コモディティにならないために必要なこと/長門湯本の恩湯再建から学ぶ
前回長門湯本まちづくりから学んだことを書きました。
このまちづくりの主要プロジェクトの1つが、公衆浴場である恩湯(おんとう)の再建。
その恩湯について学び体験する「恩湯プレミアツアー」にも参加し、これまた色々学びがあったので、今回はそれについて書いてみます。
旅人が恩湯を選ぶ必然性とは?
恩湯は600年前から存在し、戦後から平成の終わりまで長門市が運営する公衆浴場として、まちの人に親しまれてきました。
この再建にあたったのが、今回のプレミアツアーの講師であった、大谷山荘社長の大谷さん。
大谷さんはまちづくり専門家の木下斉さんから「恩湯に来る必然性を作らなきゃうまくいかない」とコメントをもらい、必死に悩んだ末に「恩湯の開湯秘話」に着目します。
恩湯の泉源は、いまでも湯本エリアのはずれにある「大寧寺(たいねいじ)」が管理しているのですが、これは室町時代から続く話。
そのキッカケとして伝わる「大寧寺物語」には、
ということが書かれており、老人は「住吉大明神」であり、恩湯は神様から与えられた「神授の湯」だと位置づけたのでした。
このような言い伝えの残る大寧寺には、お寺にしては珍しいことに仏様のみならず、神様の像もまつられています。
今回のツアーでは大寧寺の本堂の奥にある「開山堂」に入れていただき、その像が並ぶ姿を見ることができました。
このような過去を紐解き見えてくる固有のエピソードは、他の温泉地には無いものとなり、「沢山ある温泉地の1つ」というコモディティにならないための重要な要素となります。
にも関わらず、木下斉さんによれば多くの観光地では、「いまから作れるものを考えがち」であると。結果似たような施設が生まれ、まさにレッドオーシャンに突っ込んでいってしまうのです。
固有のリソースを活かすために、常識と異なる場をつくる
「歴史資本」を活かして恩湯再建に臨む大谷さん。
旧恩湯を解体した際に、新たな資本の発見をします。
それは建物のすぐ下にあった岩盤から湯が湧き出ていること。
多くの温泉は、地下深くまで穴を掘り泉源を掘り当てたり、配湯センターからパイプなどを伝って運んできたりしています。
温泉は空気に触れることで、酸化し劣化していきますが、恩湯は岩盤から出てきたものをすぐ使えるのでフレッシュな温泉といえるのです。
このフレッシュな温泉を活かすために、これまた多くの温泉施設とは異なる空間づくりを行います。
①ぬるい
多くの温泉は、加水や加温をしています。
恩湯は、フレッシュな温泉を活かすべく、冬場を除いては源泉そのままを浴槽につぎ込んでいます。
結果的に、人によってはぬるいと感じられるのですが、それはフレッシュな温泉ならではのこと。
②せまい
恩湯の浴槽は5人くらいで入れるのが程よいサイズで、それ以上になると窮屈な感じがしてきます。
このサイズは源泉から出てくる湯の量をもとに、常にフレッシュな温泉に入れ替わっている状態を計算した結果。
この話を知らずに入った人は「なんだせまいじゃん」という感想を持つかもしれませんが、これもフレッシュな温泉を作り上げるための仕掛けです。
③ふかい
一般的な浴槽は60cm程度とされるところ、恩湯の浴槽は1m。
これはメインの源泉と別に、足元から湧き出てくる源泉を活かすための仕組み。
浴槽の足元からもフレッシュな温泉が出ているのです。
ストーリーを知ってから入る温泉は格別
今回の「恩湯プレミアツアー」では、これまで書いてきたような事を大谷さんご自身からみっちり講義を受け、大寧寺を見学したうえで、翌日のオープン前に参加者のみで貸し切りの恩湯に入ることができました。
常にお湯が入れ替わる恩湯と言えども、底のほうなどに異物が沈殿するので、毎朝お湯を空っぽにし、清掃してから新たに温泉を入れるため、オープン前に入ることはフレッシュ中のフレッシュな温泉ということになります。
知らずに入っても温泉は気持ちいいものですが、なぜそうなっているのかを知っているからこそ、格別な体験です。
温泉にしてはぬるいというのはそうなのですが、参加したメンバー(男性側には大谷さんも一緒に入るw)で語りながら過ごすと、逆に2~30分あっという間。
これは熱い風呂だとできないこと。
元々恩湯は地域の人が通う場所だったことを考えると、地域の人のコミュニケーションの場となるのにもちょうどいい温度なのかもしれません。
(ちなみに、通常営業時には一定の人数以上は入れないようになっており、入浴時には窮屈な思いはしないようになっていると思われます)
固有のストーリーを活かすのはキャリア形成にも通ずる
ここまで見てきたような歴史・泉源などの固有のストーリーを活かすという話、これってキャリア形成にも通ずるところがありそうです。
キャリア形成においても「いまから得られるもの」ということで資格やスキル習得に時間を注ぐ人は多いと思います。
それはそれで大事なことですが、スキルだけで勝負しようと思っても、同じスキルを持っている人がいるならば「替えがきくことには変わりない」。
「スキル×その人の固有のストーリー」が組み合わさることで、「なんかこの人おもしろい」となり、選んでもらえるようになるのではないでしょうか。
先日「キャリア形成に活かすための振り返り」について書いてみたものの、少しスキル面に寄った内容になっていたので、もう少し定性的な面を棚卸しておくと良いなと感じました。
そして固有のストーリーがあるならば、きちんと伝えていくことが重要です。
恩湯はGoogleの口コミで低い評価が結構あるのですが、おおむね「狭い、ぬるい」みたいな感じ。
どうしてそうなっているのかを事前に知っていれば、評価は変わる(もしくはそういうのが好きでない人はそもそも来ない)気がします。
これは個人においても「どういうポリシーを持っているのか」を発信しておくことで、実際に会ったときに「変な受け取り方をされない」ようになると思います。改めて自分の考えていることを発信する重要性を感じました。
では今回は以上です!
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