HOLY NIGHTS 第31話「藤田家のお家騒動」(連続短編小説)
先日の食事会から数日経って、
ほとぼりも冷めた頃。
新番組の収録を終えた
藤田が帰宅し、
亜也子と晩酌していたので、
大和はこっそり
自分の部屋でTVでも
見ようかと思っていた。
どの時間帯にも、ほぼ父親の
番組が放送されていて、
それを避けるクセがついている大和。
そんな大和に、藤田は
「おい!」と声をかけた。
その威圧感に、
飛び上がる大和と亜也子。
藤田は亜也子を制すると、
大和に、後で書斎に
くるように命じた。
書斎には、
殆ど家族を入れない藤田。
先日、純が来て、
書斎で何をしていたのだろうと
大和はあやぶんでいたくらいだ。
「・・・パンドラの書斎?」
そうつぶやく大和に、
亜也子は笑った。
「親子なんだから、
そんなに怖がるなることないわよ」
しかし、書斎での
藤田は怖かった。
「・・・お前は将来、何になりたい?」
唐突な藤田の質問に、
大和は戸惑う。
「そんな急に聞かれても・・・」
「大まかに聞くと、
プロデュースする側か、される側か」
「・・・会社員っていう選択肢はないの?」
「芸能関係に携わるつもりでないなら、
それでいい」
藤田の言葉に、ムッとする大和。
「父さんの息子だよ。
その可能性は否定できない」
藤田は渋い顔をする。
が、ほぼ予想していた
大和の反応に、藤田は話しを続ける。
「じゃあ、
はっきりさせておこう。
お前が純のようなアーティストに
なるなら、後押ししてやる」
大和は話の流れに、不審な顔をする。
「もし、僕が父さんみたいに
プロデュースする
立場になったら・・・?」
「潰す」
藤田の一言に、
大和は動揺を隠せない。
「何で? 親子だろ?
なんで僕を潰しにかかるのさ」
「父子、兄弟は、太古の昔から、
潰すか潰されるかで、
勝者が生き残った。
オレに潰されるような
夢なら捨てちまいな」
わけのわからぬ父親の言葉に、
大和はハッとする。
「僕が将来、純さんを
プロデュースすることが
許せないんだ?」
「お前が一人前になる頃には、
純なんて、手の届かない存在さ」
「じゃあ、なんで、
今からクギ刺すわけ?」
「お前の性根が気に食わねぇ」
藤田の言葉に、
大和はキョトンとする。
「・・・性根?」
「若干14歳で、何様だと思ってる?
もっと世間を知れ、大和。
今のお前はオレの七光りで
チヤホヤされてることに気付け」
大和は黙りこみ、そして、言う。
「プロデューサーはNGで、
アーティストはなんでOKなの?」
「純と同じ目線だからだ。
お前如きが、純の上に立つという
妄想は、子供でも許せん。
悪い芽は、早めに摘み取る。
オレのモットーだ。
たとえそれが実の息子でも」
「・・・父さんは、僕より、
純さんのほうが大事なんだね」
思わぬ話の展開に、
藤田は面食らう。
「何の話だ?
オレはお前の将来を語っている。
今の純とお前を比べているわけじゃない」
「うそだよ。
父さんは、純さんを誰にも渡したくない。
十年後の僕にさえも。
純さんをプロデュースするのは、
自分だけだと、先制してる」
大和の意外な洞察眼に、
感心すると共に、藤田は意地悪く言う。
「・・・オレのモノに
手を出すには30年早い。
但し、お前がオレに
プロデュースしてほしいなら
尽力する。
それが、男、藤田良樹の言い分だ」
親の七光りに甘えて、
純に偉そうなことを
言った自分を恥じ入ると共に、
大和は藤田以上の熱意で、
その挑戦に応じた。
「僕はプロデュースする側だ。
いつか、父さんを越えて、
国沢純をプロデュースする」
その言葉の裏には、
まだ父親に甘えたい少年の
複雑な心理と、
男のプライドがあった。
続
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