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あの夏はもう2度と来ない。Never come the summer again.<海野教授の華麗なる冒険シリーズ>
--------TIKIの怒り
もうひとつのバージョン2
登場人物
海野洋彦
パンパシフィック大学ハワイ校 環太平洋環境工学教室教授
物理学者であり、考古学、音楽、スポーツそして海を愛する。週末はハワイ諸島の小さな島に住みクルーザーで大学に通勤している。10年前にハリケーンよる海難事故で妻と長男を亡くしそれ以来、島で研究に没頭その内容はさだかではない。また彼は、”太平洋に散らばる小さな島々に生きる人々は、古代に栄えた環太平洋文明の末裔である”と考え、太平洋の島々と海中の遺跡の調査研究とポリネシア、ミクロネシア、メラネシア、アジア、そして日本の優秀な若者たちを教室に集め、”その血のなかにながれる文化の誇りを忘れるな”と呼びかける。
デーヴヨラナ ワイキキに大きなカジノを持つネイティヴハワイアン
カメハメハクラブというネイティヴハワイアンのための意識向上団体の会長で神聖な神の丘を守ろうとするが、、。
ハナ ヨラナ
ワイキキに大きなカジノを持つネイティヴハワイアンデーヴヨラナの娘
パンパシフィック大学ハワイ校 芸術科でテキスタイルを学ぶ父の意識の変化に気づき心を痛める。
ジェフリーホワイトJr.
ハワイ島のミネラルウォーター、マウナスプリングス社の2代目。
父、ジェフリーホワイトシニアはデーヴの恩人、その弱みにつけ込んでデーヴの管理する聖なる丘をレジャーランド開発させようと画策する。ロコサーファー時代からマフィアとのつきあいがある。
タカ
日系四世、ハナの小さなボーイフレンド。11才、カジノで皿洗いをしている。正義感あふれる優しい少年。
ダイロク
伝説のサーファー、いまはしがないサーフショップのオヤジ。なのにサファイアの幼なじみ、若いのに達観しているからか。
ニルバーナ
ダイロクの飼っているサーファードッグ、老犬。ダイロクの保護者。
サファイア
本名、長岡亜沙美、黒崎平八郎の末の孫。
環太平洋環境工学教室に助手として学ぶ、マリンスポーツと格闘技が得意なおてんば娘、一本気な性格は祖父ゆずり、幼なじみのボーイフレンド、ダイロクがワイキキでサーフショップを経営してるがあまりその気が無い。実家は東京、母と姉達がいる。
トガ
ポリネシアの小さな島の若者、
パンパシフィック大学ハワイ校 環太平洋環境工学教室の学生、人のよい優しい性格ゆえに留年する。
山野音彦
海野の音楽仲間、
親友でもある彼は大学の後輩、天才的レコードコレクター。
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あらすじ
ハワイ諸島のはずれの小さな島にやってきた海野教授とタカ、そしてニルバーナ。ここは伝説の4人の祈祷師のひとりカプニの島と言われている。
海野はこの島のTIKIと力の宿る石を調査している。タカとニルバーナはその間この小さな島を散策している。湧き水のしみ出る岩のまわりにあまり見たことのないかわいい小さな白い花を見つけた。タカはその花をひとつ摘んで飲みかけのペットボトルの中に入れた。
”どう?ニルバーナ、ハナにあげるの”
老犬はうおんとほえると風上に耳を向ける、
”先生が呼んでる”
走るニルバーナの後をタカはペットボトルを大事そうに持って丘を下ってゆく。
ワイキキでも大きなカジノTIKIは、ハワイを愛する男、デーヴヨラナが経営している。彼はまたネイティヴのための信用金庫もやっている。土地の権利をネイティヴ以外に渡さないためだ。とくに島の至る所にあるTIKIのいる場所、聖なる丘を。
その娘ハナは最近父デーヴがいままでとすこし違うことに心を痛めている。
それもハワイ島のミネラルウォーター、マウナスプリングス社の2代目ジェフリーホワイトJr.がよく顔を見せるようになってからだ。そしてカジノは近ごろ突然流行りだした、父は大喜びだ。ハナにはそれも不可解だが、とくに理由が見つからない。
そんなある日、ネイティヴハワイアンのための意識向上団体カメハメハクラブの集会でハナは何がおかしいのかに気づく、みんな意見が合わずに牽制しあっていたはずの人たちがなかよくしている。笑っている、朗らかで楽しそうに。
デーヴが地主たちに語る、相場の倍で土地を担保に融資しよう、とくにTIKIの丘を、よそものに渡さぬように俺が守る。反対意見などない、みんな賛成だ。そこには海野教授がオブザーバーで参加していた。いつもこんなに楽しそうな集会なの、とハナに疑問を投げかける海野、
とそのときタカが暴れだす。みんなだまされるな、俺は聞いたんだデーヴはジェフリーホワイトJr.とつるんでTIKIの丘をレジャーランドにするつもりだ、
それにこのマウナスプリングスには、そう言ったときジェフリーホワイトJr.の手下になぐられつまみ出された。人々はそれでも朗らかにしている。
ハナはタカを追うが、ひとりで帰ったと言われる。
が、それをきっかけにタカは失踪する。
大学で海野とサファイアにそのことを相談するハナ、まずは警察に相談しようとするが、ここもまた陽気だ、
