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90年代にカーペンターズを再評価させたドラマ「未成年」とリチャード・カーペンター@ビルボードライブ横浜

今年に入ってからずっと続いていた自分的カーペンターズ・ブームのハイライトとも言える瞬間がやってまいりました。リチャード・カーペンターのソロ・ピアノ・コンサートです。会場の「ビルボードライブ横浜」には初めて行きました、と言うか同じ馬車道の赤レンガ倉庫エリアのため、かつての「モーションブルー横浜=ブルーノート横浜」と勘違いしていました。
うーむ、横浜は埼玉県民には難しい‥‥。

今回参戦する公演は最終日の最終セット1回のみに定め、ステージに近いちょっとお値段高めの席をオファーしておきました。すると偶然にも同席された男性3人組の方たちも同じ音楽業界の方だったので、コンサートの開演まで楽しいおしゃべりをして過ごすことが出来ました。そしておもむろに照明が落ちてオープニングビデオが始まりました。ビデオの内容はカーペンターズのバイオグラフィーを写真やハーブ・アルバートや関係者のコメントで紹介する感じのものだったと思います。ビデオは割とあっさり終わり呼び込みの英語のアナウンスがありリチャード・カーペンターが会場に入ってきました。

コンサートの内容についてはLonesome Cowboyさんの「ビルボードライブ大阪」での記事が詳しいので引用させていただきます。

横浜の最終セットも「(They Long to Be) Close To You」で始まりました。Lonesome Cowboyさんの記事でもあるように1曲づつリチャード自身の解説、そして低い声のお姉さんの日本語通訳が入る形になります。横浜では2曲めに初期曲「One Love」のディズニーランドでのアルバイト・エピソードが語られ、3曲めが「Superstar / Rainy Days and Mondays」のメドレーだったと思います。そしてこの後に話題は76年に一気に飛び「I Need To Be In Love(邦題『青春の輝き』」の話題になります。

この曲が最初に収録したアルバム「見つめあう恋」(A Kind of Hush)が出た1976年について思い起こせば自分は中二病全開の14歳、クイーン、キッス、エアロスミス(エンジェル)も全盛期、そしてセックス・ピストルズなどのパンク・ロック勢の登場、ディープ・パープル、レッド・ツェッペリン、イエス、ジミヘン、クリーム、ジェフ・ベック、ピンク・フロイドなどの先輩たちが聴いている本格的洋楽ロックへ興味が渦巻いており、小学生の頃にあれほど夢中だったカーペンターズにはすでに物足りなさを感じていた頃。特に先行シングル「見つめあう恋」もまた60年代曲のカバーだったためあまり興味を持てずアルバムもちゃんと聴くことも無く、「I Need To Be In Love(邦題『青春の輝き』」のような素晴らしい曲が収めされていることはかなり後まで気がついていなかったように思います。

さらに時を経て20年後の1990年代、レコード会社に就職し音楽業界で働き始めた時代です。J-POPブームは頂点を極めておりそのブームの要因の一つとされるテレビドラマへのタイアップソングも全盛を極めておりました。ありとあらゆる人気アーティストが人気ドラマの主題歌を歌い、また新たなシンガー・ソングライターや新人バンドがテレビドラマのタイアップをきっかけに一気に人気者に駆け上がったりするのを見て、ドラマ・タイアップの影響力が凄まじかったことを鮮明に覚えています。今のバズる感覚よりもっと大きく、1クール=3ヶ月ごとに「うっせえわ」と「ドライフラワー」と「夜の駆ける」クラスのヒット曲が代わる代わる登場するイメージです。「次のクールは誰があの枠のドラマの歌を歌うのか?」ということも業界の仲間同士の話題になったものでした。

そんな中、脚本家・野島伸司さんが関わるドラマは特に主題歌や劇中歌が社会的に話題になっていました。CHAGE and ASKA「SAY YES」が当時のシングル最高売上を記録した『101回目のプロポーズ』(1991年)から始まり、全編・浜田省吾さんの楽曲で固められた『愛という名のもとに』(1992年)、チューリップの1975年の隠れた名曲「サボテンの花」をリバイバルヒットさせた『ひとつ屋根の下』(1993年)など大ヒットドラマを連発しますが、そんな野島伸司シリーズの人気の頂点となったドラマがTBS金曜ドラマ「未成年」でした。

『未成年』(みせいねん)は、TBS系列の「金曜ドラマ」枠(毎週金曜日22:00 - 22:54、JST)で1995年10月13日から12月22日まで放送された日本のテレビドラマ。主演はいしだ壱成。同年代の若者5人を中心に、青春の過程で起こる様々な苦悩と葛藤を生々しく描いたこの作品は、出演芸能人の出世作としても知られている。全11回。
脚本 野島伸司
演出 吉田健 加藤浩丈 金子与志一
出演者
いしだ壱成 香取慎吾 反町隆史 河相我聞
北原雅樹 桜井幸子 遠野凪子 朝岡実嶺 浜崎あゆみ
谷原章介 宇梶剛士 西岡徳馬
音楽 千住明
プロデューサー 伊藤一尋
放送期間 1995年10月13日 - 12月22日
放送時間 金曜 22:00 - 22:54

若者の青春群像劇として放映当時に大ブームを巻き起こし、平均視聴率は20.0%、第8回は最高視聴率23.2%(関東地区 ビデオリサーチ調べ)を記録した。後年、中居正広は本作を「慎吾が出てたドラマの中で一番好き」と絶賛している。

