第11回: 2024年のUKロック
第11回は2024年にリリースされたUKロック作品を特集しています。
UKロックのゴッドファーザー的存在であるポール・ウェラー、サイケデリック・ロックを現代に蘇らせたクーラ・シェイカー、25年ぶりにソロアルバムをリリースしたバーナード・バトラー、ストーン・ローゼスのメンバーであるジョン・スクワイアとオアシスのリアム・ギャラガーによるコラボ作品等を特集します。
[今回ご紹介する楽曲]
1.Soul wandering / Paul weller
2024年リリースのポールウェラーのアルバム「66」に収録されている一曲です。楽曲はポールウェラー自身による作曲ですが、作詞はプライマル・スクリームのボビー・ギレスビーが担当しています。このアルバムのジャケットはビートルズのアルバム「サージェントペパーズ・ロンリーハート・クラブバンド」のジャケットを手掛けたピーター・ブレイクが担当をしています。
ポールウェラーは70年代からザ・ジャム、ザ・スタイルカウンシルといったバンドで活躍するミュージシャンで、バンドを解散させた後は89年頃から2024年現在に至るまでソロ活動を続けています。
60年代のイギリスのカルチャーでもある「モッズ」文化に大きく影響を受けていて、ゴッドファーザーにちなんで「モッズファーザー」と呼ばれたりもしています。
ソロになってからのポールウェラーは元々幼少の頃から好んで聴いていたビートルズやキンクス、スモールフェイシズ、トラフィック、ボブディラン、
ニールヤング等のルーツロックに立ち戻り、イギリスのロックサウンドとして現代にバージョンアップさせたサウンドを聴かせるようになります。それが90年代に流行ったブリットポップの波に乗る事になるんですね。
オアシスやプライマルスクリーム、オーシャンカラーシーン等、当時若手だったイギリスのバンド達からリスペクトされる存在となります。
1980年代、1990年代、2000年代、2010年代、2020年代などの連続する五つの年代でそれぞれイギリスのチャート一位を取ったミュージシャンとしては、ジョン・レノンとポール・マッカートニー、そしてピンクフロイドのデヴィット・ギルモアについで四人目のミュージシャンになるそうです。
彼の人間性を表すエピソードは沢山あるのですが、その一つとして、
イギリス王室からポールウェラーに勲章を授与するオファーがあったのですが、それを「自分向きではない」と断った事が過去に話題になりました。
(過去に勲章授与を断ったデヴィット・ボウイと、イギリス政府がベトナム戦争時にアメリカを支持した事に反対して勲章返還したジョン・レノンも過去に話題になりました)
2.Natural magick / Kula shaker
クーラシェイカー2024年リリースのアルバム「natural magick」収録の一曲となります。90年代に二枚のアルバムをリリースした後、活動休止して2006年頃に復活を果たしたクーラシェイカーなのですが、オリジナルメンバーであるキーボード担当のジェイ・ダーリントンが90年代以降バンドを離れていたのですが、2022年からクーラシェイカーに復活しています。
そのためか、この曲も90年代当時のクーラシェイカーを彷彿とさせるサイケデリックなガレージロック・スタイルのオルガンプレイを聴くことが出来ます。
このジェイ・ダーリントンのオルガンプレイはドアーズ等の60年代サイケデリックロックを彷彿とさせるサウンドなので、そのためか、彼は2000年代はオアシスのバックバンドの一員として採用されていたり、オアシス解散後のメンバー達で結成されたbeady eyeというバンドでもセッションやライブで参加しています。このnatural magickのサウンドは彼がクーラシェイカー に復活した事もバンドサウンドに大きな影響を与えているように感じられます。
3.Deep emotions / Bernard butler
バーナード・バトラー2024年リリースのアルバム「Good grief」からの一曲です。
バーナードバトラーは90年代イギリスでブリットポップ・ブームがあった頃に、スエードというバンドでギタリスト兼作曲家として活動後、94年にスエードを脱退して、二枚のソロアルバムをリリースしています。
二枚目のソロアルバム「friends and lovers」というアルバムが特にブリティッシュロックとしてのアレンジが秀逸で、学生の頃、個人的にかなり聴いてました。ブリットポップのブームから出てきた人たちの中で一番アレンジが上手いと思っていました。