ミネラルウオーターのディスペンサー、マウナスプリングス。
タカの言いかけたあの言葉をたよりに動き出す、海野とサファイア、ロコサーファーの情報に詳しいダイロクのサーフショップに行くとダイロクが大笑いしている、けげんそうな海野とサファイア。
ダイロクは愛犬ニルバーナがハイテンションでラリってるのをみて笑っていたのだった。近ごろ出回っているドラッグEASY GO ROUNDが手に入ったのでちょっとニルバーナに盛ってみたという。
坑鬱剤の一種で突然でまわりはじめたらしい。ダイロクとそのルートを探ることにしたサファイア、海野はいやな予感がしてハナの家へ向かう。ハナは家に着くと裏口から入った父とジェフリーホワイトJr. がいたからだ、笑いながら父は意気投合してる、TIKIの土地を開発するプロジェクトに同意してしまったようだ。ふたりのテーブルの上にマウナスプリングスが。ジェフリーホワイトJr. が出ていったあとハナはごきげんな父を非難する。が父は笑って相手にしない、そのとき電話がなる、電話でひとことふたこと返事をすると
父は引き出しからリボルバーを取りだし自分の眉間に向けて発射しようと、間一髪やって来た海野が銃をもぎとる。
救急車を呼び急性アルコール中毒といって病院に送る。
海野はサファイアそしてダイロクとニルバーナとともにマウナスプリングスの工場へ向かう。はたして、そこには何が待ち受けているのか。
”水は空のTIKIからの授かり物、泉は大地のTIKIからの贈り物。”
そんな歌声が聞こえた。
苦闘の末、海野たちはマウナスプリングスの工場の奥に軟禁されているタカ、そしてマウナスプリングスの初代社長ジェフリーホワイトシニアを発見する。
”ジェフリー!かわいそうに、、”
”振り返るとそこに黒崎平八郎が、、。”理事長!”
”ジェフリーはわしのベストフレンドじゃ、探していたんじゃ”
タカもシニアも目が虚ろ、そして笑顔で歌っている、
”水は空のTIKIからの授かり物、泉は大地のTIKIからの贈り物。”
ニルバーナが走る、マウナスプリングスのタンクからの水をうまそうに飲んでいる、そして狂ったようにごきげんで騒ぎだす。あのドラッグEASY GO ROUNDをなめたときのように、
海野はすべての原因はマウナスプリングスの水に混ぜられているEASY GO ROUNDの仕業だと推理する。あのときタカもそれを知らせようとして、、、ジェフリーホワイトJr. にここに軟禁されることになった。
しかし、、、工場はひどいありさまだ大地の泉もほとんど枯れ果て、タンクローリーで運んできた水道水に薬をまぜて、、、。そして水源を守っているTIKIの石像も粗末にされ転がってうち捨てられている。海野たちの瞳に怒りが込み上げてくる。
そのとき、威嚇する銃声。ジェフリーホワイトJr. の手下たちに囲まれてしまった。
”知られてしまっては困ることもあるんだな、先生”
排水溝のチェンバーのなかに閉じこめられた海野たち、
”そこで、社長がかえってくるまでおまちください、今日はめでたいレジャーランドの施工式さ”
”なに?!”
聖なる場所、TIKIの丘では晴れ晴れしく参列した人々と巨大なパワーショベルが今や丘を掘り返そうとしている。
”パパー!止めて、やめさせて、何をしているのか自分でわかってるの?どうしちゃったの、私たちが守りつづけていかなければならない神様の場所を、パパー!!やめて”
ハナが参列に飛び込んでゆくが人々は楽しそうにマウナスプリングスを飲みながら笑っている。
”おじょうさん、オトナの仕事に口出しはよくないね、、
”どけろ”
ジェフリーホワイトJr. はボディーガードにハナを車にとじこめた。
パワーショベルが始動する、そのとき雲行きが怪しくなる、風向きがかわる、雷鳴とすさまじいスコール、そして暴風雨、そして落雷がパワーショベルに落ちる。叫び声と混乱、式は延期だ、
車に戻ったジェフリーホワイトJr. にハナがポリネシア語で悪態をつく
”あんた、TIKIの怒りを買ったね”
車にも落雷、走り出す先を雷が落ちる。恐れおののき車から飛び出すネイティブの運転手、ボディーガードの運転で工場へ向かう、落雷を連れて。
工場の排水溝の水量が増している、チェンバーのなかの海野たち、ニルバーナがもどってきた、ダイロクがニルバーナになにか話しかけている。頼みの綱はニルバーナか?!ロープさえあれば、、。
ニルバーナがロープを探しに走る。
が、そんなものはそう簡単に落ちてはいない、
悲しそうにかえってくるニルバーナをもっとさがせと言いつけるダイロク。
海野は2人の老人のことを考えている、寒さで震えているジェフリーホワイトシニアと理事長、介抱しているサファイアそして放心状態のタカ。まいっちゃったな、思考する海野、
このままの水量の増加だとあと30分で立ち泳ぎしなくてはならなくなる、、、。
悲しそうな声を出して何度目かのニルバーナのご帰還だ、どうやらロープなんかその辺にころがってないらしい。ニルバーナがくうんと情けない声を出したそのとき、腰までつかった水にダイロクが沈む、もがき溺れてそして水の中に沈んでゆく。
”ダイロク、どうした。何やってんだ!”
