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HOLY NIGHTS 第2話「デライラ」(連続短編小説)

その晩、藤田と飲んだ後、
純は、篠原洋介に電話した。

「・・・なんだ、純、もう1時だぜ」

「どうせまだ飲んでるんだろ?」

篠原洋介は、
純の学生時代の同級生で、
同じ音楽の道を目指しながら
やってきた。

今では音楽学校の講師をしつつ、
純の楽曲作りにも関わっている。

事務所も通さない交友関係なのだが、
公認のコンビで、
純の事務所も楽曲に応じて、
洋介にギャラを支払っている。

洋介の電話口で、猫の鳴き声がする。

「デライラ!」

デライラは純が飼っている三毛猫で、
純が不在のとき、
洋介が預かっている。

「家飲みかい、洋介?」

「うるっせーな。デライラを3日も
オレに預けやがって、
こいつ、全然メシ食わないんだぜ」

そんなコトをこんな時間に報告されて、
純は洋介の・・・いや、デライラの元に
駆けつけないわけにはいかない。

深夜2時前、純は洋介の
マンションに駆け付けた。

デアイラは険悪なムードで、
純をにらみつける。

「ご、ごめんよ、デライラ」

猫は、にゃん!と猫パンチを
食らわすと、どこかホッとした
様子で純の背を向けて、
マンションの奥に姿を消した。

「あれで、めちゃくちゃ純の帰りを
待っていたんだぜ」

「お前に言われなくてもわかってる!」

洋介の部屋は気の毒なくらいに、
酒と、キャットフードにまみれていた。

「で、何してた?」

洋介の問いに、純はモジモジする。

「3日間?」

「いや、全部は聞きたくない。
この時間まで何してた?
・・・っつーか、それを報告したくて、
電話してきたんだろ?」

純はいたずらっぽく笑う。

洋介は、この純の顔に弱い。
幼さと好奇心と打算と夢と、
多少のエロチックが混じり合った表情。
普通に言えば、色っぽい、のだが。

「・・・なんか企んでるカオだな」

「ああ。今日、藤田良樹と会って来た」

「え・・・藤田さんと? まさか・・・?」

純は少年のように笑う。

「昔のこと、ほじくるなよ。
良樹とはいいビジネスパートナーだ」

「・・・オレも、それで、コレだろ?」

長身にスレンダーボディの純と
ほぼ同じ体格の洋介。
藤田はそれにウェイトもあり、
更に怪しいニオイがする。

「・・・ヨウ・・・」

それは純がそんな気分のとき、
洋介を呼ぶ呼び方だった。

「バーカ、この酔っ払い。
ヘンな気おこす前に、
藤田さんの話、聞かせろよ」

冷たい水を渡されて、
純は少しシャキッとする。

「デライラは、今日、連れて帰るから」

「だから、藤田さんの話を・・・」

やっと本題に辿り着き、
純は概要を説明する。

「ふーん。じゃあ、作ろうよ」

あっけない洋介の返事に、
純は拍子抜けする。

「何か、もう案でも・・・?」

洋介はおもむろに純を引き寄せた。

「デライラの帰りは明日だ。
それまでにじっくり考えればいい」

             続


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