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HOLY NIGHTS 第1話「夕日が見える部屋」(連続短編小説)

夕日がきれいに
窓に映える西向きの部屋。

国沢純は、ぼんやりと、
夕暮れの空を見ていた。

手には企画書を持っていたが、
全く目を通していない。
ここに着いてから見ようと
思っていたのだが、
あまりの夕日の美しさに
魅入ってしまっていた。

「相変わらずだな、純」

懐かしい声に振りかえると、
藤田良樹が、ノックもせずに、
打合せ室に入ってきていた。

ここは、TVプロデューサー、
藤田良樹のオフィス。
数年ぶりに、次の企画を組む
ことになって、
純はマネージャーも連れず、
やって来た。

自分だけで話がつく企画は、
純自身が決め、その後の詳細を
マネージャーに任せる。

ここしばらく、そんな機会も
ないほど売れてきてうれしい半面、
息が詰まりそうだった純は、
昔なじみの藤田の企画に、
マネージャーをほっぽりだし、
意気揚々とやってきた。    

事務所側も、そんな彼の
自由奔放さを認めないわけには
いかないほど、
今や国沢純はアーティストと
しての名声を得ている。

「熱心に夕日に見とれているが、
実はまだ企画書に目を通して
なかったりするだろ?」

藤田の言葉に、純は、
笑うしかなかった。

十年来の知人である藤田は、
純を掌握している。

だから企画書だって
読む必要がないくらいだと
わかっていて、
夕日に魅入っていた。

が、太陽は、刻一刻と、
その姿を地に沈めていく。

「あ~、良樹のせいで、
もうあんなに沈んじゃったじゃないか」

「オレのせいで太陽が沈むのか?」

「そう。全部、良樹のせい。
わざわざ夕日の見える時間に
この部屋に呼んだのも、
なんか企んでるだろ?」

純の言葉に、藤田は笑った。

「さすがだな~」

夕日が沈んで間もなく、
藤田は、打合せ室の電気をつけた。

午後6時過ぎ。
晩秋の陽は短い。

「で、なんの話?」

「マジ、一行も読んでないのかよ?」

そう言われて、純は
思い出したかのように、
手元の企画書を開く。

「え・・・? ドラマの主題歌?」

「得意中の得意だろ」

「どんなドラマ?」

「企画書読め!」

そう言われて、パラパラと
ページをめくる純。

「へーぇ」

「お前が感じたドラマのイメージを言え」

「・・・そうだなぁ、配役によっては、
かなりイメージが変わる・・・
恋愛ものだよね」

「最初は、お前が、その男性役に
あがっていた」

藤田の言葉に、純は吹き出す。

「むか~しから、オレをドラマに
出そうとするクセ、治ってないね」

「視聴率は取れると思うんだが」

「オレはミュージシャンだからさ、
演技ができるとは思えない」

「もったいねぇなぁ」

「っつーか、良樹、
ドラマ・プロデューサー?」

ずげずげ物申す純に、
藤田は、あきれる。

「生意気になったね~。
十年前は、‘良樹さん、
オレ、もうダメかも‘とか
言って泣きついてきてたくせに」

純は思わず咳き込む。

「・・・ワイドショーも飛びつかない
ようなネタ、今更やめてくれる?」

藤田は大らかに笑った。

「誰かさんとは、随分話題に
なってたじゃないか」

純は更に、言葉に詰まる。

「・・・そんなにからかうなよ」

              続

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