伊藤彰監督についての私個人の考え
はじめに
ここ最近、伊藤彰監督に対しての批判が多く見られる。確かに言いたいことがわかるような意見から、ただただ成績に対しての不満を持ち、誹謗中傷したいだけでしょと言わんばかりの中身のない批判など多種多様にある。ただ今回私は、伊藤監督はすごいことをしているんだぞ!ということを1人でも多くの人に知っていただきたいと思い、文章を綴らせていただく。不快に思う方が中にはいるかもしれないが、1人の甲府サポーターの意見として聞いてもらえると幸いである。
甲府の現状
伊藤監督のことについて触れる前に、そもそも甲府は今どんな状況に立っているのか整理しておこうと思う。
時代は遡り2017年シーズン。最終節に仙台との対戦で試合終了間際の勝ち越しゴールで勝利も、他会場の結果によりJ2へ降格。それ以来J1昇格を目指して厳しいJ 2リーグを戦っている。2021年シーズンは、10月8日時点で5位。昇格・上位争いを展開している。
一方財政面においてゲキサカの情報によると、甲府の営業収入はJリーグ全体で32位。J2の中でも下から数えた方が早いということで、知ってはいたがとてつもなく厳しい財政状況にあることがわかる。こう見ると、5シーズン連続でJ1に残り続けたことがいかに奇跡に近かったかいうはずまでもない。特に今シーズンの補強動向を見ると、今シーズンの厳しさがわかる。今季加入した選手で、移籍金がかかった可能性があるのは、J3長野から加入した浦上とブラジル3部から加入したウィリアン・リラのみ。(0円移籍の場合もあるが。)また、レンタルで加入した野津田とパウロ・バイヤのレンタル料に関しては、たかが知れている金額である。そのほかは、大卒の関口・須貝・鳥海・長谷川・野澤陸らと、契約満了からの移籍となった三平・有田・北谷・金井らが加入した。つまり何が言いたいかというと、今季の移籍にはほとんどお金がかけられていないことがわかる。(年俸がどの程度かは分からないが。)それほど甲府の財政は厳しいのである。このような状況下に置かれていることを認識して、これからの話を見てもらいたい。
伊藤監督の評価されるべきポイント
では、伊藤監督の評価されるべきだと思うポイントを挙げていく。
一つ目は戦術である。甲府といえば?と他クラブのサポーターやJリーグ有識者に聞くとすぐ浮かぶのが、守備力の高さであろう。2013年にJ1で8連敗を喫した際、当時の監督であった城福浩氏が作り上げた3-4-2-1が、甲府の堅守を作り上げた。守備の際は3バック+両ウイングバックの5枚で守り、カウンターで仕留めるサッカーであった。ただこの代償は大きく、得点力が大きく欠如してしまうことになった。城福監督退任後、樋口靖洋氏、吉田達磨氏、上野展裕氏らが攻撃力の向上を目指し改革をしたが、いずれも守備力が大きく低下することになり、J2でも昇格を争えなくなってしまったこともある。
そこで2019年から甲府の指揮を務めたのが、伊藤彰監督である。伊藤監督は3-4-2-1を基本ベースとし、守備時を5バック、攻撃時は可変し最終ラインを2枚(ウイングバックを入れたら4枚)にする戦術を採用している。これにより、守備時は今までの甲府らしい最終ライン5枚の堅守を構築しつつ、攻撃時では中盤・前線に枚数を増やし、攻撃に厚みを加えるような戦術を取っている。また、ウイングバックを偽サイドバックとして、シャドーがサイドに張り、ウイングバックが内側に入ったり、可変によって上がってきたインサイドハーフがサイド攻撃に絡んだりと、多種多様な攻撃を組み立てている。(選手の特徴に合わせて上手く代えたりしている。)このような戦術を取っているチームは、周りにほとんどおらず先進的な戦術を採用していると感じる。この戦術に対して、元甲府所属の武岡優斗氏やサッカージャーナリストの浅田真樹氏、サッカー批評家YouTuberのLeo the football TVでも大きな評価をしていただいている。
また、今までは守備に重きを置き、攻撃では縦ポンサッカーといっても過言ではないほどのカウンターサッカーをしていたため、現代サッカーでは必須ともいわれいる最終ラインからのビルドアップというものが、甲府にはほとんど根付いていなかった。吉田監督の頃からメスは入れていたものの、伊藤監督はさらに深くメスを入れ、最終ラインからの正確なビルドアップというのを根付かせる事ができた。
