国際兵器市場とロシア

東洋書店出版のユーラシアブックレットの「国際兵器市場とロシア」という本を読了し、大変興味深かったためここに概要と私見を記す。


■概要

本書では主に、「冷戦時代の旧ソヴィエト連邦(以下ソ連)から現在のロシア連邦までのロシアにおける兵器が、国際兵器市場においてどのような役割を担ってきたか」を詳細に説明する形をとっている。

日本では戦争への反省という観点から安全保障の学習が長い間妨げられてきたが、戦後70年を迎える日本の防衛体制や兵器輸出の見直しなどにも深く関係する問題であるため、本書は安全保障分野に興味がない方には特におすすめである。

■最近のロシア経済と軍事費

ロシアは2010年時点でGDP世界10位、軍事費は世界5位(対米ドル立名目GDP比3.4%)であり、世界でも上位の軍事力を持つ国家であるが、冷戦時と比較する程ではないという見方が一般的であった。

しかしクリミア併合が起こった2014年以降は西側欧米諸国による経済制裁の影響で基軸通貨ルーブルの価値が暴落し、2013年には7位だったGDPは再び10位に後退している。

ところが軍事費は縮小されるばかりか、2015年には世界4位の水準にまで向上した(もっともアメリカはその後の追加軍事予算だけでロシアの数年分以上の軍事費を投入したが)。

2019年にはアメリカ、中国、サウジアラビア、インド、フランスに次ぐ第6位の軍事費支出額となっている。

■中東とソ連/ロシア製兵器

ロシアの軍拡によって生まれた兵器はいったいどこに向かっているのだろうか。基本的には「アメリカ中心の国際政治体制に反対する国々」が中心である。

例えば、イランやシリアなどはその代表だろう。イランとシリアは共にイスラエルの仮想敵国であり、その為にアメリカからの武器援助を得る事は出来なかった。そこで、欧米諸国よりも比較的安価で性能の良いソ連製兵器を購入していたのだ。

しかしながら度重なる中東戦争での敗北により、ロシア製兵器を見直す動きが最近広まっている。

■中国とソ連/ロシア製兵器

次に、中国である。中国とソ連は同じ共産主義陣営で仲良しだったと勘違いしている方もいるのだが、それは大きな誤りである。

戦後、ソ連は自国の技術者を中国に派遣して軍事技術を提供していたが、後に中国から「中華民族最大の敵」と称されるほどに仲が険悪になるに従って技術者を引き上げた。両国は実際に何度も紛争を起こしていて、お世辞にも仲が良いとは言えなかった。

それが嘘のように、2019年現在は蜜月ともいえる状態を築き上げている。第5世代戦闘機の開発に執心している中国のGDPは現在ロシアの10倍近くなっており、数年後にはアメリカを追い越して世界一の経済大国になる予定であり、経済制裁を加えられて手負いとなったロシアには心強い味方なのだろう。

しかしながら両国とも領土的野心の向く方向性が異なるだけなので、地政学的には潰しあう運命にあることを忘れてはならない。

■インドとソ連/ロシア製兵器

最後にインドについて取り上げる。インドはロシアと直接国境を接しているわけではなく、地政学的に潰しあう運命にはなかったので、現在でも兵器やその技術について活発な交流が続いている。

だがイギリスの旧植民地であるインドがなぜロシア製の武器を輸入しているのだろうか。

冷戦時代、アメリカはソ連と国境を接しているパキスタンの義勇兵を訓練し、ソ連と戦わせていた(ちなみにこの組織が後のアルカイダである)。

パキスタンはインドから分離独立した国家であり、インドとは非常に仲が悪い。なので、パキスタンを援助する欧米諸国の兵器を受け入れることができなかったのだ。

これには結果的に独自に兵器を選択する自由が生まれたので良かったとする見方と、欧米諸国と違う兵器を用いることで共同作戦に支障をきたすという2つの意見がある。

■ソ連/ロシア製兵器の人気は?

昔からロシア製兵器は安価でほどほどの性能を持つとして、主に経済力が大きくない発展途上国から根強い人気がある。現在でもその地位はあまり変わっていない。

ロシアは兵器の輸出量が輸入量を遥かに上回っていることから、輸出大国であることが分かる。

■ロシアと日本

ここ数年、日本人のロシアに関する印象は徐々に変わってきているように感じる。

例を挙げるならば以前は恐怖の対象・赤い共産主義という印象だったのが、中央集権的な半民主国家という印象に変わったという点だ。

国策として反日教育を行っていない影響もあり、国民感情そのものが悪化しているという事はなさそうだ。

しかしクリミア問題、北方領土、シベリア抑留などの問題はいまだ両国の壁となっているので、解決と同時に今よりも交流が深まることを望む。

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