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一炊の夢(シナリオ)

あらすじ
相田蘭子は子育て中で、
なにかとイライラしている。
ご飯をたきながら
ソファでウトウトしていると、
夢の中で、30年後の自分と娘と孫に出会う。
自分の半生を見て目がさめると、
それはご飯がたける間に見た一炊の夢だった。

人  物
相田蘭子(35)(65)主婦
相田(井上)里香(5)(35)蘭子の娘
井上るい(5)里香の娘
相田直人(36)

○相田家のニ階・子供部屋(夜)

   相田蘭子(35)が相田里香(5)を
   ベッドの中で寝かしつけている。

   不機嫌にぐずる里香に、手を焼く蘭子。

里香「やだやだ、まだ眠たくないー。
  もっとテレビ見たい」

蘭子「もう子供は寝る時間なの。早く寝なさい」

里香「パパは? いつ帰ってくるの?」

蘭子「今日は遅いから、先に寝なさい」

里香「パパが帰って来るまで寝ないもん」

   里香、ベッドから抜け出そうとする。
   蘭子、イライラして、里香の体を
   つかんで戻す。

蘭子「寝なさいって言ったら、寝なさい!」

   里香、ぎょっとして黙ると、
   ベソをかいて布団にもぐる。

   蘭子、溜息をつくと照明を落として、
   子供部屋を出る。

○同・一階のリビング(夜)

   ぐったりとした様子の蘭子が入って来る。
   時計は10時をさしている。

○同・キッチン(夜)

   蘭子、蛍光灯の光の下で、
   明日の弁当のおかずを作り始める。

   オムレツとブロッコリー炒めと、
   ウィンナーを調理して、炊飯ジャーを
   セットすると、キッチンを後にする。

○同・リビング(夜)

   再びリビングに戻って来る蘭子。

   イライラと洗濯物をたたみ、
   アイロン台にYシャツをのせるが、
   そのままにしてソファに
   どーんと腰かける。

蘭子「あー、疲れた・・・ったく、遅いなぁ」

   蘭子、バタンとソファに横になると、
   目を閉じる。

○(夢)井上家のリビング(夕方)

   相田蘭子(65)が、窓辺の
   リクライニングチェアで眠っている。

   井上るい(5)が、リビングに入って来て、
   蘭子のそばにくる。

るい「おばあちゃん!」

   蘭子、びっくりして目をさます。

蘭子「お、おばぁ・・・?」

   るい、満面の笑顔。

るい「おばあちゃん、ただいまぁ。
  お昼寝してたの? 
  るいは保育園でいっぱい遊んだよ」

   蘭子、きょとんとして、るいを見つめ、
   そして自分の手を見る。
   手を見て、その手で  
   自分の頬に触れて驚く蘭子。

   蘭子、自分を指さして、
   るいに小声でたずねる。

蘭子「・・・おばあちゃん?」

   るい、不審そうに、しかし当然と
   いう顔でうなずく。

   蘭子、あわてて立ち上がり、
   鏡はないかとリビングから洗面所
   らしき方向へ向かおうとする。

   と、ドアのところで、井上里香(35)と
   ぶつかりそうになる。

里香「あら、母さん、腰の調子はどう?」

   蘭子、里香をまじまじと見つめる。

蘭子「・・・里香?」

   里香、蘭子の様子におかしそうに笑う。

里香「どうかしたの?」

   蘭子、絶句する。
   と、急に腰が痛み出し、
   あいたた・・・と腰に手を当てる。

○井上家・和室(夜)

   蘭子は腰に湿布を貼ったあと、
   机の上に置いた鏡を見つめ、
   溜息をつく。

蘭子「(小声で)普通、こういうのって、
    バック・トゥー・ザ・フューチャー
    みたいに昔に戻って、
    自分の両親の若い頃に出会ったり
    するもんじゃない? 
    何で私はこんなおばあちゃんになって、
    未来の孫に出会ったりするの?」

   蘭子、鏡から顔を上げると、
   仏壇を見つめる。
   そこには定年間近くらいの
   相田直人(58)の写真。

蘭子「あなた、早死にするんだなぁ。
   私と一緒になって幸せだったのかなぁ」

里香の声「母さん、ご飯よ!」

   蘭子、腰をかまって、よっこらしょ、
   と立ち上がる。

蘭子「娘の料理はどんなものかしら」

○同・キッチン(夜)

