僕たちの景色 5 (連続短編小説)
ジンが帰ってから
亜矢が、紅茶をいれ直して
リビングに持ってきた。
「お酒の方がよかったかな」
実はなんとなくお酒の気分だったが
とりあえず亜矢がいれてくれた
紅茶を飲むことにした。
「あなた、まさか朋明くんと
会おうとか思ってるんやない?」
亜矢の質問に、僕は熱い紅茶で
やけどしそうになった。
「なんでやねん、よそんちの、
そのまたよそんちの子やで」
「でも、ジンが連れてきたら
ちょっとうれしいでしょ?」
確かに、アキラの不祥事に首を
突っ込むつもりはなかったが
ジンが友達として連れてくる分には
なんとなくうれしかった。
「でも、ゴウの手前、なぁ」
ゴウはアキラの実弟である。
いくら嫁の尻に敷かれているとはいえ
甥っ子のジンはさておき、アキラの
隠し子の朋明まで、
うちの来るようになっては
立つ瀬がない気もする。
「もう4年もすれば、二十歳やで」
亜矢がそう言うので、
なんのことかと思った。
「ジンのことや。
あなたはいつまでも、子供の面倒みてる
気かもしれんけど、ジンももうすでに
大人ってこと。
そのジンが判断して朋明くんを
連れてくるなら、何も迷うことないよ」
そう言いながら、
亜矢は、何か思いついたようだ。
「それに、うちらかて、そんな貧乏ちがう」
彼らに出す御馳走代のことでも
言っているのかと思ってたら、
亜矢はとんでもないことを
言い出した。
「万が一、ジンや朋明くんが大学行きたいって
言ったら、国立やったら行かせてやれる
くらいの貯蓄はある」
亜矢の困った人に手を差し伸べる
クリスチャン精神炸裂だ。
「そな、アホな。
なんで、他人の子、というか
アキラの子らの学費の面倒みなあかんねん」
「例えば、の話や。
あなたがそんなことを気にして
親と縁の薄い子らを寄せ付けないって
言うんやったら、そんな心配はないってこと」
先回りしすぎた妻の発想が
バカらしくもあり、ありがたくもあった。
続
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