第12回: 新年爽快なBlue sky music特集
第12回は2025年新年という事で、気分を高揚させる爽快な名曲達を特集しています。
CM等でもお馴染みの名曲、ELO「Mr.blue sky」やイギリスのバンドサウンドでエバーグリーンなメロディを聴かせるThe La’s「There she goes」。
夢を見るような優しい歌とコーラスを持つRodger Nichols & the small circle of friends「Don't take your time」、ギターのカッティングとホワイトソウルなグルーヴが印象的なTahiti80「Heartbeat」など計4曲。
[今回ご紹介する楽曲]
1.Mr.blue sky / Electric light orchestra (ELO)
エレクトリック・ライト・オーケストラの1977年リリースのアルバム「アウト・オブ・ブルー」に収録の一曲です。
曲の冒頭では「今日の天気は晴れの予報です」という、ラジオのナレーションが英語で入っています。「かつては憐れだったこの街に、太陽の光が輝いている。ミスター・ブルースカイ、君と過ごせて楽しいよ。」と前向きな内容を歌っております。
サウンド的には、曲もアレンジもかなりビートルス直系の音楽スタイルです。後半に行くに従って、大胆な展開があったり、大げさなコーラスが続いたりという部分も後期のビートルズを彷彿とさせます。とてもポップで爽快な楽しい一曲です。
このエレクトリック・ライト・オーケストラ、通称ELOですが、70年代から80年代の中ごろまで全米トップ40に入るヒット曲を量産したグループとしてギネスブックにも載っていました。曲がとてもポップなんですね。
リーダーのジェフ・リンという人がいるのですが、この人はプロデューサーとしても優秀な人で演奏も歌もアレンジもプロデュースも一人でこなしてしまうという、自宅録音ミュージシャンの鏡みたいな人です。
彼は80年代後半にトラヴェリング・ウィルベリーズというスーパーバンドを結成します。メンバーはなんとビートルズのジョージ・ハリソン、ボブ・ディラン、トム・ペティ、ロイオービンソン(プリティウーマンの作曲者)、そしてジェフ・リンというメンバー構成でした。
メンバー1人1人が有名で、バンドのフロントマンを務めてきた人達です。
96年頃にビートルズのアンソロジーアルバム(過去のデモやスタジオ未発表曲などを集めた作品)
が三枚リリースされるのですが、そこで新曲として発表された楽曲のプロデュースも手掛けています。
ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリソン、リンゴ・スター等、ジョンレノン以外のメンバーのプロデュースも手掛けていて、ビートルズメンバーに限りなく近い場所にいる人です。ビートルズファンでビートルズの仕事も出来てしまったというとても幸せな人ですね。
ジェフリンの曲を聴いていると、ビートルズのどの部分が良いアレンジなのかという事をとても分析できている人だという事が曲から感じられます。ビートルズのメンバーよりも客観的にプロデュースができるという面でも良い人選だったのだと思います。
2020年代の現在でもELOとしてアルバムをリリースしています。
2.There she goes /The La's
88年にリリースされたThe La’sのシングルThere she goesです。日本でもブリティッシュロック系のクラブイベントがあると、よく曲がかかっていました。
この曲を含む彼等唯一のアルバム「The La’s」をリリースして、バンドは消滅してしまいます。
所属していたレーベルは著名なプロデューサーを立ててこのアルバム制作をしていましたが、バンドはその出来に納得が出来ず、レーベル側ともめてしまいます。そのままバンド消滅となったのですが、レーベル側がプロデューサー(U2やトーキング・ヘッズ、XTC等を手がけたスティーヴ・リリーホワイト)に制作を続けさせて、結局アルバムだけはリリースされます。
バンド的には不本意な仕上がりだったようですが、評論家の評価は高く、現在まで残る名曲になっている面でも成功だったと言えると思います。
バンドは2005年に一度再結成されますが、ライブ活動後に再度消滅して今に至ります。
ベースを担当していたジョン・パワーは、La‘s消滅後にCastというバンドを結成して活動を続けています。ポップなブリットロックなので、オアシス等を好きな方は結構気に入ると思います。
今、再結成をアナウンスしているオアシスですが、オアシスのライブでオープニングをCastが務めるという話もあるそうです。
3.Don't take your time / Rodger Nichols & the small circle of friends
カーペンターズが歌っている「We’ve only just began」を作曲した作家として知られるロジャーニコルスのユニット、Rodger Nichols & the small circle of friendsです。
日本の音楽好きなファンからも人気の作品で、日本の渋谷系と言われていたミュージシャンやDJ達が高い評価を与えていたアルバムです。
