第36節 コンサドーレ札幌戦レビュー
はじめに
前節、川崎フロンターレに快勝。その余韻が残るなかでのホーム 2 連戦。鳥栖は他力本願ではあるものの、4 位になれば ACL 出場権にも希望の光がみえてくる。少しでも上位を目指して、今節も負けられない戦いだ。
「勝つこと」にこだわった戦術
勝っている時は、スタメン・戦術を変えないというのがスポーツ界でのセオリーといわれる。しかし、金明輝監督は変えてきた。右ウイングハーフに入ったのは飯野選手でなく、ルーキー松本選手だった。しかも、通常の 3-5-2 ではなく、守備時は 5-4-1 と極端なフォーメーションを取ってきた。
鳥栖はこの試合でノーガードの殴り合いを選択しなかった。札幌の最大の特徴である『ドリブル』と『正確なロングフィード』を封じる策に出た。前線と最終ラインの幅をコンパクトに保ち、マンツーマンで対峙することで自由にドリブルするスペースを与えなかった。
さらに、松本選手の起用は勝利に大きく貢献した。恐らく、鳥栖のスカウティングは札幌が左サイドから(普段は飯野選手が攻め上がり、島川選手がケアするエリアの裏を)狙ってくることを察知していたのでは?と思っている。そこで、高さがあり、対人に強い松本選手を右サイドに配置させることで、完全なガードを敷くことができたのだ。
上のパスネットワークの図を見ても、札幌は左にパスが集中しているのがわかる。また、特出すべきは小柏選手にパスがほぼ通っていないこと。これも松本選手を起用した効果だと考える。
鳥栖の狙い
鳥栖は昨年から粘り強く続けてきた「ポゼッションサッカー」を勝つために敢えて封じた。札幌に前への推進力を奪った上で、ボールを持たせビルドアップの時間を長くさせた。そうすることで鳥栖は、高い位置からプレスを何度もしかけることが可能となり、結果、パスミスを誘って得点に結びつけた。これが出来たのは、札幌の攻撃時の布陣が前線に多くの選手を並べるという特徴があるからだ。逆に、鳥栖は高い位置でボールを奪取できれば、数的優位のまま札幌ゴールへ時間をかけずに迫ることができる。
前半はスカウティング通りで推移した鳥栖であったが、早い時間で大畑選手が怪我のため交代。代わりに小屋松選手が入ったがここは特に遜色はなかった。札幌は後半 49 分に深井選手に替え、ミラン トゥチッチ選手を入れてきた。そこから札幌は、前線から中盤へボールを受けにFWが下りてくることで生まれたスペースをMFが使うという動きを多用し、前への推進力を持ち始める。これを起点に鳥栖ゴールを徐々に脅かすようになる。これがゴール期待値の逆転に表れている。
鳥栖の生命線
やはり鳥栖の生命線は「走行距離」だと考えている。近年は、無駄走りをしないことにフォーカスされがちであるが、鳥栖の場合は質をともなった上での走行距離なのである。それを示すデータとして、小泉選手はこの試合でスプリント数( 29 回)、走行距離( 13.052 km)と、いずれもトップスコアを叩き出している。彼が後ろ向きの駒井選手にチェイスしたことでバックパスが乱れ、GK菅野選手のパスミスを誘発させた。これが樋口選手の得点につながったのだが、その樋口選手もこの試合での走行距離は 11.981 kmであり、両チームでも2位の成績だ。得点に絡んだ2選手が走行距離のワンツーフィニッシュということが、鳥栖の生命線が走行距離にあることを裏付けている。
最後に
ここまでボールを支配してパスを回す、ポゼッションサッカーを継続してきた鳥栖であったが、ここにきて戦術の弱みを突かれ、勝てない試合が続いた。継続してきたことは決して間違いでない。しかし、サッカーに「絶対はない」ということを改めて知らされた、期間でもあった。この戦術変更は今後、鳥栖が上位に行く上でのターニングポイントとなるだろう。決して内容的に優勢でなくても、勝てるという試合を経験することは大切だし、これまでの戦術パターンとは異なる戦術で勝てたことは大きな一歩だ。
追伸
この試合でリーグ戦初スタメンの松本選手が、試合後にピッチに崩れ落ち、涙するシーンが話題となったが、その真相はわかりかねる。しかし、鳥栖ではユース出身の若手が旋風を巻き起こしている中、大学新卒の彼が歯痒い思いをしてきたことは想像に難くない。ここにきて 90 分のフル出場、J1でもトップと言われる超攻撃的戦術の札幌アタッカー陣を相手に、無失点に抑えた貢献は称賛に値する。来期、多くの大学新卒選手が鳥栖に加入することが決定しているが、松本選手は先輩の威厳をまざまざと見せつけた。いち鳥栖サポとしても、頼もしい限りだ。兄貴分として来期は大学新卒選手を牽引してもらいたい。