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第5回:中東周辺地域の音楽

第5回目の特集は「中東周辺地域の音楽」です。
インド音楽と英米ロックに影響を受けたバンドGlass beams、ムガーム音楽とジャズを混合させたアゼルバイジャンのミュージシャンVagif Mustafa ZadehとAziza Mustafa Zadeh親子、イスラム神秘主義の音楽カッワーリの歌い手であるパキスタンのミュージシャンNusrat Fateh Ali Khan等をご紹介します。

[今回ご紹介する楽曲]


1.Mahal / Glass Beams

インド音楽と英米ロックの影響を受けたオーストラリア、メルボルンのバンドです。彼らの音楽は中央アジア・中東を彷彿とさせるサウンドと、メンバー全員のマスクを被っているルックスが相まって不思議な雰囲気を醸し出しています。

メンバーの一人、ラジャン・シヴァルは父親がインド出身でインド音楽や英米の音楽のレコードコレクションを持っていて、幼少期からそれらを聴きながら音楽的な影響を受けてきたようです。(ラヴィ・シャンカールやジョージハリソン等の音楽を聴いていたようです)

この作品「mahal」はイギリスの有名なインディーズ・レーベルであるNinja Tuneと契約して2024年にリリースされたEPです。
今年(2024年)日本で行われたフジロックでも来日参加していて話題になりました。僕が彼らを知ったのは去年、Instagramから流れてきた彼らのライブ演奏する映像を観たからでした。まだEPを数枚リリースしたばかりでこれから更に面白い音楽を聴かせてくれる事でしょう。

2.Ladies of Azerbaijan / Aziza Mustafa Zadeh

アジザ・ムスタファ・ザデは旧ソ連構成国だったアゼルバイジャンの首都バクー出身のミュージシャンです。
父親のヴァギフはジャズ・ピアニストで、母親のエリザはフォーク・ミュージックの歌い手だったという事で音楽的な環境で育ちました。
1988年のセロニアス・モンク・コンペティションで三位入賞。1991年に初リーダー作「Aziza」をリリース。この「Ladies of Azerbaijan」を含むアルバム”Shamans”は2002年のリリース作品で、全体的に瞑想的で美しい音楽が広がります。

彼女の個性はアゼルバイジャンの伝統音楽であるムガーム音楽とジャズを掛け合わせたサウンドで、瞑想的・情熱的な旋律が表れる所です。ピアノを演奏しながら、時にスキャットの様な歌を歌い世界観を伝えてくれます。

先日、中東を旅する時にその周辺国の音楽を知りたいと思い、調べていた中で彼女の音楽を知りました。リリースされているものを一通り聴いてみたのですが、このアルバム「Shamans」は特に楽曲群が美しいメロディを持つものが多く、聴く者を彼女のピアノと歌が持つ世界観へ深く誘われるような作品です。Spotifyで聴いていたのですが帰国してからCDでも購入してしまいました。

3.Ana / Vagif Mustafa Zadeh

ヴァギフ・ムスタファ・ザデは先ほどご紹介しましたアジザ・ムスタファ・ザデさんのお父さんです。
アゼルバイジャンの伝統音楽であるムガーム音楽とジャズを掛け合わせて、ムガーム・ジャズと言われる音楽を演奏したミュージシャンです。
(ムガーム音楽はペルシャの古典音楽をルーツとする旋律を持つ音楽です。)

昔、アゼルバイジャンは旧ソビエト連邦の構成国でしたが、その当時ジャズは「資本主義の音楽」として政府から禁止されていました。スターリンの死後、1950年代前半頃から少しずつジャズは解禁されてゆきました。
ソビエトの検閲があった時代ですが、アゼルバイジャンの首都バクーは他の都市よりも安全にジャズを楽しめる街としてジャズミュージシャンが集う場所だったようです。

当初はジャズの即興音楽をピアノで弾いていたようですが、次第にムガーム音楽をジャズに混ぜ合わせてゆく演奏スタイルになっていったようです。
ムガーム・ジャズの第一人者となった後、ライブ演奏後に39歳の若さで心臓発作で亡くなってしまいます。
ヴァギフの娘さんであるアジザ・ムスタファ・ザデは父親の音楽を引き継ぎ、彼女の個性と共に発展させた音楽を制作しています。
(アジザ・ムスタファ・ザデのレコード売り上げ枚数は1500万枚を越え、大きな成功を収めています。)

4.Fault lines / Nusrat Fateh Ali Khan

イスラム教神秘主義の音楽であるカッワーリーの歌い手、パキスタン出身の名シンガー、ヌスラット・ファテアリ・カーンです。
(ヌスラットはカッワーリーでは最多の音楽アルバム/125枚リリースしており、ギネスブックに載っています。インド、パキスタンで有名なシンガーであり、西洋で公演を行った最初の南アジア人歌手の一人だそうです。)

この作品はアルバム「Mustt Mustt」(1990年)に収録されている一曲で、
アルバム全体も非常に瞑想的な作品です。繊細でもあり、情熱的でもあるこのサウンドはリスナーを異なる世界に連れて行ってくれるでしょう。
映画作曲家のマイケル・ブルックとヌスラットとのコラボ作品で、イスラム教神秘主義と欧米のサウンドとのミックス、フュージョン的な内容になっています。そのため、リズムやトラックの作り方が多少かっちりとしたプロデュースとなっているようです。
(元々はイギリスのミュージシャン、ジェネシスのメンバーでもあったピーター・ガブリエルが双方にコラボを提案したという経緯があり、制作につながりました。このアルバムはガブリエルが持っているレーベル「Real world records」からリリースされています。1991年ビルボード・トップ・ワールド・ミュージック・アルバム・チャートで14位。)

ヌスラットの作品を初めて聴いたのはイギリス・ブリストルの音楽ユニット、マッシブアタックのメンバーが作ったDJアルバムに入っていたのがきっかけです。(”DJ - Kicks / Daddy G”というアルバムの中で楽曲「Mustt Mustt」がリミックスされています。このDJアルバムもソウル、レゲエ、トリップホップの名作が多数収録されており、非常に素晴らしい作品です)
”Mustt Mustt”はイギリスでクラブヒットとなり、パキスタンのウルドゥ語で初めてイギリスのチャートに到達した曲になりました。


[Happy Sad / 草野洋秋 プロフィール]

https://happysadsong.com/

Happy Sad ホームページ:
- HAPPY SAD / Sound designer Hiroaki Kusano (happysadsong.com)

作曲作詞、歌、楽器演奏、録音、ミックスまで一人で行うというスタイルで活動する サウンドデザイナー/シンガーソングライター。2013年、表参道ヒルズにて開催されたMTVとLenovo 主催のクリエイターコンテスト「CO:LAB」にて、自作曲 「Everyday」が国内DJ部門優勝/ファイナリストに選出される。

並行してゲーム作品のサウンドクリエイター職として多数の作品でサウンドディレクションとサウンド制作に参加している。
(Netease Games, Funplus, NHN Playart株式会社, 株式会社スタジオキング,
株式会社ノイジークローク等のゲームパブリッシャーやサウンド制作会社においてサウンドディレクター/サウンドデザイナーとして数多くのコンテンツ制作に関わる)

近年では、CM広告音楽やTV番組BGM、海外アーティストの楽曲リミックス制作等にも参加。BGMや効果音の制作、映像に対して音を付けるMA作業、そして作品全体のサウンドイメージを提案 / 映像側や企画側の要望をヒアリングして音に落とし込むサウンドディレクション業務まで包括的に対応。

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