主題歌、挿入歌共にカーペンターズの楽曲が使用されている(ドラマのヒットを受けて発売されたベスト盤は300万枚のセールスを記録した)。
オープニング、エンディング
『Top of the World』
オープニング(最終話以外)。エンディング(最終話のみ)。
『I Need To Be In Love』(邦題:青春の輝き)
エンディング(第8話と最終話以外)。オープニング(最終話のみ)。
『Desperado』(邦題:愛は虹の色)
エンディング(第8話)。第9話で瞳が赤ん坊を出産し、勤たちが喜ぶシーンの挿入歌としても流れる。

Wikipedia「未成年(テレビドラマ)」より

後に大活躍する若手俳優が演じる若者たちの苦悩を描いた群像劇ドラマの人気も凄まじかったですが、全編でカーペンターズの楽曲が使われまくりしました。当時の10代20代でカーペンターズを知らなかった若い世代にも曲が届いたことでベスト盤売上300万枚という70年代の全盛期にも引けを取らない実績を作り出したことはカーペンターズの持つ音楽の普遍的な素晴らしさともに良い音楽をきちんと受け止められる日本人の素晴らしい耳のおかげだったと思います。当時はJ-POPシーンも充実し、CDの再発や復刻も進んだ日本のポップ音楽市場の成熟期でもあったことがこのような奇跡的で感動的なカーペンターズ再評価劇を産んだのだと個人的に思います。加えて古い海外のヒット曲を新しい映像や映画に使うことには様々な障壁があり、また大変に高い音楽使用料とかも発生するのですが、アーティストサイドを説得しそれらの障壁を乗り越えた日本の音楽出版社やドラマのスタッフの影なる努力にも頭が下がります。洋楽のアーティストでこれほどまで日本国内で幅広い支持を得られているのはビートルズとカーペンターズだけなのではないでしょうか。

ドラマ 「未成年」 ED カーペンターズ 「青春の輝き」

ドラマの話がちょっと長くなりました。

ライブに戻りますと、リチャードもこの曲があまりヒットしなかったけどカレンが一番好きだった曲、ぜひ使いたい言ってくれたドラマの監督、そしてこの曲に光を当ててくれた日本の方々に感謝を込めて演奏しますと言って弾き始めました。ここで改めて感じたのがリチャード自身が弾くピアノはカレンが歌ったこの曲の主旋律やハーモニー、様々な楽器による装飾音が全て含まれていてまるでその構造を教えてくれたかのような演奏をしてくれました。少し指がもつれたりもしましたがオリジナル作曲者/編曲者としての考えがよくわかるデモテープのようなプリミティブな響きを持っていたように思います。

ここで先のLonesome Cowboyさんのライブレポート記事にも書かれているような観客とのQ&Aコーナーとなったのですが、最終ライブだけにビルボードライブ横浜にはコアなお客さんが集まっていたようで手を上げた数も多かったですし、5人ほどのマニアックな、時には個人的な質問がなされましたがリチャードは一つ一つにとても丁寧に答えていました。中にはカレンのレーザーホログラフィなどど一緒にライブコンサートを行う予定は考えているかなども聞かれてました。大変興味深かったですがここで15分〜20分ぐらいの時間をかけてしまったため、後でセトリを見ると他の日に比べ数曲ほどカットされてしまったようなのでちょっと残念でもあります。

そしてここでリチャードのお嬢さん2人、トレーシーとミンディが登場してカレンの最初のレコーディング曲として知られる「I'll Be Yours」 と向かいにセッティングされているウーリッツァーエレピに鍵盤を変えて弾いた 「Top Of The World」の2曲を歌いました。トレーシーとミンディはプロフェッショナルなシンガーではありませんでしたが声の響きはいいものを持っており二人のハモリにリチャードの声が加わると正しくカーペンターズのそれでした!そしてウーリッツァーエレピの音もまんまカーペンターズサウンドでしたね。リチャードはローズピアノじゃないんですね。

カーペンターズのデモテープから

さらに末っ子の一番長身のお嬢さんのテイラーさん?も加わりオリジナルカラオケ付きで「Jambalaya」を歌います。テーブルに歌詞も配られており手拍子で一体となって盛り上がりました。3人のお嬢さん&リチャードが一体となったコーラス・ハーモニーは正にカーペンターズ一家そのものでした!そのままお嬢さんたち3人は退場し、リチャードが最後に弾いたのが「Only Yesterday」、これもオリジナル作曲者/編曲者の意地を見せる大きなスケールのピアノで締めくくりました。大きな拍手で一旦リチャードもステージを後にしますがそのままトレーシーとミンディの二人を連れてステージに登場、「この大切な曲を演奏するのを忘れてました!」とボケをカマしながらアンコールの「Yesterday Once More」を演奏しました。最後のサビは一旦止めて「全員で歌いましょう!」というリチャードに合わせて「Every Sha-la-la,Every Wow-wow〜」と会場全員で歌う感動の大団円でした!最終ライブのオーディエンスはちゃんとハーモニーで歌える人もいて凄いです(笑)。演奏が終わりアンコールの拍手もけっこう粘ったのですがやはり時間オーバーなのかダブル・アンコールは無しで終了しました。

大変楽しいひとときでした。テーブルをご一緒した3名の方と連絡先を交換して写真を撮って別れました。4月だというのに外は冷たい雨でした。リチャードがライブ中に話してくれたことで印象に残っているのが「カレンがもし今生きていたら、73歳。でも彼女は今でも完璧にその声を聴かせてくれたと思います!」。もはや叶わないことですがもう一度だけ生でカレンの歌声を聴いてみたかったとしみじみ思う帰り道でした。

最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!