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HOLY NIGHTS 第12話「困った成人男子たち」(連続短編小説)

昨日の昼、デライラを預けて、
純はどこかへ行ってしまった。

何日後に帰るとも、
何をしに行くとも
一切告げないのは、
毎度のことだったが、
洋介はデライラを見つめて
溜息をつく。

「お前のご主人は、
どこで何をやってるんだ?」

デライラは首をかしげる。

「お前にも言わないのか?」

デライラは興味なさそうに、
毛づくろいをし始める。

藤田良樹の登場、
益子かれんの出現、で、
洋介は多少疲れていた。

「わかってんだよ、純、
お前がどーしようもない奴だって。
だけど毎回、猫を預かる身にも
なってみろよ。
しかも今回は、かれんさんの
曲までおいていきやがって」

だいたい出来上がった歌詞と、
荒削りなギター音を残して、
ドロンした純。

純の情熱を受け止めるのに、
どれほどの人間が
必要なのだろうか。

めずらしく、洋介は、
イライラしていた。

目に見えない相手ならともかく、
藤田、かれんは
あからさま過ぎる。

藤田とは、当然、
昔から関係があるだろうし、
純が女性に興味を示すのも頂けない。

「・・・なぁ、デライラ、
オレって女々しいか?」

デライラはちょっと意地悪い目で
洋介を見る。

その目が、
‘お前も浮気してみたらどうだ?’と
言っているようで、
洋介は苦笑する。

「オレが、純以外の誰かと?」

しかし、身勝手な純の繊細さや、
傷つきやすさ、
またその背中合わせに持っている
底知れない才能を
知り尽くしている洋介には、
みすみす純を壊してしまうような
ことはできなかった。

「せめて、あいつが、オレなしじゃ、
にっちもさっちも行かないって
思っててくれたら、
救いもあるっつーもんだがね」

デライラは、洋介の言葉に
ピンと耳を立て、
それから洋介にすり寄って来る。

「マジか、デライラ? 
純はそう思っているのか?」

デライラは、
猫特有の無責任な表情で、
洋介の腕の中でゴロゴロのどを鳴らす。

「お前も飼い主に似てるね。
どこまで信じていいのやら。
純は猫並みだ」

その晩、純は、音楽仲間の
高村陽嗣のところで飲んでいた。

年に何回かの逢瀬。
互いに何か抗えないものを
感じていた。

「今度、益子かれんとコラボする
らしいじゃないか」

「・・・うん、良樹と一緒に」

「は! お盛んなこって」

「良樹とは、フツーだよ」

ソファでうつらうつらしてきた純を、
高村は揺り動かす。

「おい、眠るなよ、純」

純は夢心地で、目を閉じる。

「だって、もう、疲れた。
おやすみ・・・ヨウ・・・」

純はそのまま、
すーっと眠りについた。

高村陽嗣は、フッと笑う。

「ヨウって、
洋介のことじゃねーか、バーカ」

高村のことは陽嗣と呼ぶ純。

飲んでる相手が洋介だと
思って眠りについたのを
高村は面白くなく感じたが、
あまりに純の寝顔が穏やかで、
わざわざ追求する気もなくなった。

「お前には、
洋介がいればいいんだよ、純。
火遊びは、もういい加減にしておきな」


              続


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