僕の見た景色 1 (連続短編小説)
やっと、一日の行事を終えた僕は
喪服から部屋着に着替えて
リビングのソファに腰かけた。
亜矢が温かいお茶を淹れてくれる。
亜矢は葬儀にだけ参列して、
午後早くには家に戻っていた。
体の弱い亜矢は、
昨夜の通夜だけでも十分だったのだが、
彼女は僕を心配してくれて
今日も来てくれたのだ。
「・・・こんな突然やのに、
すまんかったな」
亜矢に声をかけると、
さみしそうに微笑んだ。
「アキラさんらしいわ」
アキラは、突然、亡くなった。
でも、それは、僕にとって
全然、意外ではなかった。
むしろ、長療養などするタイプでは
なかったので、当然のような気がした。
喪主は、アキラの妻だったが、
弟のゴウが主に、葬儀を仕切っていた。
「あの、ゴウがな。ずいぶん大人に
なったもんや」
そう言いながら、
昔、ふてぶてしいアキラのそばで
小さくなっていたゴウを
思い出す。
亜矢は笑って僕をいなす。
「昔の頃のイメージのままやのね、
あなたにとっては」
40才過ぎた男に、
子供の頃の面影を見出すのはおかしなものだ。
僕たち夫婦には、子供がいないから
アキラやゴウは、僕にとって年の離れた弟、
その子供たちは、甥っ子や孫のような
気がしてならない。
「この何十年、ずっと一緒にいたわけや
ないのにな。
いなくなって、ぐっと存在が近くなる」
亜矢は静かにうなずく。
「・・・人生、そういうもんかも
しれんね。
落ち着いたら、いろいろ聞かせて」
僕は、アキラの話を、切れ切れにしか
妻に語ってこなかったことに気付く。
「・・・どこから話そうか?」
「・・・そうやね、この35年間を
一度、順をおって聞きたいと思ってんよ」
「・・・35年になるか」
僕は、気の遠くなるような歳月の流れに
飲み込まれていくような感じがした。
続く