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僕の見た風景 17 (連続短編小説)完

もっといろいろアキラの
思い出はあると思う。

が、アキラが夢に出てきて以来、
なんとなく回想ばかり
している自分に潮時を感じた。

僕には妻の亜矢がいる。
仕事だって、アキラほど
出世できないにしても
続けていかなければならない。

こう言っては何だが
当時、関西で、なかなかよい大学を
出た僕は、鳴かず飛ばずの
サラリーマン生活を送り、
三流大学を出たアキラは
一流商社で世界を駆け巡り
社会的地位も得た。

知識と知恵の違いだろう。
アキラは間違いなく、この世の中を
うまく渡っていく知恵を持っていた。

よく、亡き姉、葉子が言っていた。
アキラは世が世なら、秦の始皇帝
くらいの器と権力をもっているだろう、と。

葉子のことを思い出して
ハッとした。
葉子が話していたインドネシア映画、
『枕の上の葉』(英語で a leaf on the pillow)
の葉は、葉子ではないか。

葉子とアキラのことを
考えると、実弟の僕としては
頭が、というか心の芯が痛くなる。

いろんな想念にかられていた
日曜日の午後、亜矢が、紅茶のセットを
持ってテーブルに来た。

「もう、アキラさんの四十九日も
過ぎたね」

妻には、一切アキラの話をしていないので
僕は驚いた。

妻は、ふふふ、と笑う。

「もうそろそろ、あなたも
アキラさんとの思い出から解放されても
いいんじゃない?」

「そんなにアキラのことばかり
考えてないよ」

「そう。それならいいんよ。」

亜矢は、大して気にしていないようすで
紅茶を飲む。

僕も、紅茶を口にして、
そして、思った。

また、思い出すかもしれないけど、
いったんお前のことは忘れるよ、アキラ。

生きているものには、
それなりの毎日があるから。
 
ただ、お前はインパクト強すぎたよ。

また、会おう、アキラ。
しばらくは思い出に封印して
自分の生活を続けるよ。

日曜の午後、やっと僕は
僕の見た景色のアルバムを
閉じることにした。

             完

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