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移りゆく景色 2 (連続短編小説)

「ばぁちゃん、来たで~」

早速、翌週、ジンは、
芙美のもとに顔を出した。

一ヶ月ほど見ない間に、
芙美の膝にはサポーターが
巻かれていて、ジンは胸が痛くなる。

「どうしたんや、足」

「どないもこないも、
80過ぎの年寄りでっせ、
いろんなとこにガタくるわ」

芙美は生粋の大阪人である。

「ジンが来うへん内に、お骨になってるかも
しれへんで」

「んなわけないやろ、
こんなにぎやかな家で」

芙美は、便宜上、
離れに住んでいたが
伊都はもちろん、二人の弟も、
その友達も岸田家の母屋よりも、
芙美の離れに遊びにきた。

伊都の父方の祖母である芙美は
嫁である伊都の母に気兼ねするのが
イヤらしい。

「伊都母と、合わんの?」

一度そう聞いたことがある。

芙美は涼しい顔で答えた。

「ホンマに合えへんかったら
もっと遠くに住んでるやろ。
加代さんも私も、
適度な距離が必要な
同じタイプなんや。
だから、仲いいし、
第一、孫たちの
避難場所も必要やろ?」

確かに、格家庭で育つと逃げ場がない。

そうかと言って、祖母が母屋にいては、
孫との距離も、取りにくい。

「スープの冷めない距離、か」

ジンのつぶやきに、
芙美は笑った。

「えらい、年寄りみたいな言い回しやな。
ジンは、ホンマに20代か?」

体にガタはきていても、
頭はシャンとしている。
それにかつて、自分が60才若かったら
伊都とジンを取り合っている、
と言ったのには
伊都も大爆笑していた。

「ばぁちゃん、まだそんな気持ちあるん?」

伊都の問いに芙美は憤然とうなずいた。

「伊都は、ええ男をつかまえた。
世が世なら、ジンは、そうやな、
秦の始皇帝みたいな人物やで」

なんか、デジャブを覚えたジンは
不思議な感覚に囚われたものだ。

                続


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