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HOLY NIGHTS 第10話「かれんと藤田の過去」(連続短編小説)

シフォンケーキを食べた後、
純は、藤田の書斎へ行った。

純の狭いマンションとは違い、
一戸建ての藤田邸は
かなり広く、そして
亜也子の趣味か、家具や小物などが
とてもセンスよく配置されていた。

「益子かれんのOKが出た。
で、オレとかれんのスケジュール待ち。
・・・そんな中、何の用だ?」

藤田の無愛想ぶりも、
この家の中では、
かわいく見えてしまう。

純はかれんとのことと、
地方ラジオの真相を尋ねた。

まず、ラジオの一件は、
良樹の赤面モノだった。

「もう数年以上も前の話だぞ。
なんでそんなコト憶えてるんだ?」

「さぁ、かれんさんが、
良樹かオレによっぽど
興味あるんじゃない?
とにかく事実なんだね、
公共の電波使って、オレに
コクったってこと」

「コクるとか言うな、バカ」

「じゃあ、なんだよ」

「・・・ホレてたってことさ」

今度は藤田が得意気に、
ニヤリと笑い、純が赤くなる。

「そっちこそ、バカだろ、
そんなことラジオで言うなっつーの」

そしてもう一件。
藤田とかれんの関係。

「これは、はっきりさせておこう」

藤田は真顔で語った。

「彼女のデビュー当時、
ちょっと、あった」

「はぁぁ??」

純は思わず叫んでしまう。

「なんで、益子かれんとの
コラボ云々のときに、
その話しなかったんだよ!」

「・・・もう20年近く前のコトだったし・・・」

「それからは、何もないわけ!?」

「これからも、何もない」 

不貞腐れて書斎のソファに
座っている純を、
藤田は自分のデスクの方へ呼ぶ。

PCで何か見せるつもりなのかと
思って近づいた純の顔を、
藤田はグイッと引き寄せた。

慌てて身をかわす純。

「バ、バカ!」

自宅の書斎で、
妻子がリビングにいる状況で、
この男は何をしでかすのだろう。

純の方が心臓がバクバクした。

「‘黙っててごめん’、と
‘かれんより純’だ、のイミ」

藤田はあっさりそう言うと、
純をデスク脇の椅子に座らせる。

「・・・それに、お前の‘鮎の塩焼き’の
例えが新鮮で、
昔の益子かれんなぞ吹き飛んだ」

藤田に促されて、
PCの画面を見る純。

外国チックなアニメの動画、
ちょっとぎこちない動きが
絵画のようでもある。

背の高い、イイ男と、
気の強そうな女性が言い争っている。

「・・・この絵でいこうかと思ってる。
お前の歌詞にあわせて
アニメーション作らす予定だ。
とりあえずケンカシーンで
デモ作らせた」

無国籍な人物像。
大まかな動き。
どこの国かわからない風景。

「うわぁ、おもしろい!」

今どきの、なめらかな動きの
アニメと違うところが
ノスタルジックで、
純は魅入ってしまう。

ポニー・テールに
水玉ワンピースの女性が、
ひげ面のタキシード姿の男に
ビンタを食らわす。

「・・・50年代とか、60年代の感じだね」

「気に入ったか?」

純は深くうなずく。

「曲のイメージにも合うと思う。
ちょっと懐かしい
ノリのお遊び的インパクト大なの、
考えていたから」

「そりゃ、よかった。
しかし、洋介はそんなノリの曲、
好きじゃないだろ?」

洋介はバラード系か、
ロック系が好きなのを、
藤田も知っている。

「でも、この案は、洋介もかんでるし、
別に不満そうでもなかった」

「お前がかれんに落ちん限りは、
よし、ってところだろうな」

純は、藤田の大きな背中を
バンッとたたく。

「自分もいろいろあったくせに、
人にとやかく言うなよ」

「あー、わかったよ。
しかしこの件は、かれんは勿論、
洋介にもナイショだぞ。
話しがややこしくなる」

「オレにしてみりゃ、
良樹がオレに打ち明けたことが
一番ややこしいと思うけど」

「お前とかれんを
ひっつけたくないんでね」

「何で?」

「これ以上、純に、
誰も触れさせたくない」

「・・・へっ。勝手言ってりゃあ」

「そーゆー男だって、知ってるだろ?」


             続

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