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HOLY NIGHTS 第3話「乙女な男子」(連続短編小説)

デモ・テープは
一週間くらいで仕上げに
向かっていた。

たいてい純の作詞で、
その鼻歌から洋介が
音を拾って構築する。

「ドラマの配役が
わかればいいんだけどな」

洋介の言葉に、純はつぶやく。

「良樹は最初、この男役、
オレにしたかったらしい。
ウソかホントかわかんないけど」

「・・・純が、フラれてボロボロになる、
この男役?」

洋介は思わず吹き出してしまう。

「ハマり役ちゃー、ハマり役だが・・・
女優は、誰?」

「今んとこ一応、演技派の
益子かれんで考えてるらしい」

「おー、かれんサンか~。
純、のまれちまうな」

「オレは俳優じゃないから、
かれん役にのまれた
男の哀歌を作ればいいの!」

「かれんは、かーなりの肉食系だからな。
純の歌は、乙女な男子っぽいのがいいな」

「・・・乙女な男子・・・?」

「得意だろ。あー、藤田さんの
心境が手に取るようにわかるよ」

洋介のウキウキした様子に、
純は、待ったをかける。

「お前も、良樹の一味か?」

「はぁ?」

「オレの何を以ってして、
‘得意’とか言う?」

藤田にも、
主題歌という面ではあったが、
得意中の得意と指摘され、
多少気になっていた純は、
洋介につっかかる。

洋介は、‘取り説’我が手にあり、
状態で、ニヤリと笑う。

「純のドMさを以って、得意となす」

「ドM・・・?」

「だろ? いいかげん認めろよ。
心身共にドM時々Sのふりをしている
自分に酔いしれる、
タチの悪いドM」

洋介の的を得たコメントが、
純の心に響かないわけがない。

「プライベートでは、何とでも言え! 
でもオレの曲に・・・」

洋介は待ち構えていたかのように、
以前、純が作った大ヒット曲を
口ずさむ。

純は、う・・・とうなる。

「純の場合、自分で自分を
傷付けることで、
その痛みを相手に伝えたがる傾向がある」

純は、ボッと顔が赤くなるのを感じた。

「相手を傷付けるくらいなら、
自分が傷付く・・・って、
ドMな発想なわけ?」

「・・・男のやさしさでもあるけれど、
限りなく乙女な男子の発想だと思う。
益子かれんなら、
相手の命を奪っても、
永遠に相手を自分のものに
するような気迫がある」

「・・・阿部定じゃん」

「まぁ、男版の阿部定じゃ、
世間の評価も冷たいだろうから、
そこは乙女な男子で押せばいいと思う」

「・・・なんかバカにしてねーか?」

「いや、かわいいと思うよ。
その、男子たる、乙女心の滑稽さ、
というか・・・」

「滑稽!? そこまで言いやがったな! 
ちきしょー、ドMでも、
究極のラブ・ソングに仕上げてやる!」

「ドラマの本質からして、
あまり情念に走りすぎない程度に」

洋介が言う通り、
これは観たい人が観に行く映画とは
違って、ある程度、いやおうなしに
世間が目にする、耳にする
ドラマとその主題歌なのだ。

ほぼ仕上がっていた歌詞の
サビの部分を
純はガラリと書き変える。
映画的情念が、
ドラマ的乙女な男子に仕上がったとき、
藤田を通して、
ドラマ・プロデューサーからOKが出た。

               続


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