「望ましい投資単位」(2)
ひろです。
それでは「望ましい投資単位」について、それを維持するための手法について見てみましょう。
一応おさらいとして、「望ましい投資単位」とは東証が定めた水準で「5万円以上50万円未満」であり、株価としては「5百円以上5千円未満」です。
すると「望ましい投資単位」から外れてしまう場合とは、主に
①株価が上昇して投資単位が50万円以上(株価が5千円以上)になった場合
②株価が下落して投資単位が5万円未満(株価が5百円未満)になった場合
に2パターンが存在します。
①の場合には「株式分割」が、②の場合には「株式併合」が、それぞれ手法として考えられます。
それぞれもう少し詳しく見てみましょう。
株式分割
株式を「分割」する手法ですね。1株→2株/3株/4株…という風に、株式数を分割して増加させます。
必ずしも整数倍である必要はなく、1株→1.1株…という分割も可能ですが、1単元を有する株主を考えると100株→110株と、10株分の単元未満株が必ず生じてしまうため、現在ではあまり望ましくはないでしょう。
株式分割そのものは、一義的には経済的には中立的な行為と捉えられます。
たとえば、現行株価が20,000円であれば、1単元(100株)を有する株主の保有株式の価値は200万円です。
ここで1株→5株の株式分割を行った場合、保有株数は1単元(100株)→5単元(500株)に増加しますが、株価は20,000円÷5=4,000円となります。
1単元(100株)の価値は40万円となり、5単元を有することになるので合計の価値は40万円×5=200万円と不変です。
ただし、投資単位(1単元)が200万円→40万円になることから、個人投資家等も投資がしやすい水準(「望ましい投資単位」)となり、株式流動性が向上する、といった効果は考えられます。個人投資家のポートフォリオに組み入れやすくなったり、NISAに組み入れやすくなったり、という効果も想定されます。
そのような結果として、株価が向上する可能性もありうる所でしょう。
株式分割事例:J-オイルミルズ
検索して引っかかったので、2021年の事例としてJ-オイルミルズの事例をご紹介しておきます。
2021年2月5日に1株→2株の株式分割を決議した事例ですね(リリース)。
下図の株価チャートからすると、当時の株価は3,600円前後だったようです(この手の株価チャートは、株式分割等がある場合、過去の株価の数値は調整して(この場合は1/2にする)連続性を保つ形式となっています)。
まだまだ「5,000円以上」ではなく、「望ましい投資単位」の範囲ではありますが、後日出されたFAQによると、「最低投資水準が当該水準(注:望ましい投資単位)の中でも高い位置にある現在の当社株価の水準を踏まえ、当社株式1株につき2株の割合をもって株式を分割し、これを引き下げる」ことで、「株式の流動性を高め、当社株式の株式市場での売買をしやすい環境を整えてい」くとのことです。
先行して株式分割を実施することで、売買をしやすくする意図があったようですね。
株式併合
さて、こちらは「分割」ではなく「併合」ということで、これまでの話とは逆になります。
すなわち、2株→1株、というように、株式数を減少させます。その分株価が増加するので、引き続き、一義的には経済的には中立的とはなります。
しかし、分割では整数倍分割であれば1単元(投資単位)を有する株主はそのまま2単元、3単元…となるのみで、議決権にも売買のしやすさにも、特段の影響はありません(議決権数は増えますが、他の株主も増えるので比率的には不変)。
しかし併合では1単元→0.5単元、0.33単元、0.25単元…と、単元未満株になることが確定しています(※2単元→1単元と、もともと複数単元保有している場合は変化があります)。保有株数によっては少数点未満の株(端株)も生じえます。
このように、分割に比して影響が大きいため、株式併合については株式総会における特別決議が求められています。
また、分割と異なり株数を減らすので、流動性が低くなってしまう可能性もあり、株主にとっても必ずしも良いことばかりとは言えないでしょう。
東証が、「望ましい投資単位」を上回った(株式分割が解決法)場合は考え方や方針を提示させているものの、下回った(株式併合が解決法)場合はそのような開示義務はないことも、上記を踏まえてのことと思います(上場規定409条)。
株式併合事例:双日
そんな大変な株式併合を実施した最近の事例として、双日を挙げておきます。
2021年4月30日に5株→1株の株式併合を株主総会議案とすることを決議しました(リリース)。
株式併合を行う理由は、
とされており、まさしく「望ましい投資単位」を意識した株式併合だったようです(※なお、株価自体は近年で急落したものではなく長期間停滞気味でした)。
最終的な株式併合の効力発生日は2021年10月1日ですが、この決議の時点でも、3月31日の株主名簿をベースに、併合による影響が試算されています。
「5株未満所有株主」6,247名については、どうしても小数点未満株式になりますね(「株主」ですらなくなる)。500株未満所有株主も数としては多いですが、100株未満になるので単元株未満となることが確定します。所有株式数の比率ではともかく、株主数では多大な影響であることが窺えますね。
リリースではしっかりと、端株は買い取られること、単元未満株は買取・買増の請求が可能であること、が言及されています。
また、配当も1株あたり金額を将来的に調整する予定であることも記されていますね。
とこのように、望ましい投資単位を意識して株式分割や株式併合を行った事例を紹介しました。
ではではまた。
補足:投資単位引下げについての考え方や方針のリリース例
さて、補足として、投資単位が50万円以上である場合に開示が求められる、「投資単位の引下げに関する考え方及び方針等」の具体例を見てみましょう。
何しろ世の中には「値がさ株」と呼ばれている株があり、もちろん「望ましい投資単位」なんて振り切った高値圏となっています。
そんな会社は、どんなリリースを出していると言うのでしょう?
ちょうどよく、Yahoo!に単元価格上位ランキングがありました。上位勢は5~6万円台の株価ですから、投資単位は500~600万円台ですね。「望ましい投資単位」上限を10倍以上振り切っています。
各社のリリースを見てみましょう。
上位3社はこんな感じですね。
現状具体的なアクションとなっているわけではなく、東証もそこまで目くじら立てて株式分割を迫るわけでもない、ということなのでしょう(あえて株式併合して「望ましい投資単位」を超過した、とかでもないのだと思いますし)。
ではではまた。
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