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僕の見た景色 3 (連続短編小説)

飲み会まで、まだ少し時間があったので
その店で、ビールとつまみだけ
食べて行こうと思った。

18歳にしては、手慣れたものだが、
実は僕には5つ上の姉がいて、
もうすでに、姉のお供で
外で飲んでいたのである。

「生中と、なんか1品」

小汚い中華屋に入ると、
そこには彼の父親らしき人が
料理をしていた。

アキラは適当に台湾語で
注文を通すと、別の客の注文を
取りに行った。

なんと、店で日本語が話せるのは
彼だけで、レジも彼がやっていた。

ビールをもってきたアキラに
僕は言った。

「お前、いくつや?」

アキラは、へッと笑った。

「小5」

小学生に店を回させている
父親も父親だ。

それを察して、アキラは
フン、と鼻をならした。
どうもよくあるシチュエーションらしい。

「家の仕事は、不法じゃない。
オレ、張志明。ヂーミンなんて呼ぶな。
ミンをアキラと読め。あんたは?」

漢字をテーブルに書いた
アキラの指は、案外繊細だった。

対等に話てくる小5に、
驚いた。それにしても背も横もでかい。

「神木俊宏ってんだ。
今年から花の大学生」

僕も、テーブルに、漢字を書く。

「あんたも未成年。
それに台湾人みたいな名前」

それは初めて言われた。

「日本人でも珍しくない名前なんやけど。
台湾語で、なんて読むん?」

「覚える気ないなら聞くな」

すげぇ、片言で、言い返してくる
アキラに恐れ入ったが
冷めた僕の目には、何か新しいものの
ように映った。

           続




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