この戦術で、J1復帰はまだ果たせていないものの、J2下位クラスの営業収入でも、J1昇格争いに入ることができていると言っても過言ではない。
二つ目は、育成力である。伊藤監督が就任してから、元々のポテンシャルがあるものの、様々な若手が主力級まで育ってきた。今津佑太、中塩大貴、森晃太、宮崎純真、太田修介、小林岩魚、荒木翔、中山陸、中村亮太朗、山田陸、関口正大、須貝英大、鳥海芳樹、長谷川元希など、監督に就任してからをざっと数えると14名もの若手選手を主力級にまで育て上げた。特に荒木翔に関しては、2018年にはベンチ入りも出来ず、2019年はたったの9試合出れず、試合になかなか絡むことができなかった。しかし今では、即戦力として計算され、J1クラブも熱視線を送るほどにまで成長した。これはひとえに伊藤監督のおかげなのではないかと感じた。
伊藤監督に対する疑問点
ここまで伊藤監督の評価されるべきポイントについて書いてきたが、もちろん少し疑問に思ったりする点もある。
一つ目は、交代の判断の遅さである。もう少し早く交代の判断が早ければという場面が多いと感じる。2019年シーズンの時と比べればずいぶん減ったが、まだ多少あると感じている。今シーズンの中で言えば、19節のホーム山口戦が良い例に感じる。先制され、すぐさま同点に追いつき、その後なかなかいいリズムで攻撃を生み出す事ができず、勝ち越される。その後交代カードを切り、すぐさま泉澤のゴールで同点に追いつき試合終了。勝ち越される前に、交代カードを切っていればと感じた場面であった。確かに同点に追いついて流れを掴みかけてはいたため、交代の判断をするのは難しいところではあるが、早めの決断をして欲しかった。
二つ目は、守りに入りすぎる交代カードである。リードしている時点で、守備を固めたくなるのはとてもわかるが、守りに入りすぎている場面があるのではないかと感じる。今シーズンでいうと、26節のホーム千葉戦である。後半41分に、野津田に代えて、ボランチ経験があまりない浦上を投入した。案の定、プレスに行く行かないの判断が甘くなり、最終的に終了間際のセットプレーで同点に追い付かれて試合終了。勝ち点をスルリと逃してしまった。この交代は、よくなかったのではないかと本当に感じてしまった。
また、攻めるべき場面でなぜ山本英臣を入れるのか?というツイートをよく見かける。31節の新潟戦では特に散見された。確かに有田というヘディングに強いFWもベンチにいたが、フィード力やパスをさばく技術に関して一級品のものを山本は持っているため、疲労で疲れ切った宮崎に代え山本を投入し、小柳などの最終ラインの選手がパワープレー要因で前線に上げ、後ろからロングパスを入れ続けて、ペナルティエリア内での事故を狙い、得点を奪いに行くのは、至って不思議ではないと私は考える。
最後に
ここまで伊藤監督の評価されるべき点、疑問点を挙げてきた。世の中に完璧な監督などはいない。良い点もあれば欠点も必ず出てくる。伊藤監督も然りである。ただ、ドン引きでの超守備的サッカーから脱却して、攻撃にシフトし始める事ができたのは評価してもいいのではないかと考える。しかも、財政面がとても厳しい甲府というクラブの中で。(言い訳に聞こえるかもしれないが。)伊藤彰体制になってから3年。「全く成長していないじゃないか。」という声も聞こえる。その人は、本当に甲府の試合を見続けているのだろうか。確かに、カテゴリーはこの3年間全く変わっていない。しかし、毎シーズン主力を上位クラブや金満クラブに引き抜かれながら、吉田・上野体制から得点を増やし、失点を減らし、最終ラインからのビルドアップの正確性を上げ、3-4-3の可変システムという甲府独自のスタイルを作り出した。これらの功績は大いに讃えたいし、「甲府が成長していない」という言葉については断固として否定したい。伊藤彰は、大木武・城福浩と並んで甲府に大きな影響を与えた人物といっても過言ではないと私は考える。
私は1人の甲府サポーターとして、伊藤彰を漢にするため、今シーズンも残りの試合を応援し続けたいと思う。
参考文献
浅田真樹氏の記事↓
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jleague_other/2021/08/16/j1_14/
Leo the football TVが甲府について触れた部分の切り抜き動画↓
https://www.youtube.com/watch?v=CVDY2DDprcM