HOLY NIGHTS 第23話「一対一 藤田と洋介」(連続短編小説)
「何で藤田さんが、
オレと直接会いたいわけ?」
純から、藤田の話を聞き、
洋介は不審な顔をする。
「表向きには、
作曲に関して云々とか言ってた」
洋介は何となく気が進まない。
「断るわけには
いかないんだろーなぁ」
「・・・まぁ、一度会ってみれば?
直接話したことないだろ?」
自分より、実力も権力も持ち合わせ、
長年に渡り、純と関わっている藤田。
今更、一対一で、
何を話したいというのだろう。
洋介は否応なしに、
申し入れを受けて立つしかなかった。
藤田のオフィスを訪ねる洋介。
スタッフに案内されて、
藤田のいる部屋へ向かった。
「社長室」とでも書いてあるのかと
思っていたが、
ドアには会社のロゴ・プレートが
掛っているだけだった。
「藤田さん、
篠原洋介様がお見えになりました」
呼び方も「さん」付けで、
洋介は、フランクな社風に驚いた。
純はいつもここに来て、
藤田とどんな話をしているのだろう。
部屋はすっきりした造りで、
大きなデスクに藤田が座り、
その手前に、応接用の重厚な
テーブルがあった。
スタッフが立ち去ると、
藤田がデスクから立ち上がった。
大きな男だ。
体も、オーラも。
「おう、洋介、久しぶり」
いきなりそう言われ、
洋介は、自分の父親に
会ったかのような気がした。
藤田は、実際、洋介たちと
数歳ほどしか変わらないのだが、
圧倒的な威圧感は、半端なかった。
「まぁ、座れよ」
藤田の勧めで、
洋介はソファに腰を下ろす。
藤田もテーブルのほうに
やってきて、
洋介の向かい側のソファに座る。
チノパンに黒の長袖シャツ、
そのすっきり、がっしりした体形は、
何を着ても似合うだろう。
そして目力の強さ。
洋介は自分が子供に
なったかのように思えた。
そんな様子を見て、
藤田は大らかに笑う。
「そう、固くなるなって。
君が、ここ十年、
純を支えてきてくれた篠原洋介か。
君と出会ってから、
純は強くなったと思う」
「いや、僕と純は、
学生時代からの知り合いで・・・
もう二十年近くの付き合いです」
「いや、ちゃんと付き合い出したのは、
十年ほど前からだろう?」
露骨な質問に、
洋介は眉をひそめる。
「・・・何が言いたいんですか?」
藤田は顔をほころばす。
何とも魅力的な表情だ。
「いやいや、今更、君らの関係が、
どーのとは思っちゃいない。
ただ、オレの番組に2曲も
提供してくれてありがたいのと、
あと、益子かれんの今後の
取り扱いについて、聞いておきたい」
「・・・取り扱い?」
「いや、言い方が悪いな・・・今後も
マリー・ゴールドとして
やっていくべきかどうか、だな」
洋介は神妙な顔をする。
「それはプロデューサーの
藤田さんが決めることで、
相談相手は僕じゃなくて、
純でしょう?」
藤田は真っすぐ洋介を
見据えて言った。
「いや、君と相談したい。
マリー・・・というより、
国沢純の方向性を、
純を一番よく知る君から聞いてみたい」
続