1999年リリースのアルバム「friends and lovers」は有名なミキサーが参加しています。ニルヴァーナの「never mind」やジェフ・バックリーの「grace」といったアルバムでミキシングを手掛けていたアンディ・ウォレスという人がミキシングを担当しています。このアンディ・ウォレスがミキシングを担当した作品は必ず売れると言われるほどの人なのですが、アルバム全体のアレンジとミキシングのバランスが素晴らしいです。
バーナードバトラーはその90年代の頃はとても若者の雰囲気がある佇まいと歌だったのですが、それから25年が経ち三枚目のソロアルバムが今年リリースという事で、このdeep emotionsもそうですが一定の年齢になり、ほろ苦さも感じさせるヴォーカルと楽曲となっています。アルバム全体もかっちりアレンジをするというよりは枯れた部分を素直に出しているようなアコースティック作品となっています。
本作は彼が若い時に歌っていた友人や恋人に対する曲ではなくて、自分の家族や娘に対して親の視点で歌っています。ここ25年間バーナードはプロデューサー業などの裏方に徹していて色んな作品で活躍をしています。
2008年にイギリスの女性ヴォーカリスト”ダフィー”のアルバムでプロデュースを手掛け、500万枚のセールスを達成してグラミー賞にもノミネートされています。
4.Just another rainbow / Liam gallagher, John squire
オアシスのボーカル、リアムギャラガーと、80年代のブリティッシュロックを代表するバンド・ストーンローゼスのギタリスト兼作曲家であるジョン・スクワイアという二人のコラボアルバム「liam gallagher&john squire」からの一曲です。今年唐突にリリースされました。
曲はとてもストーンローゼスのアルバムに入っていそうなサウンドなのですが、作曲している人が同じジョン・スクワイアなので当然です。サイケデリックなサウンドを出していた中期ビートルズの様なサウンドとなっています。
オアシスのノエルギャラガー、リアムギャラガー兄弟は元々ストーンローゼスや、ポールウェラーが結成していたザ・ジャムといったバンドの熱烈なファンだったんですね。そこで、今回リアムとジョンスクワイアのコラボが生まれたようです。
リアムギャラガーは実は自分のブティック/洋服屋さんを持っていて、日本にも青山などに支店があって僕もよく服を買いにいっていたのですが数年前に日本の店舗は撤退してしまいました。
そのブティックの名前が「pretty green」という名前なのですが、これはポールウェラーがやっていたバンド、ザ・ジャムの楽曲名”pretty green”からとっているんですね。(彼なりの先輩たちに対するリスペクトの表し方なのかも知れません)
最近、再結成が話題になっているオアシスなのですが2009年に一度解散して、その後はお兄さんのノエルギャラガー以外のメンバーでbeady eyeという新バンドを結成して、二枚のアルバムを出しています。これがセールス的に振るわなかったためか、アルバム二枚リリース後にこのバンドは解散されて、リアムギャラガーはソロアーティストになります。
一方でお兄さんのノエルギャラガーは、ノエルギャラガーズ・ハイ・フライングバーズという名義でコンスタントにアルバムをリリースしています。
[Happy Sad / 草野洋秋 プロフィール]
https://www.happysadsong.com/
Happy Sad ホームページ:
- HAPPY SAD / Sound designer Hiroaki Kusano (happysadsong.com)
作曲作詞、歌、楽器演奏、録音、ミックスまで一人で行うというスタイルで活動する サウンドデザイナー/シンガーソングライター。2013年、表参道ヒルズにて開催されたMTVとLenovo 主催のクリエイターコンテスト「CO:LAB」にて、自作曲 「Everyday」が国内DJ部門優勝/ファイナリストに選出される。
並行してゲーム作品のサウンドクリエイター職として多数の作品でサウンドディレクションとサウンド制作に参加している。
(Netease Games, Funplus, NHN Playart株式会社, 株式会社スタジオキング,
株式会社ノイジークローク等のゲームパブリッシャーやサウンド制作会社においてサウンドディレクター/サウンドデザイナーとして数多くのコンテンツ制作に関わる)
近年では、CM広告音楽やTV番組BGM、海外アーティストの楽曲リミックス制作等にも参加。BGMや効果音の制作、映像に対して音を付けるMA作業、そして作品全体のサウンドイメージを提案 / 映像側や企画側の要望をヒアリングして音に落とし込むサウンドディレクション業務まで包括的に対応。