

ウィルソン株という切り株の中に入って見上げるとハートのマークが見える場所へやってきた。
僕等は刻一刻と縄文杉迄の距離を詰めている。
山奥も奥で、辺りはうっすらと霧に包まれだした。
なんて神秘的な空間なんだ。
雲が山肌に張り付いて太陽の光が入って来ない。
森が一層霧を深くする。

さすが、屋久島。
「世界自然遺産」なだけはあるぜ。

霧の霞む向こうに縄文杉が聳えていた。
樹齢約7200年らしい。
果てしない年数を生き続けている。
なんていう生命力。

屋久島全体から感じる生きる力はこの縄文杉から発せられているような気にさえなってくる。

黄色い落ち葉が水面に浮かんでいる。
水はとめどなく山肌を流れ続ける。
僕は水筒で水を汲み喉に流し込む。
滑らかで優しい山の味がする。

ウィルソン株をもう一度見た時には辺りには僕ら以外には誰もいなかった。
人生の様に、みんなそれぞれの歩幅がある。
自分は自分でいていいじゃないか。

木々は静かな風に揺れている。

宿に帰ってあったけぇ風呂に入って疲れた体を癒した。
これが無茶苦茶気持ち良くて、生きていて良かったって思っている。

新しい朝に僕等は宮之浦の港にいる。
朝日はもう昇っていて港を照らす。
白谷雲水峡迄のバスを待つ間に船と波の声を聴いている。
これから僕等が向かう森は、ジブリの『もののけ姫』という映画のモデルにもなっているって言われている森だ。

この日も嘘みたいに天気が良くてトレッキング日和だった。
贅沢なことに曇りも晴れも、霧も体験していたので、雨が降ったらいいなぁと少し思っていた。

くぐり杉、シカの宿を経て僕等は苔むす森に辿り着いた。
ここはもう美しすぎるし、もう生命力の宝庫って感じ。
見渡す一面森ってのはもちろんだけれど、木々の肌のいずれにも苔が付いていてまだまだ生きようとしている。
共生の森。
争い合わない、何だろ、「それぞれが生きたい様に生きていいんだ」って教えられている様だ。

このコースの目玉の太鼓岩まで登る道が、いきなり急勾配になるのは体に堪えたけど、太鼓岩から見渡す景色は絶景だった。

里に下りているバスの車窓からは虹が見えた。
至れり尽くせりの天気。
好きだ、屋久島。

バイクに乗って宿に一度帰り、荷物を下ろした。
宿のおじさんに「近くに温泉ないですか?」と尋ねると、楠川温泉という所があるらしい。

泉質はなめらかで肌に優しい森の水って感じだったからゆっくり浸かって疲れを癒した。
髪の毛を乾かしながら、夕日が沈む時間を確かめる。
もうそろそろだ。

一湊を越えると、どうやらいなか浜まで辿り着く頃には夕日が沈んでしまいそうなことを察する。
目の前に夕日に射されて黄金色に輝くトンネルが見えた。
時間と自然が作り出す、偶然の絶景だ。
トンネルを抜けた所の東シナ海展望台で僕はクラクションを鳴らして合図をした。

夕日が海に落ちていくのを眺めるのが、どんなに美しい時間か僕は知っている。
もう旅の中で何度もみつめていた。

風に揺れているすすき、海原を見つめる居合わせた人達。
じーっと沈んでいく太陽を見ている。
空にはうっすら恥ずかしそうに白く光る月が出ていた。

僕は飯を食いに宿へ戻り、あきひとはそのまま夜まで星を撮る為に移動して行った。

あぁ。
お茶が沁みる朝だ。

港にコーヒーを飲みに行く前に、屋久島環境文化村センターに寄ってみた。
僕ら本当になんの予定もなく行ったんだけれど、屋久島の自然に関する展示物や、ものすごい大型スクリーンで屋久島の自然についての映像も見る事が出来たから大満足だったんだ。
それから昼飯を食べに小さなカフェに入ると時間はここでもまたゆっくりと流れていて、風が入り口の暖簾を揺らしていた。
僕は背もたれに置いてある本を手に取った。
『夢を叶えるゾウ』これは僕等のバンドが「活動休止」をした時に僕が当時読んでいた本だ。
今までバンドに使っていた時間に、また新しい風が吹きこんでくる。
何か俺にとってはそういう話。
「夢」こいつを大事にして生きて行く事は健康的な事だ。

港では船の出向する合図、「ボォー」って言う声を何度か聴いた。
ラテに溶ける屋久島の氷。
「もうここからどこにも行く宛てはないし、バイクを返してみたけを飲もうぜ」って話に落ち着いて、レンタルバイクのおばさんにさっきの小さなカフェ迄送ってもらって、みたけを水割りで頂いた。

「そう、それでね、同じ顔をしたカップルを二度追い抜いたんですよ」って話をしたら、屋久島に伝わる話をいろいろしてくれた。
霊的なもんが見れる人が屋久島に来ると、見えるって言われているらしい。
森を歩いていると、綺麗な女性に手招きされて着いて行くと遭難してしまうとか、神隠しとか、行方不明者が発見されないとか、まぁいろいろあるらしい。

飛行機が飛び立つ、屋久島は夕暮れに照らされて輝いていた。
鹿児島空港で乗り換えて羽田へ飛んだ。
東京上空から見る東京ディズニーランドやスカイツリーを見ると気持ちが和んだ。

今、きっと時間が来ている。
人生には時に待ったなしで変化が訪れる。
本当に屋久島に行って良かったと思っている。
やっと今の僕に追いついてきた。
体も心も健康に、健やかに時を過ごせるように精進して行こうと思う。

旅は僕に様々な事を教えてくれた。
人との関わり方や、距離の取り方。
新しいものに出会う感動や、選択の連続で切り開かれて行く未来がある事。
全部自分の望んだようにはいかなくとも、望まなければ何にも始まって行かない事。
イメージを手繰り寄せ、それを続ける事。
歩みをやめなければ必ず辿り着く事。
僕の中の昔の僕と交信する時があって、そいつは今でもまだ僕の胸の中で微笑んでくれているんだ。
そいつを喜ばしてあげる事が出来て僕も嬉しいのさ。

自分のタイミングの中でこれを書きあげることが出来た締め括りのいい一年だ。
ここからまた飛躍することが出来る。
みんな、これを見てくれてありがとう。

俺もみんなの幸せを願っている。
感謝してるぜ、また会おう!

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光の中を旅してた
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