それを見てニルバーナが火のついたように吠えはじめる。
ざばっと水から一瞬浮き上がり、
”ニル!誰か!誰か呼んできてくれ!”
そう叫んで再び水の中へ。それを見たニルバーナは吠えながらどこかへまっしぐらに駆けていった。ゆっくり水面に顔を出すダイロク、
”これでニルは誰か頼りになるやつを呼んできてくれる、きっと、、”
雷鳴とスコールの中、吠えながら全速力で駆けてゆくニルバーナ。
ジェフリーホワイトJrの車内からワイパーのウインドウごしに、ハナは走ってくるニルバーナを知る。
”ちょっと汗くさい、窓あけるわね”
そう言ってウインドウを開けたその一瞬をねらって母の形見のブレスレットをすれ違うニルバーナに投げる。
”ニル!これをパパに!!”
水しぶきをあげてすれ違う車から呼ばれたニルバーナはきょとんとしていたが、知っているにおいのするブレスレットをくわえ、また走り出す。
“何やってんだこのばか娘が、犬に話しかけてもムダだ!”
工場に到着するジェフリーホワイトJr.、手下に報告を受ける、
”低能!!おやじもいっしょだ?!ばかか?どうしておやじも水びたしにさせる?はやく引き上げろ!心臓が止まったらどうする?もう弱ってんだよ、心臓!!”
そう言いながらチェンバーをおそるおそる覗き込む、その顔が蒼白になる、
”おやじ、、”サファイアに抱かれたジェフリーホワイトシニアはみなに囲まれ、今まさに息を引き取る瞬間に見える。
”どうした?おやじ、どうしたんだ?!”
海野の声がひびく,
”体温が低下している、心臓が弱ってる、早く引き上げて医者に診てもらわないとこのまま逝ってしまうぞ!”
凍りつくジェフリーホワイトJr.に海野が叫ぶ、
”何やってんだこの大ばか野郎!!父親が死んでしまってもいいのか?!早くここから出せ!!”突然、低い声で笑い出すジェフリーホワイトJr.
”いいんだよ、、ふふふ、、、このまま天国に逝ってもらって、、どうせオレはいつもパパに嫌われていた出来の悪い息子さ、、、”
そのとき、シニアの目がカッと見開き口元が何か言おうと動く、
”だめじゃな、とことんバカ息子じゃ。同じことをやってもニルバーナの方が数段素晴らしい、Jr、、犬以下じゃ、見損なったわい”
そう言ってシニアはサファイアの腕の中からすくっと立ち上がる。
”演技はバツグンじゃが、相手役が悪かった”
理事長が笑って言う。
”打つ手なしじゃて”
見放した表情でジェフリーJrがハナを掴まえて言う、
”さあ、マウナスプリングスの秘密を知ってしまったみなさん、あと15分もすればチャンバーは満タンになる、さようならだ、、そしてこいつも仲間だ、、、!”
そう言ってハナの背中を押して突き落とすその瞬間、バスケット選手の素早さでハナはピボットターンをし、その手を掴まえて背中から落ちてゆく、ジェフリーJrを道ずれにして。大きな水しぶきが上がる、
”うお!何するこのバカ女!!”
沈んだジェフリーJrの頭を水の中に押さえつけるダイロク、したたかに水を飲んだジェフリーJrを引き上げる。
”ようこそ天国行きのチェンバーへ!”
そう言って再びジェフリーJrを水中に沈める。
”ボス!大丈夫っすか?”
チェンバーの上から心配そうにのぞき込むボディーガードのデニス。
”でもさ、こんなチャンスって一生に一度あるかないかっスよね、、、ボスはオレのこといつもバカ扱いだし、このまま1時間もすりゃあ、お金はオレのもんだし、、、どーしようかな、、、裏切っちゃおうかな、、、”
そう言って見えなくなるデニス。
”ちょっとタバコ買ってきます。ボスはなにか?!あ、禁煙中ですよね、それが最後の声。車に乗って出てゆく。
続く
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