SING A SONG(シナリオ)
人物
田中 聖司せいじ (27)演歌歌手
国沢 純 (35)シンガソングライター
北山 和人かずと (45)聖司のマネージャー
○テレビ関東・Aスタジオ・中
歌番組の収録中。
田中聖司(27)が
華やかなステージ衣装で、
声高らかに演歌を歌い上げる。
若い女の子たちの歓声。
歌が終わったところで、
司会者「聖司くんは演歌界の新星ですね。
若い女性の声援がすごい」
聖司「ありがとうございます」
聖司、初々しく、
整った顔をほころばせる。
再び、女性たちの黄色い歓声。
司会者「老若男女を問わず、
ファン層が広いのは
本当にすごいと思いますが、
いかがですか?」
聖司「ありがたいですね。
僕自身、おばあちゃん子だったので、
年配の方はもちろん、若い方にも
喜んで もらえるよう、
がんばります」
黄色い歓声を後にして、
ステージを去る聖司。
司会者「では、次のゲストは、
国沢純さんです」
再び、女性の熱狂的歓声。
○ステージのそで
すれ違う聖司と国沢純(35)。
視線が絡まり、聖司が微笑むと、
国沢はそれを制するような仕草で、
ステージに上がる。
○ステージ・上
ラフなジーンズ姿で、
ギター片手に現れる国沢。
司会者「国沢さん、今回の新曲には
どんなメッセージが込められて
いるんですか?」
国沢「・・・そういうコメント、
苦手なんで・・・
曲、聞いてください」
ギターで弾き語りを始める国沢。
しっとりとした男気のあるバラードに、
ファンたちは聞き惚れる。
○ステージのそで
歌っている国沢を、
うっとりと見つめる聖司。
それを北山和人(45)が
ひっぱって行く。
○国沢のマンション・寝室(夜)
ベッドに横たわり、
タバコを吸う国沢。
その横に、聖司が寝転んでいる。
国沢「聖司さぁ、わかりやす過ぎだぜ」
聖司「・・・え?」
国沢「今日の収録。また北山のヤツに
ひっぱって行かれただろ」
聖司、しゅん、としてうつむく。
聖司「・・・だって、純、
カッコいいんだもん」
吹き出す国沢。
国沢「お前さ、ストレート過ぎ」
しょんぼりした聖司を、国沢、
ぐいっと引き寄せる。
聖司、甘えた声で、
聖司「・・・純はモテ過ぎだよ」
国沢「まぁ、一応、芸能人だからね」
余裕で笑う国沢を見て、
ふてくされる聖司。
国沢「でも、国宝モノは聖司の方
なんだぜ、悔しいけど」
聖司「・・・演歌、全然興味ないくせに」
国沢「そりゃね、歌えねぇよ、絶対」
おちゃらけた様子の国沢に、
聖司、体を離す。
国沢「なに怒ってんだよ、聖司」
聖司「・・・音楽の話、したくない」
国沢「何で? オレたち、仮にも
ミュージシャンだぜ」
笑いを含んだ国沢の声に、聖司、
さみしそうな表情をする。
聖司「・・・純は、自分で曲書けるから
いいよ」
聖司を再び引き寄せ、
興味深げに顔をのぞきこむ国沢。
国沢「どした、聖司?」
聖司、ちょっと国沢から体を引き離し、
それから思い切り抱きつく。
国沢「オイオイ、聖司・・・」
○Jミュージック・オフィス・中(朝)
北山がイライラしながら、
聖司にコーヒーを渡す。
北山「・・・朝帰りできるほど、
楽な仕事じゃないだろ。
お前を中心に、どれほどの人と金が
動いているか、
十分わかっているはずだぞ」
聖司「・・・ごめんなさい・・・」
北山、何とも言えないといった
表情で、聖司を見つめる。
そのまなざしに苦渋の色がある。
○コンサート会場・中(夕方)
ステージの上で歌う聖司。
顔色が悪い。
それでも満面の笑みでステージを
続ける聖司。
汗がポタポタと頬を伝う。
○ステージ・そで(夕方)
北山が聖司の様子を見て、
他のスタッフに話かける。
北山「おい、ちょっと、
聖司の様子が・・・」
そう言い終わらぬ間に、聖司、
ステージの上に崩れ落ちる。
北山「おい、聖司!?」
幕が降りる前に、
ステージに駆け出す北山。
○国沢のマンション・リビング(夜)
ソファに座り、新聞を
広げている国沢。
見出しに、田中聖司、
ステージ中に卒倒!の文字。
新聞を閉じると、
向かい側に座る聖司を見つめる国沢。
国沢「・・・今日の今日だろ?
