境界線を押し広げて:ナッシュビル宣言への応答
【はじめに】性の聖書的理解ネットワーク(NBUS)によって翻訳された「ナッシュビル宣言」がキリスト教メディアやSNSで話題になっています。私が所属するメノナイト教会においても話題になっているところがあると聞いています。北米におけるメノナイトの応答の一つとして、ナッシュビル宣言の発表直後に出されたネット記事を翻訳して紹介します。なお、「クリスチャンズ・フォー・ソーシャル・アクション」とは、先日(2022年7月22日)亡くなったアナバプテストの神学者ロナルド・サイダーが、1978年に設立した「エバンジェリカルズ・フォー・ソーシャル・アクション」の現在名です。
「クリスチャンズ・フォー・ソーシャル・アクション」HP掲載
ジョン・カールソン(米国ペンシルベニア州ランカスター、フォレスト・ヒルズ・メノナイト教会主任牧師)
2017年9月13日
オリジナルはこちら
Expanding the Parameters: The Nashville Statement - Christians for Social Action
8月の最終週、ヒューストンが洪水に見舞われている頃、聖書的男女観協議会が、「この世界の本当の物語と、その中に置かれている私たちの立場、特に男と女としての立場をもう一度宣言する」声明を発表しました。この宣言は14箇条にわたって、LGBTQ+の人々に関係する神学的・哲学的・心理学的問題について、「同意」と「否定」を列挙しています。
「ナッシュビル宣言」に、すぐさま、激しい反応が起こったことは予想通りでした。ナッシュビル市長はこの宣言を非難し、保守的なキリスト教徒の多くは喝采を送り、進歩的なキリスト教徒はパロディにしました(まじめな反論もしました)。ツイッターには、これは今言うべきことか、もっと大事な話題があるのではないか、といった疑問があふれました。
宣言文とそれへの反応を調べてみて、私は悲しく思いました。正直、これらの問題について、私自身の立場はまだはっきりしていません。けれども、私が今たいへん心配しているのは、一つはLGBTQ+の人たちの安全と安心、もう一つは教会の歴史的な聖書解釈です(いわゆる「サイドB」の立場とよばれるものですね)。【訳注:結婚を一夫一婦の異性婚に限定し、婚外の性的関係を認めない立場。北米のメノナイト教会は現行の信仰告白第19条でこの立場に立っており、さらにキリスト教徒同士の結婚をも定めている。】
ブライアン・マクラーレンはナッシュビル宣言について、「(内心は)LGBTQに友好的な福音派」が「境界線のこちらに立つのか、あちらに立つのか、自らの立ち位置を明確にする」ことを余儀なくされるだろう、といっています。
教会の働きについての「境界線」を、ナッシュビル宣言に決めてもらおうとすることは間違いです。これらの境界線を認めれば、この問題に関わる人たちが互いの相違点を最悪の意味合いで受け取りあうだろうことが、目に見えているからです。
たとえば、進歩派の中には、ナッシュビル声明をつかまえて、ほらみろ、これこそ保守派には共感というものがなく、LGBTQ+の隣人を自分を愛するように愛することができないことの証拠だ、と言いふらす人たちがいます。同様に、保守派の中には、ほらみろ、進歩派なんて放蕩だ、性道徳すら持ちあわせちゃいないのだ、と言いつのる人たちがいます。
ともに見極めるという、神に与えられた私たちの役目を、もっとよく続ける方法があるのではないでしょうか。歴史を通じて、キリスト教は告白を実践し、その告白を行動へと結びつけることで、よりキリストに似た者となることにこだわってきました。以下に、私の告白と決意を記してみます。教会の悔い改めのわざに、少しでも貢献できれば幸いです。
私たちは、すべての人間には神のかたちが刻み込まれ、それは人種・民族・ジェンダー・性的指向・ジェンダーアイデンティティ(ママ)によって取り消すことのできないものであることに同意する。
私たちは、キリスト教会が性道徳について公に証ししてきたことが、上の真理を土台とすることができず、LGBTQ+の人々への敵意を増長し、自殺・若者のホームレス化・暴力・差別などの重大な害悪をなしてきたことを告白する。
私たちは、キリストがすべての人のために死なれたことを覚え、すべての人の尊厳と価値と意味を認めることを約束する。
私たちは、聖書と教会の歴史的な聖書解釈が、信仰と生活への信頼できる助言を提示していることに同意する。聖書にさまざまな性的関係(一夫多妻、レビラト婚、レイプ、近親姦を含む)が記されていることを覚え、私たちは、夫と妻による一夫一婦婚がもっとも明晰な神の計画の啓示であることに同意する。
私たちは、この解釈の枠組みが、凶器となってLGBTQ+の人々を排除し傷つけてきたこと、それゆえ多くの人たちから疑問視されていることを告白する。
私たちは、この解釈の枠組みに謙虚な気持ちでとどまり、LGBTQ+のキリスト教徒の助言を求め、これ以外の解釈からも学ぶことを約束する。【訳注:アメリカのメノナイト教会は2022年5月、性的少数者を受け入れることを決議した。ただし信仰告白は変わらず。】
私たちは、結婚についての神の啓示が創世記において確立され、キリストによってくり返されたこと、結婚した男女の一体性が天と地との、またキリストと教会との一体性という神秘をも指し示すことに同意する。
私たちは、教会とその指導者が神の計画につねに忠実に生きてきたわけではなく、虐待・強制・不信仰・ポルノにより性的な背徳に関わっていることを告白する。
私たちは、自分の目から丸太を取り除き、教会の性道徳を強化するためふさわしい部署に乱用・虐待を通報し、同意の大切さを教え、結婚関係を強化し、キリスト教会の内外からの是正を受け入れることを約束する。
私たちは、セクシュアリティが他者との交流や自己アイデンティティに特有の影響力をもつこと、そして性道徳については共同体のサポートとケアを土台として注意深く検討すべきことに同意する。それゆえ、キリスト教共同体は謙遜で、透明性のある、相互に説明責任を担いあう性質を備えなければならない。
私たちは、キリスト教会が優先順位を誤り、公的な姿勢や意見表明をもってセクシュアリティの表出を規制しようとし、セクシュアリティという話しづらい話題を話しあえるような、愛と育みのある関係を築きあげるのを怠ってきたことを告白する。
私たちは、地元の各個教会がおかれた状況、働き、力に優先順位をおき、聖書と聖霊に導かれた倫理的見極めにふさわしい場として尊重することを約束する。
私たちは、キリスト教会が神の家族として、またキリストの花嫁として、この世の希望であることに同意する。キリスト教徒の証しの本質は、私たちが互いに心から深く愛しあい、神が私たちを受け入れたように互いに受け入れあって、神に栄光を帰すことである。
私たちは、LGBTQ+の人々をめぐり、信仰の姿勢の違いに直面して、互いに愛しあう証しを守れず、「憎悪」、「頑迷」、「キリスト教の信仰と証しから本質的に離れること」といった非難を投げつけてきたことを告白する。私たちは、相互の交わりを損ない、キリストの体を傷つけてきた。
私たちは、平和のきずなに結ばれて、霊による一致を守るために、あらゆる努力をすることを約束する。