そして川は流れる 5 (連続短編小説)完
亜矢の言葉に
俊宏も驚いたようだ。
「まだらボケなんだけど、
そんなこと、今まで一度も
思い出したことなかったのにな」
亜矢が、朋明が自殺したことを
忘れて、それ以前の時代を
思い出しているようだ。
伊都は、やさしくほほえんだ。
「亜矢さん、きっと元気ですよ。
トモは天国で元気」
「天国で?
すてきやね、私も行きたいわぁ」
亜矢は、朋明がかつて贈った
十字架の絵を見て笑った。
「きっと幸せね、よかった」
帰り際に、俊宏が二人を見送って
玄関まで出てきてくれた。
「ジン、また、アキラの話、しような」
俊宏は、なんだかもう叶わぬ
夢のようにそう言った。
ジンは、強い意思を込めて答えた。
「はい、必ず、近いうちに」
二人が帰ってから、
俊宏はアキラが死んだとき、
自分の夢に出てきたことを
思い出した。
そして、トモが死んだときも。
「・・・こんな話は、
ジンにすべきなのかな。
また、今夜、アキラが夢に出てきそうだな」
―・・・今度夢に出てくるときは、
俊兄を迎えに行くよー
ふと風が吹き、アキラのそんな声が
したような気がして、俊宏は
長い歳月を懐かしく振り返った。
完
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