大丈夫なのか?」
聖司、こくん、と、うなずく。
国沢、苦笑して、
国沢「オレが北山に殺されちまうよ。
点滴のあとも生々しい
聖司クンが、こんなところに
いるのがバレたら」
聖司、左腕の注射のあとを
手でかくして、
弱々しく笑う。
聖司「・・・ごめん、僕・・・」
聖司の目からポロリと涙がこぼれる。
国沢、困ったな、という顔をして、
聖司の横に座る。
国沢「仕事が命のお前らしくないぞ。
何がひっかかってるんだ?」
聖司、首をふる。
聖司「わかんない、だだ、純と
一緒にいたいだけ・・・
一晩中、純といたいだけ・・・」
国沢「で、ステージでぶっ倒れるなんて、
プロ意識なさ過ぎだぜ」
子供のようにベソをかく
聖司を抱きしめる国沢。
国沢「・・・オレは男だ。
聖司のそんな顔見てたら、
ムラムラくる。
でも、お前も男だ。
プライドを持って仕事して、
それからオレのところに来い」
国沢の腕の中で、ぼんやりと
つぶやく聖司。
聖司「・・・僕ね、本当は、
純の曲の中に入りたいんだ」
国沢「・・・え?」
聖司「純に曲書いてもらっても、
僕は歌えないから・・・
純の曲になって、純に
歌って欲しいんだ」
国沢、しばし、聖司を見つめる。
国沢「・・・そんなことを考えていたのか・・・」
○Jミュージック・オフィス・応接室・中
北山が敵対心あらわな目で、
国沢をまじまじと見つめる。
北山「まさか、あの国沢純が、直々に、
聖司に曲を提供するとは・・・」
国沢「ジャンルの違いは、もちろん承知してます、
でも、是非・・・」
北山、国沢をじっとにらむ。
北山「・・・それは、聖司の希望、ですか?」
国沢、少し考えて、
国沢「・・・いえ、私の希望です」
北山、強い目で、国沢を見つめる。
国沢、目をそらさない。
しばらくして、北山、
北山「・・・わかりました」
○レコーディングスタジオ・中(夕方)
北山から譜面を渡される聖司。
それをしばらく見つめて、
驚く聖司。
聖司「北山さん、これ・・・」
北山「・・・こんな曲を書く男だとは
思わなかったよ」
聖司「僕が歌ってもいいの?」
北山「・・・お前が歌いたいように
歌えばいい」
譜面を見つめる聖司の表情が
ほころんでいく。
○レコーディングスタジオ・中(夜)
収録マイクの前に立つ聖司。
やさしいピアノ曲が流れる。
聖司、目をつむり、夢見るような
表情で、歌い始める。
美しい歌声は演歌調ではなく、
ポップス調で、軽やかに響く。
歌はサビに入っていく。
聖司「(歌声)君の見せた涙が、
僕の胸に突き刺さったまま、
幾晩も幾晩も君を想い、
やっとできたこの詞しが、
君の胸に響いてくれよと、
心から心から祈るばかり」
聖司の歌声に満足気に、
しかし、さみしそうに目を
閉じる北山。
○国沢のマンション・リビング・中(夜)
誰もいないリビングで、
テレビがついている。
テーブルの上には、飲みかけの
ワイングラスが二つ。
寝室のドアが少し開いている。
CMに聖司の美しい顔のアップと、
ポップスソング。
聖司「(歌声)・・・心から心から祈るばかり」
了
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