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神社のガイド猫

2020年春より、私の娯楽の予定は全てキャンセルなりました。

友人10人で楽しみにしていた那須旅行は、飛行機や宿の手配まで完了したのに、やっぱりキャンセルにしようと決めました。グループの中で私だけ遠方に住んでるので、メンバーには2年も会えない事になる。寂しい…。


記憶の中で最後に遊びに出掛けたと言えるのは、梅の終わりに訪れた太宰府天満宮でしょうか?

お隣の九州国立博物館にフランス絵画の展覧会が催されており、それを目当てに太宰府へ行ったのです。

漫画「ベルサイユのばら」の中でオスカル様の母親はフランス宮廷画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの孫となっておりました。オスカル様はその血統となる訳で、あくまで設定上なのですが「こっ、これがオスカル様のご先祖様の絵!」とラ・トゥールの絵に感動したものです。

絵画を堪能した後、露天で買ったチーズハットクを咥えながら、閑散とした太宰府天満宮の参道を歩きました。

こんなに人が少ない太宰府天満宮は初めて、外国人の姿もまばらで、お土産の梅が枝餅を買って早々に帰宅しました。


……さてさて、題名のガイド猫は太宰府天満宮の事ではなく、地元の宗像大社での出来事です。

神社仏閣巡りが趣味の私は、若い頃から休みになると、九州各地や山陽地域の神社を訪れていました。

各地を巡ると、不思議と自分と相性の良い神社やお寺が見付かるものです。


仕事で出張した際も、とても居心地の良い地域に出会うと、近くに神社があれば、私は必ず参拝するようにしています。

以前は休日に時間があれば九州内のお気に入りの神社やお寺にドライブがてら気軽に訪れていました。ですが今はこのご時世、県外への移動は難しいもので、九州内でも福岡ナンバーは気が引けるものです。


世界遺産 宗像大社

そんな私が手軽に訪れる神社の一つ、大好きな宗像大社。

昔から季節の変わり目や、何かしら心がサワサワした時、フラリと訪れるのが宗像大社でした。

数年前、世界遺産に認定されメジャーになった神社ですが、子供の頃から身近な神社でした。

季節になると回覧板には当たり前のように祈願用紙が挟まれており、人形に切った紙に家族の名前を書き入れ、息を吹きかけるのが年行事の一つでもありました。

成人になっても、何をお願いする訳でもなく、お買い物帰りに宗像大社を訪れては、広い境内を散策するのが私の定番。

宗像大社は交通の神様として有名です。その為、とても広い駐車場があり、正面にとても立派な祈願殿があります。

一見すると此方が本殿のようにも見えます(新車を買うと必ずこちらで交通安全の祈願をするのが地元民と地元企業、本殿での正月初祈願祭で毎年最初にお祓いを受けるのはJR九州の社長なのだとか)ここはあくまで祈願の場所、本殿はそのずっと奥にあります。

本殿は新しく建て替えられたばかり、朱も鮮やかな本殿は女性の神様のお住いらしく、とても明るい印象を与えます。

冒頭の画像は本殿右側面を撮ったもの。この本殿を囲むように24のお社があり、121の摂末社の神様が祭られています。その隣に立派な御神木があります。


宗像大社は三人の女神が祭られています。御神体は市杵島姫神、田心姫神、湍津姫神です。

「日本書紀」によると天照大御神が素戔嗚尊の誓契により生まれた神々で、三女神は天照大御神の息より誕生しました。それぞれ辺津宮、中津宮(大島)、沖津宮(沖ノ島)に祭られています。

その中でも海の正倉院と呼ばれる沖ノ島は女人禁制を守り、この島での出来事は喋ってはならない、草木一本持ち帰ってもならないと伝えられています。

現代も古代祭祀の遺構が残るこの島は、神秘に満ち溢れた島なのです。

女性である私が一生訪れる事の叶わぬ島なのですが、その沖ノ島を彷彿させる場所が宗像大社内に存在します。


パワースポット 奥宮

「高宮」と呼ばれるその祭場は、本殿より500m程離れた小高い森の中に、ひっそりと建っています。

昔はお訪れる人も疎らで、鬱蒼とした木々が立ち並ぶとても静かな空間でした。

私にとっては密かな隠れ場所のような存在だった場所です。宗像大社が世界遺産に認定され、この場所が俄にパワースポットとして注目を浴びるようになりました。今では多くの人々が本殿に参拝後、高宮も訪れるようになりました。

高宮がパワースポットと呼ばれる所以は、その祭場の特異性にあると思います。

高宮に社殿は存在しません。

小高い森の中に、突然と切り開かれた広場があり、中央に数個の石が置かれ、地面に御幣が差し込まれているだけなのです。

これが縄文・弥生時代から続く日本古来の祭祀の形なのだそうです。

今もこの場所では大切な神事が行われています。

柵で囲まれだけの場所は、簡単に私達にも出入りが可能のようですが、明らかに柵を境目として空気の重さが違うのです。

パワースポットと呼ばれるのも、この場所を訪れた人が独特の雰囲気と空気を肌で感じたのではないでしょうか。

私は昔から、この高宮を訪れると、木立の間から見える玄海灘を眺めるのが大好きでした。


ネッコ(ΦωΦ) 登場

先日、いつものように宗像大社へ訪れました。

本殿を参拝後、右側に高宮へ続く参道へと抜ける門があります。

門を潜ると辺りは参道に沿って木々が立ち並び、昼間でも少し暗い砂利道となります。

初めて訪れた人は、この先にパワースポットがあるのかと不安になるでしょうが、私にとっては通い慣れた道、いつものように高宮へ向かって歩いていました。

参道を進むと第二宮(ていにぐう)第三宮(ていさんぐう)がありますが、高宮へは途中で脇道に曲がり、長い階段を登らなければなりません。こちらも整備され、随分と登りやすくなりましたが、昔は足元を良く見ないと転び落ちそうな古い石の階段でした。その参道を歩いていると、目の前にフラリと一匹の猫が現れました。

