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「雪の女王」(シナリオ)

人物
上原サキ(5)主人公の少女
上原カナエ(32)サキの母親
ゲルダ(8)絵本「雪の女王」の主人公
カイ(8)ゲルダの幼馴染の少年
ギダ(11)絵本中の山賊の頭の娘


上原家の中(夜)
   昭和五十年代。
   建売住宅。
   玄関を入ると、狭い廊下があり、
   突き当りに居間と、その左側に
   台所がある。

    台所には、蛍光灯に映し出される
    晩御飯の作り置き。
   焼き魚と煮物にラップがかけられている。

同・二階(夜)

   階段を上ると、右側に和室、
   左側に洋室がある。
   
   左側の洋室から、電気の明かりが
      もれている。

同・サキの部屋(夜)

   上原サキ(5)が、ベッドの真ん中で
   うつ伏せになっている。
   その横に、上原カナエ(32)も
   寝転がっている。

   サキ、カナエの腕を揺さぶる。

サキ「お母さん、お話の続き、読んで」

   カナエ、ベッドの上で絵本を
   開きながら、サキに尋ねる。

カナエ「昨日はどこまで読んだかしら?」

サキ「カイちゃんの目に、悪魔の
    ガラスの破片が入って、いじわるに
    なったの。
    で、ゲルダが悲しんでいたら、
    雪の女王が現れて、カイちゃんを
         さらって行っちゃった」

    サキが一生懸命、説明するのを聞いて
    カナエ、微笑む。

カナエ「すごいわねぇ、サキちゃん、
   ちゃんと覚えているのね」

    サキ、真剣にうなずく。

サキ「今日は、どうなるの?
   ゲルは、カイを助けるために、
      冒険に出るんだよね?」

    カナエ、絵本のページを開く。

    ラップランドの雪景色の絵。
       期待と不安でいっぱいのサキ。

(想像)ラップランドの雪の中
    寒さに震える少女、ゲルダ(8)。
     
    どこからともなく現れた
    山賊二人組のトナカイに乗せられる
    ゲルダ。

山賊のアジト(夜)

    大きな焚火の前に連れ出されるゲルダ。
      たくさんの山賊の中で、
    唯一、椅子の腰かけている山賊の頭と
      その娘、ギダ(11)。

下っ端の山賊「お頭、この娘、どうしますかね?」

    山賊の頭が視線を向けた先には
      獲物をさばく斧がある。
    震えあがるゲルダ。

    その時、ギダが立ち上がり、
    下っ端の山賊から、ゲルダを
    奪い取る。

ギダ「この子は、アタシのもんだ、
   手を出すヤツは許さないよ」

    下っ端山賊、たじたじと身を引く。

    頭は、ギダに、どこへでも連れていけ
    と、手で追い払う仕草をする。

ギダ「来な」

    ギダに手を引かれて、焚火から
    離れるゲルダ。

ギダのテント小屋(夜)

    雪の中の張られた小さなテントの
      中に入ると、ゲルダ、ほっと
    肩をなでおろす。

    小屋の中は意外と広く、
     二人が入っても狭すぎることはない。

     ギダ、じろじろとゲルダを見る。

ギダ「そんな格好じゃ、寒いだろ。着な」

    ギダ、自分の衣服の中から
    トナカイの毛皮のコートとブーツを
       ゲルダに与える。
    ゲルダ、うれしそうに、身に着ける。

    黙っているゲルダに、ギダは
      尋ねる。

ギダ「この雪の中、どこへ行くつもりなのさ?」

    ゲルダ、目に涙をためて語る。

ゲルダ「カイちゃんを探しているの。
   私の大切なカイちゃんが、雪の女王に
      さらわれてしまったの」

ギダ「その女王のいるところは
   わかっているのかい?」

    ゲルダ、首をかしげる。

    ギダ、ため息をつく。

ギダ「驚いた娘だね。
  そんなあてのない旅をトナカイも
   連れずに続けてるなんて」

山賊のアジトの外れ(明け方)

    トナカイの乗ったゲルダ。
    ギダにもらったコートとブーツを
     身に着けている。

ギダ「北へ北へと向かってごらん。
  気をつけてお行きよ」

ゲルダ「ありがとう。
  本当にありがとう」

    走り出すトナカイ、
    小さくなっていく山賊のアジトと
    ギダ。
    空には、一面のオーロラ。
    (想像終わり)

元のサキの部屋(夜)

    絵本の次のページを開こうとした
    カナエの手が止まる。
      サキ、首をかしげる。

カナエ「お父さんが帰った来たみたい。
  ちょっと待っててね」

    外で、車の止まる音がする。
    カナエ、サキの頭をなでると、
     立ち上がり、一階へ降りていく。

    サキ、不満そうに頬杖をつくと
     絵本のページを一人でめくり
     始める。

    雪の女王の宮殿の絵。

(想像)雪の女王の宮殿(夕方)

    氷の宮殿を進むサキ。
    奥にある氷の広間に、
      女王とカイの姿を見つける。

女王「明日の朝までに、『永遠』と
  いう文字を作っておおき」

    そう言い残すと、女王は
    広間を出ていく。

    一人になったカイのもとに、
    サキは駆け寄る。
    氷の破片で、『永遠』という文字を
    作ろうと、床にしゃがんでいるカイ。

サキ「カイちゃん!」

    サキは叫ぶが、カイの視線は
    床を向いたまま動かない。

サキ「カイちゃん、私よ、迎えに来たのよ」

    サキはそう言うと、しゃがんでいる
    カイの頬を両手で包み込む。
    サキの頬を伝う涙が、カイの目に入る。
    すると、その涙が、カイの目の中の
    悪魔の氷を溶かしていく。

    優しい表情に戻るカイ。
       泣きながら微笑むサキ。

古い家・全景

    庭には、バラや、その他の花々が
    色とりどりに咲き乱れている。

    春。

    サキは、カイの手を引いて、
    家の中に駆け込む。

サキ「おばあちゃん、カイちゃんが
   帰ってきたよ!」

    家の居間で、編み物をしている
    老婆は、サキのおばあちゃんで、
    カイの無事に涙する。
   
     何もかも、以前の通り。

    と、玄関の置時計の前を
    通りかかった時、サキは驚く。

    頭のてっぺんにあった時計の針が
    ぐんぐん低くなり、胸の下あたり
    にある。

    そして自分の胸のふくらみに
    気づいて、目を見張るサキ。

    その時、初めて、カイとサキが
    お互いを見つめ合い、自分たちが
    大人になっていることに気が付く。

    立派な青年に成長したカイと
     美しい女性になったサキは、
    今、時計の前で、手を取り合って
    見つめ合う。

    季節は、春。

    雪の女王の面影を残すものは
    もう何もない。(想像終わり)

サキの部屋の扉の前(夜)

    二階に上がってきたカナエ、
    そっと中をのぞく。

    サキは眠っている。

    カナエが近づくと、
    絵本の最後のページが開かれている。
    時計の前で幸せそうに見つめ合う男女。

    サキの小さな手が、ゲルダの絵に
     のせられていた。

           完







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