A&Mレコードというレーベルから出ている作品なのですが、70年前後のA&Mレコードはカーペンターズやセルジオ・メンデス、ポール・ウイリアムズ等のソフトな優しいサウンドを聴かせる音楽を生み出していて、後になって日本では「ソフトロック」というジャンル分けをされたりしています。Rodger Nichols & the small circle of friendsはソフトロックのアーティストという形で日本では認識されています。
この作品のプロデューサーはトミー・リピューマという有名な人なのですが、後にジャズギターのアーティスト、ジョージ・ベンソンの「Breezin’」というとても良く売れた作品のプロデュースを手掛けます。「Breezin’」はメロウで洗練された内容なのですがその洗練されたプロデュースワークはRodger Nichols & the small circle of friendsをプロデュースした経験から繋がっているわけなんですね。
あと、このトミー・リピューマさんは日本の音楽界にも少し関りがあります。彼が来日した時に新宿で行われていたフュージョン系のライブイベントでYMOのライブを見るんですね。そこで、彼はYMOのサウンドに可能性を感じて、YMOの海外進出に間接的に繋がっていきます。
話がちょっとそれますがYMOの1STアルバムは日本版とアメリカ版の二種類があってサウンドが全然異なります。
アメリカ版はアル・シュミットというジャズ系のエンジニアさんがミキシングしているので、とても空間の奥行を感じられる壮大な作品になっています。先ほど話に出たジョージ・ベンソンの「Breezin’」が76年の作品なのですが、YMOの1STアルバムが78年の作品です。70年代はアメリカでは空間の奥行きを聴かせるイージーリスニング・ジャズが流行っていた事もあり、その影響がアメリカ版のYMOの1STアルバムのサウンドにとても出ています。
YMOのアルバムだけ聴いていると、何故アメリカ版の音が日本版と異なるのか意味がわからないと思うのですが、一連の歴史的なサウンドの遷移と実際にそれぞれの作品を聴くと、どの様な意図がサウンドにあったのかを知る事が出来ます。
4.Heartbeat / Tahiti80
フランスのバンドTahiti80が1999年にリリースしたアルバム「Puzzle」からの一曲になります。2000年前後に日本の色んなお店で、おそらく有線でよくこの曲がかかってました。
日本のミュージシャン、コーネリアスにデモテープを渡した事で、彼のコンピレーションアルバムにTAHITI80の曲が入ることになります。そういう縁があったからだと思うのですが、このHeartbeatのリミックスはコーネリアスが担当しています。
TAHITI80は80年代にイギリスのマンチェスターから出てきたバンド、ストーンローゼスやハッピーマンデーズ、そしてマイ・ブラッディバレンタイン、ライド、ティーンエイジファンクラブ等のバンドをよく聴いていたとインタビューで語っています。この1stアルバムでは60年代ソフトロックや80年代ブリティッシュロックをバージョンアップさせたサウンドを聴かせています。
ボーカルのささやくような歌声は、60年代イギリスのバンド、ゾンビーズのメンバーであるコリン・ブランストーンに影響を受けたとインタビューで明かされています。
(古典的な60年代のブリティッシュロックやアメリカのモータウンなどのブラックミュージックの影響も感じさせる楽曲もこの後にリリースされるアルバムの中に出てきます。)
この作品のミキシングを手掛けているのがトーレ・ヨハンセンという人で、90年代に流行ったカーディガンズというスウェーデンのポップバンド、いわゆるスウェーディッシュ・ポップのサウンドを作った人で、その名残がTAHITI80の1STアルバムのサウンドに出ています。粒立ちの良いポップなミックスと明瞭で爽やかなサウンドが特徴です。
[Happy Sad / 草野洋秋 プロフィール]
Happy Sad ホームページ:
- HAPPY SAD / Sound designer Hiroaki Kusano (happysadsong.com)
作曲作詞、歌、楽器演奏、録音、ミックスまで一人で行うというスタイルで活動する サウンドデザイナー/シンガーソングライター。2013年、表参道ヒルズにて開催されたMTVとLenovo 主催のクリエイターコンテスト「CO:LAB」にて、自作曲 「Everyday」が国内DJ部門優勝/ファイナリストに選出される。
並行してゲーム作品のサウンドクリエイター職として多数の作品でサウンドディレクションとサウンド制作に参加している。
(Netease Games, Funplus, NHN Playart株式会社, 株式会社スタジオキング,
株式会社ノイジークローク等のゲームパブリッシャーやサウンド制作会社においてサウンドディレクター/サウンドデザイナーとして数多くのコンテンツ制作に関わる)
近年では、CM広告音楽やTV番組BGM、海外アーティストの楽曲リミックス制作等にも参加。BGMや効果音の制作、映像に対して音を付けるMA作業、そして作品全体のサウンドイメージを提案 / 映像側や企画側の要望をヒアリングして音に落とし込むサウンドディレクション業務まで包括的に対応。