深き夢見し(小説)
最近、眠ってばかりいる。
学校は遠うに卒業し、
仕事もしなくていいと言われた。
いつの事だったか
よく覚えていない。
お酒を飲み過ぎたのかな?
貰った薬を飲むと、
もう寝る事しかできない。
っていうか、今、寝る事が
私の仕事みたい。
バカみたい、
大人になって、仕事もしない
私を眠らせて、どうするの?
何の病気か知らないけど、
社会復帰できるほど若くはない。
・・・と思う。
私っていくつだったっけ?
よくわかんないけど、
この状態で、私が今死んでも
10年後に死んでも、同じだと思う。
一人だから、迷惑かける家族は
いないけど、税金の無駄遣いって
いう人は多いんじゃないかな。
夢が深すぎて、現実が遠のいていく日々。
夢の中では、子供の姿だったり、
少女の頃であったり。
起きている時間がだんだん
短くなっていく。
夕方に眠って、早朝に起きて、
朝から昼まで眠って。
なのに、ブクブク太っていくのは
納得いかない。
それとも、寝てる間に
何か食べてるのかな。
こわいこわい。
ある晩、ジャングルの中で
大きなサラセニアを見つけた。
サラセニアって、素敵な名前で
子供の頃、図鑑で見て知ってた。
有名な食虫植物。
そのサラセニアは
1メートルくらいあって、
のぞき込んだら、中で、
ムシだけじゃなくて鳥や
毛の生えた小さな生き物も
溶けかけていた。
とてもグロテスクなんだけど、
首ちょんぱにされて、
外国の市場で売られている
鳥や小動物よりも、ずっと
自然で、残酷さはなかった。
ああ、私も、こんな風に
溶けてしまいたい、と
思った。
でも、1メートルの
サラセニアの中に入るには
私は大きすぎる。
何度も何度も夢に現れる
サラセニアの前で、私は
悩んだ。
この中に、ポトンと落ちるくらい
小さかったらよかったのに。
でも、夢の中では何でも
実現する。
私は起きているときに思いついた
メルモちゃんのキャンディを
夢の中で手にしていた。
メルモちゃんって、覚えてる人
いるのかな。
赤いキャンディと青いキャンディが
あって、赤を食べると10才若返り、
青を食べると10才年を取る。
子供のメルモちゃんが大人になるの
ワクワクした。
でも、今の私には青はいらない。
赤いキャンディを2粒食べたら、
夢の中の私はきっと赤ん坊に
なるだろう。
現実の私は、何個必要か考えると
夢の中で声を立てて笑ってしまった。
よくよく考えた私は、
サラセニアの真上にある樹に
よじ登り、そこで赤いキャンディを
食べた。
ら、ら、ら、ら、ら、らら~♪
メルモちゃんのメロディが
聞こえてきて、
私の体は、きゅ~っと
小さくなった。
そして、胎児に近い形になった
私は、ポトン、とサラセニアの中に
落ちた。
不思議。
思考は、年相応なのに、
体が小さくなり、
サラセニアの液に浸かっている。
かゆいような痛いような
感覚。でも、麻酔がかかるのかな、
ふわっとして液に飲み込まれていく。
ああ、気持ちいい。
お風呂に浸かったような、
羊水に戻ったような気分で
うっとりする。
羊水にいた記憶なんてないのに。
夢の中のサラセニアに
溶かされていく私は、もう
起きるつもりなんてない。
誰も、私を起こしてくれる人は
いないから大丈夫。
働いてないから、電話がかかってくる
心配もない。
1ケ月後、病院に現れない私に
気付いて、誰かが来たら、
私はどんなことになっているんだろう。
ら、ら、ら♪
私は夢の中で、メロディを口ずさんだ。
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