   里香とるいがテーブルについている。

   蘭子も席につく。

   テーブルの上にはゆでたブロッコリーと
   ウィンナーがのっていて、里香とるいには
   オムライス、蘭子には焼き魚と
   白ご飯が用意されている。

   蘭子、思わずほほえむ。

蘭子「私も一口だけ、オムライス
  もらってもいいかな?」

   るい、驚いて、蘭子を見つめる。

るい「おばあちゃん、どうしたの?」

里香「ほんと、めずらしい」

   里香、オムライスを取り分けて、
   蘭子に渡す。

   蘭子、一口食べて、目を細める。

○同・リビング(夜)

   里香が電話で話している。

里香「え? 今夜も遅いの? 何時? 
   ・・・なによ、先に寝てるわよ」

   ガシャンと携帯を着る里香。

   テレビを見てはしゃいでいる、
   るいをしかりつける里香。

里香「もう寝る時間でしょ、いつまで起きてるの。
   ママ、明日もお仕事なんだから、
   早く寝てちょうだい」

   るい、しゅんとする。

   里香、せかせかとテレビを消すと、
   るいをせっついて二階の子供部屋に
   行こうとする。

里香「ママ、お風呂入りたいの。
   早く寝てちょうだい。
   るいのお弁当も作んなきゃいけないし」

○同・和室(夜)

   廊下からする里香の声を聞いて、
   立ち上がる蘭子。

   そっと扉を開けると、階段の下で
   るいがぐずっている。

るい「やだやだ、まだテレビ見てたいー」

里香「いい加減にして。子供は早く寝さない!」

   里香の大声に、ギョッとするるい。
   その目が、子供のころの里香の表情と重なる。

   蘭子、思わず廊下に飛び出す。

蘭子「ゆっくりお風呂入っておいで。
   この子は私が寝かしつけるから」

   きょとんとしながらも、
   悪い気はしないようで、
   里香、風呂に向かう。

   蘭子、るいの手を引いて、二階に上がる。

○同・二階の子供部屋(夜)

   るい、さっきからベッドの中で
   ベソをかいている。

蘭子「ほらほら、もう泣かないの」

   蘭子がティッシュを鼻に当ててやると、
   るい、チーンと鼻をかむ。

   その様子がかわいくて、ほほえむ蘭子。

   そんな蘭子をみて、るいがたずねる。

るい「おばあちゃん、ママはどんな子供だったの?」

   蘭子、ちょっと驚く。

蘭子「そ、そうね、今のるいと似たような子だったよ」

るい「いつも寝るときに怒られてたの?」

蘭子「そうね、そうかもしれない」

   るい、ちょっと考えてたずねる。

るい「おばあちゃんは・・・おばあちゃんは、
  どんなママだったの?」

   一瞬、息を飲む蘭子。

蘭子「・・・どんなママだった・・・?」

○元の相田家のリビング(夜)

   ソファで眠っている蘭子(35)。

   突然、大きな手が伸びてきて、蘭子をゆする。
   蘭子、驚いて飛び起きる。

   相田直人(36)もびっくりする。

直人「そんなに驚くなよ。こんなところで
  寝てたら風邪ひくぞ」

   蘭子、しばらくぼんやりと辺りを見まわす。
   腰をひねってみるが、何ともない。

蘭子「あなた・・・帰ってたの?」

直人「もう寝てるかと思って、
   そっと入ってきたんだ」

   蘭子、ハーッと大きな溜息をつく。

蘭子「・・・夢か・・・」

直人「何?」

   蘭子、何でもない、と首を振ると、
   直人を見てほほえむ。

蘭子「おかえりなさい」

   直人、いぶかしげに首をかしげる。

   蘭子、くすっと笑って、二階に向かう。

○同・二階の子供部屋(夜)

   蘭子、里香の寝顔を見つめている。

蘭子「ごめんね、里香。やさしいママになってね」

   蘭子、里香の髪をそっとなでると、部屋を出る。

○同・キッチン(夜)

   炊飯ジャーのスイッチが音を立てて、
   保温に入れ替わる。

               了


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