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過去が今の自分を創ることの本質

⚠️ネタバレ含みます

美しいマンチェスター・バイ・ザ・シーの風景。
回想シーンで用いられるクラシック音楽の音色。

物語全体を通して、もの寂しいどこか切なさを感じさせる作品であった。


人との関わりを避け、暗く重い空気を纏う主人公リー。

たくさんの友人に囲まれている陽気な男。

最初は、主人公と回想シーンの男が同一人物であることに違和感を感じた。リーの想像を絶する過去が明らかになった瞬間、この違和感が綺麗な一本の線となって繋がった。

「君に罪は問わない。重要なことだが誰でもやる。」
誰でもやりうるようなことで、自分の命よりも大切な娘2人を失うことになるとは。仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。しかし、たとえ無罪であろうと警察に慰められようと自分の行動で娘を失ったという事実は消えないのである。


正直、私は2つの結末を予想していた。
①元妻ランディーの赦しをもらい、もう一度夫婦でやりなおす。
②兄ジョーの息子パトリックの後見人となり、故郷に移住する。

いずれにせよ過去の辛い記憶と向き合い、乗り越えるという結末だ。

しかし、本作品ではリーはボストンに戻り辛い記憶の残る故郷からは距離を置く選択をとるのだ。
リーは自身の罪に対して赦しを乞うこともなく、赦しを望んでもいないと話す。
結果として物語は過去を乗り越えることができなかった男が描かれているのだ。

ここで考えたいのは、過去を乗り越える必要はあるのかということ。そして、そもそも過去を乗り越えるとはどういうことなのかということである。
リーがマンチェスター・バイ・ザ・シーに帰郷し、パトリックやランディーと暮らすことで過去の辛い記憶を克服したことになるのだろうか。乗り越える=忘れるではないが、その地で生活できるということは、少なからず辛い記憶が薄れていくことになるのではないだろうか。

辛い記憶の残る場所から距離を置き、過去をそのままの状態で記憶に残す。このリーの決断が、最も過去と向き合い、過去に想いを馳せた結果なのではないかと感じた。その結末が、綺麗事ではおさまりきらない人間のリアルを感じさせてくれた。

過去を乗り越える。過去に囚われない。
そう言った言葉が多用され、美化されている現実こそが、私たち人間は過去に執着し、過去に赦しを乞う生き物なのだと教えてくれている。だからこそ過去が今の自分を創るのであり、そのままでいいというか、そうならざるを得ないのだとふと思った。

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