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HOLY NIGHTS 第13話「ある晩の出来事」(連続短編小説)

洋介は、深夜、
かれんの曲を書きおこしながら、
溜息をついた。

純は女心を歌詞にできても、
洋介にはそう簡単に
理解できない。

と、寝室のたんすから、
何かが落ちる音がして、
洋介は思わず立ち上がる。

「デライラ、何をしてるんだ!」

籐のたんすの下から
二番目の引き出しが少し
開いていたのだろう、
デライラはそこに
もぐり込もうとして、
引き出しごと、
床に落ちてしまったようだ。

それでも構わず、
洋介の衣類をひっかきまわしている。

あんまりこういう
イタズラはしない猫なので、
洋介は自分のフラストレーションに
デライラが反応してしまったのか、
と反省する。

と、猫の爪の間から、
衣類に混じって一枚の写真が
こちらに吹き飛んで来た。

「・・・え・・・?」

言葉を失う洋介。

デライラは魔法の
猫なのだろうか。

その写真は、遠に別れた、
洋介の元彼女のものだった。

20代に付き合っていた彼女。

純も知っていたが、
彼女は、純と洋介の
関係を知らなかった。

十年近く前のある晩の出来事。

あの事件で、
すべてが終わった。

真夏の夜の、純の自殺未遂。

まだ駆け出しの
シンガーだった純はいろんな
プレッシャーに押しつぶられかけていた。

彼女と純の間で揺れていた洋介に、
純は、その夜、電話してきた。

「・・・ヨウ・・・一人?」

洋介の隣には、彼女の翔子がいた。

それを察してか、黙る純。

洋介は構わず、続けた。

「どうした、こんな夜中に」

ちょっとして
純のつぶやくような声がした。

「・・・オレは、一人でさ・・・」

しばらく言葉が出ない純。

洋介も黙っているが、
何か不穏な空気を感じた。

純は再びつぶやく。

「・・・さみしくて・・・」

「おい、なんだ?
どうしたんだ?」

「・・・血がとまんない・・・」

洋介は、翔子を置いて、
部屋着のまま、家を飛び出す。

そして、バイクで純の
マンションに向かった。

合鍵はもっている。

翔子は非常事態とはいえ、
まったく事情を語らぬまま、
自分を残して行ってしまった
洋介の後ろ姿を見つめていた。


               続 


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