メザニン・ファイナンス(1):全体概要

ひろです。さて、エクイティ・ファイナンスと順序を入れ替えた「メザニン(Mezzanine)」について書いていこうと思います。

~ここから過去の記事~

メザニンとはもともと建築の世界で「中二階」の意味であり、1階でもなければ2階でもない、中間地点にあり、「階」とも数えられない床を指します。
ファイナンスの世界では、エクイティ(株式)=ハイリスク・ハイリターンと、(シニア)ローン=ローリスク・ローリターンとの間、ミドルリスク・ミドルリターンのプロダクトであることを意味します。
具体的には主に、株式であれば「優先株式」、ローンであれば「劣後ローン」ということになります。

どのような場合にメザニン投資家が必要になるのでしょうか? 買収等に関してであれば、多くの場合は以下のパターンかと思います(あくまでも買収ファイナンスの場合です)。

1.買収等に必要な資金をエクイティやシニアローンで工面しようとしたもの必要資金に満たないため、メザニンによって不足分を補おうとする場合
2.1.と同様に工面しようとしたもののそのままではエクイティの目標リターンを達成することが難しいため、メザニンによってエクイティの絶対額を抑え、リターンを高めようとする場合
3.1.と同様に工面しようとしたものの投資期間中のキャッシュフローではシニアローンの確実な返済に不確かさがあるため、期中のキャッシュフローを高めるためシニアローンの絶対額を抑えようとする場合

もちろん、上記目的のうちの1つではなく複数が目的になっている場合もあるかと思います。

以上のようにメザニンは「必ず必要」というものではないので、必要が生じた後で検討がなされることも多いと思います。

他、優先株式は企業のエクイティ性の資金調達において、たとえば「議決権を付与しない株式とすることで、議決権ベースでの希薄化が生じないようにする」といったこともあり得ますので、実際はメザニン資金調達は買収等以外にも多様な他の動機が存在し得ることは念頭に置いておいて下さい。

さて、メザニンについて優先株式と劣後ローンがあることは上で紹介しましたが、ではどのような観点から、メザニンが必要な場合にどちらにするかを決定すればよいでしょうか?
メザニンの専門家でなければ別に全てを網羅できている必要はないにせよ、以下の観点は念頭に置くのがよいと思います。

当然ですが優先株式は「株式」ですし、劣後ローンは「ローン」です。メザニンはオーダーメイドの要素も高いので何とも言いづらい所もありますが、劣後ローンは元本返済が必要ですが、優先株式は必ずしもそうではないことがあります。そのため結局の所、「ミドルリスク・ミドルリターン」の括りの中でもリスクの濃淡は異なるので、デット(ローン)・エクイティの比率やキャッシュフロー等を考える必要があります。
税務的には、利息分を損金算入できる劣後ローンが当然ですが有利です。優先株式に配当しても、当然ですが税金は減りません(というか、そもそも税金を支払った後の最終利益からでないと配当等はできません)。優先株式の場合は「増加する資本金の金額×0.7%」の登録免許税も発生してしまいます。そのため、税務的には明らかに劣後ローンの方が有利と言えましょう。
2.で記載した内容にも関わりますが、優先株式は最終利益から配当等は受領できますが、最終利益は、たとえば減価償却費等のように、必ずしも実際のキャッシュアウトを伴わない費用項目も減算された後のものです。要は「分配可能額の制限を受ける」ということですが、キャッシュが余っていても配当には回せない、といったことがあり得ます。

こんな所ですかね。

なお、格付機関(R&IJCR等)による信用格付上、このようなメザニンは「ハイブリッド証券」とされ、「資本性」という観点が登場します。
すなわち、元本償還義務の有無や利息・配当の累積の有無、優先株式なら普通株式への転換の有無等、様々な条件を踏まえて、当該ハイブリッド証券の資本性を評価し、たとえば資本性が25であれば「100億円のハイブリッド証券の25%の25億円分はエクイティ、残る75億円分はデット」として財務リスクが分析されます。
資本性については観点が公表されているので、詳細はここここをご参照下さい。

また、会計に目を向けると、日本の会計基準においては法的性質から資本・負債を分類するため「発行した優先株式が負債として区分される」ということはありませんが、IFRS(International Financial Reporting Standards:国際財務報告基準)においては経済的実態に基づいて区分するため、こちらに記載がある通り、「10年後に額面で償還することが義務付けられている優先株 → 負債として会計上認識」といったことがあり得ることも、よく知られる話です。

以上、メザニンが信用力にどのような影響を与えるかは、非常に専門的な内容となっていることが伺えると思います。
重要なことは、「優先株式で資本が増加」→「企業の信用力が増加」ではない、ということを、しっかり理解しておくことだと思います。そもそもIFRSだと資本の増加にすらなっていない可能性もあるわけです。

さて本日はメザニンの概要までとして、次回で優先株式、次々回で劣後ローンについて纏めたいと思います。

相変わらずひろは適当に内容を取捨選択していますので、細かな点については『買収ファイナンスの法務』や『エクイティ・ファイナンスの理論と実務』をご参照下さい。

~ここまで過去の記事~

リンク切れの箇所は修正しました。
ではではまた。


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