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最初は警戒したように、私を見ると「にゃ~ん」と一声だけ鳴いた猫。

こちらをチラチラと眺め、危害を与えないと安心したのか足元に擦り寄って来ました。

まるで私を撫でろとでも言うように、可愛らしく鳴いてます。

優しく触るとふわふわの長毛種で、子猫から成猫の途中なのか、とても若い猫のようでした。

人馴れした様子に近くの民家の飼い猫だと思いましたが、昨今、飼い猫を外へ出す家庭は少ないものです。好奇心旺盛な年頃の家猫が外へ飛び出して来たのでしょうか。車の往来がない参道だから安心しましたが、砂利道をヘソ天で寝転がる猫を撫でならが正直、これからどうしようかと迷いました。

このまま抱いて社務所へ行けば、どなたか猫の素性をご存知の方がいらっしゃるかも・・・。そう考えていると、猫は立ち上がり高宮へと向かう階段を登り始めていました。

こっちだにゃ〜🐾

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振り返りながら階段を登る猫。その後を追って私は高宮へと向かいました。

「道案内してくれるの?でも私はお前よりここは詳しいんだけどな・・・」

トコトコと歩く猫、もしかすると毎回こうやって、この子は参拝客を相手に道案内をしているのかしら。

階段を登り詰めると高宮祭場へと続く道だけになります。その先は行き止まり、猫は階段の最上段まで登ると座り込み、日向で身繕いを始めていました。

その先を歩こうともしない猫。私はこのままでも自分で好きなタイミングで下に戻るだろうと思い、猫を残して高宮へと向かいました。

厳かな高宮で参拝を済ませると、楽しみの一つが横に設置してあるおみくじを引く事です。

本殿にもおみくじはあるのですが、高宮で引くおみくじは、毎回私には的を得た内容なので、私はこの場所のおみくじを大変信用しているのです。今回の内容は・・・

ジャ~ン

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お休みしていた二次創作を2年振りに復活させ複雑な気分だった私は、とても重い言葉でもありました。神様は全てお見通しなのね。

参拝を済ませ階段へと戻ると、猫はちゃんと別れた場所と同じ階段近くにいました。数人の人達に声を掛けられ、ちゃっかりと撫でられている猫。そのまま私が横を通り過ぎると、猫は私の後を追って「にゃ~ん」と鳴きながら階段を降りて来ます。「えー!私の猫と思われるじゃん!」本当にどうしましょう。このまま懐いてくれると連れて帰りたくなるじゃない!

擦り寄る猫を踏まないように、ゆっくりと本殿に戻る参道を歩いていました。

「お前はどこの猫なのよ?お家は分かるのかい?」「にゃ~ん」そんな会話をしていると、正面を二組のご夫婦が歩いて来ました。

ご年配の夫婦は「高宮ってこの道かしら・・・」と言いながらゆっくりとこちらに向かって歩いていました。私が声を掛けようと思った途端、猫はご夫婦に向かって‘’猫まっしぐら‘’のキャッチフレーズそのもので駆け寄って行ったのです。

猫は私と出会った時と同じように「にゃ~ん」と愛想を振り撒き、ご夫婦に撫でられると、再び高宮へ戻るように砂利道を歩き出していました。「あれまぁ、賢い猫だよねぇ」そんなご夫婦の会話を聞きながら、私の横を振り向きもせず颯爽と歩く猫。

私は通り過ぎるご夫婦に会釈をすると、本殿の門へ抜ける脇道へ進み、そのまま宗像大社を後にしました。

この宗像大社には三人の女神様がいらっしゃいます。昔の記述に女神の神像の周囲には73体もの眷属が安置されていたとありました。像の中には俗人や童の形、仏形や獅子もあったそうです。

もしかするとあの猫は女神の使者だったのかもしれません。帰り道ハンドルを握りながら、私はそんな事をぼんやりと考えていました。

猫が大好きなのに、飼う決心がつかないまま数年を過ごしています。それは互いに忙しく、生活習慣も違う二人が、動物を飼うには適さない人間だと実感しているからなのですが、いつか運命の命と巡り会えるのではないかと、淡い期待も抱いているのです。

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あの猫と別れた後、私は2年近く非公開にしていた小説を加筆していました。

猫にまつわるエピソードを書き加えながら、またあの長いふわふわの毛を持つ猫に会う為に、宗像大社を訪れようと決めたのでした。

今はコロナ禍で旅行や観光も制限されていまが、いつの日かマスクを外して観光できる日か再びやって来ることを願っています。その時は皆様も是非、九州、福岡へお越し下さい。