見出し画像

移りゆく景色 6  (連続短編小説)

朋明との夕食はマクドだった。

「なんだ、伊都さんちに誘われたら
そっち行けばよかったのに」

朋明の言葉に、ジンは、突っ込む。

「お前、誘ったら、来たか?」

朋明は、さみし気に首を振る。

「だろ?
オレはお前と会う約束をしてたから
今日は遠慮した」

「・・・なんか、悪いね」

朋明は岸田家が
嫌いなわけではないが
あの家庭的な明るさの中で
自分の影が薄くなるのが
子供の頃から苦手だったという。

19才になった朋明は、
母の奈緒に似た美青年だったが、
同時に、父、アキラの血を
引いているのかどうかと思うくらい
繊細で儚げになった。
芸術系の専門学校に入ったから
余計かもしれないが、
子供の頃は、もっとアキラに
似ていたように、ジンでさえ感じた。

ジンと比べて、アキラの面影が薄い
朋明を、奈緒は自分のせいだと
責めている、と
聞かされるようになったのは
ジンが大学に入って
下宿暮らしを始め、
樫井家から遠のいた頃だ。

「オレだって、半分は
かーちゃんの血を
引き継いでるわけだから、
アキラそっくりって
わけじゃないと思うけど」

ジンはそう言ったが、
朋明は極力、
最近、奈緒とジンを
会わそうとしなかった。

「母さんがアキラさん思い出すと
辛くなるから」

そんなことを言う朋明を
ジンは蹴飛ばした。

「アホか、死んで10年も経つ
親父と重ねられてたまるか。
それに、子供の頃から、知ってんのに
なんでそんなこと言うねん。
オレはオレとして、奈緒さんに会うで」

「僕がイヤやねん」

朋明の言葉に
ジンは固まったものだ。

「母さんが、アキラさんを見るように
ジンを見るのもイヤやし、
ジンが帰った後、
自分のDNAを恨む母さんを
見るのもイヤやねん」

「はぁ?そんなオカン、世の中におるか?」


今日もそんな話になってしまっている。

「ジンが大人になってきからだよ。
年を重ねるごとに、
ジンはアキラさんに似てきて、
僕は遠ざかっていく」

朋明は、冷たく笑いながら続けた。

「母さんは、アキラさんの
クローンが欲しかってんて」

アキラは、思わず声を上げてしまう。

「ホンマ、それ、奈緒さんが言うてんの?
お前の被害妄想ちゃうん?」

朋明は更に冷たく笑う。

「そう刷り込まれて育ってみろよ、
なんか、僕なんか生まれなかったら
よかったなーって思うで」

ジンは、うーん、と唸る。

「刷り込まれるも何も、
ここ最近の話やろ、
オレが遊びに行ってた頃は
そんなん聞いたことないで。
奈緒さん、ちょっとおかしいな。
病院行った方がええんちゃう?」

「そんなん言い出されへん」

「ほな、トモが行った方がええかな?」

「・・・やだな。女の子みたいだし。
それに、保険証で、病院行ったこと
バレるのもいやだ」

そう言われて、まだ学生のジンも
自分の保険証が西村の父のものだと
気が付いて、確かにイヤだな、
と思う。

自分が奈緒を話をして、
何か解決できればいいが、
自分と会うのが朋明にも
負担だというなら・・・。
にわかに信じがたいが、本人が
そう言うのなら、仕方ない。

「あ! 伊都か、ばぁちゃんの力借りよか」

そう言い出したジンを
朋明はどこか遠い目で見ていた。

                続

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?