英国ロイヤルカレッジ・オブ・アート サービスデザイン修士とは
本記事では私が現在通っている英国ロイヤルカレッジ・オブ・アートのサービスデザイン修士(23年入学)についてご紹介させていただきます。
私の経歴やバックグラウンドについては、自己紹介をご覧ください。
いわゆるノンデザイナーからデザインスクール留学を決意し、今に至ります。せっかくなので、ノンデザイナーの視点や内側からしか知りえないこと、コースのPros/Consも含めシェアできればと思います。
私が出願を検討していた際にデスクトップで集められる情報があまりにも少なかったので、今後受験する方々の一助にもなれば幸いです。
ロイヤルカレッジ・オブ・アートとは
まずそもそもRCAがどのような教育機関かあまり知らない方向けに簡単にRCAの特徴をまとめてみました。
QSランキング アート&デザイン分野 9年連続世界1位
学部はなく修士・博士課程のみ
美術系の修士号および博士号を授与できる世界唯一の大学
アルムナイにダイソン創業者のジェームズ・ダイソン、画家のデイヴィッド・ホイックニー、彫刻家のヘンリー・ムーアなど
日本では一般的にあまり知名度が高くないかもしれませんが、世界的にはアートやデザインに関わる人であれば誰でも知っている大学かと思います。
サービスデザインとは
サービスデザインはカバー範囲が広いため定義が難しく、この記事の本題でもないので軽く触れるに留めますが、経産省の報告書では以下の通り定義されています。
いわゆる人への共感を起点としたヒューマンセントリックなアプローチだけでなく、複雑な課題・システムに対しあらゆるステークホルダーの視点で新たな価値・イノベーション創出を企図する営みのことを指します。
こうした営みのアウトカムは必ずしもプロダクトやサービスそのものではなく、コミュニティ向けのプラットフォームや政策立案プロセスに対する仮説・提言、未来洞察を経た20XX年の社会のシナリオなど多岐に渡る点が特に私が面白いと感じている側面の一つです。
また、下記の書籍もサービスデザインについて分かりやすくまとめられていますので、概要を把握する上でおすすめです。
RCAサービスデザイン修士の特徴
コース概要は大学の公式サイトをご覧いただいても分かりますが、特にRCAのサービスデザインは以下の点が非常に特徴的と言えます。
実践による学び > 記述的研究活動
リアルなパートナー企業・自治体等との協業
公共・ビジネス等学生のキャリアの多様性
実践による学び > 記述的研究活動
1についてはサービスデザイン修士のみに閉じず、RCA全体の姿勢とも言えますし、この点がRCAが世界でリーディングポジションを確立している所以だと個人的に感じています。
学校全体として、Tangibleなインパクト創出を重視しており、ここ数年はサステナビリティ領域に係る取り組みも非常に多くなっています。Grand Challengeというデザイン系コースの学生が取り組む学校横断のプロジェクトがあるのですが、今年のテーマもオーシャン/ブルーエコノミーでした。
特に、Term2のTheory of Changeに関するレクチャーの中で出てきた以下のQuoteが個人的にRCAのデザインに対する実践重視の姿勢を体現していると感じました。
一方で、よりアカデミックな学術論文を執筆するようなコースを期待している方にとっては、かなりギャップがあるコースとも言えます。
コースの最終アウトカムに関しても、論文形式ではなく自分でテーマを決めて実際のプロジェクト形式で行います。
リアルなパートナー企業・自治体等との協業
2点目については、RCAのネットワークの広さを象徴していると言えますが、コースで取り組むプロジェクトは基本的にパートナーありきで進みます。
とあるタイミングでパートナー企業・自治体等がサービスデザインの学生に対してピッチをしてくれる日があり、学生はそのピッチの内容や個人の関心に基づき後日希望のプロジェクトにApplyします。
プロジェクトの粒度はパートナーによってばらばらとなっており、サービスコンセプトレベルから未来洞察によるシナリオ策定(=スペキュラティブデザイン)のプロジェクトまで幅広くありますが、共通していることはTerm2にてすべてのプロジェクトでプロトタイピングまで行うという点です。
公共・ビジネス等学生のキャリアの多様性
3点目に関しては、いわゆるUI/UXデザイナー等だけでなく、公共政策関連出身の方や私のようなビジネスバックグラウンドの学生が一定数います。ピュアなデザイナーv.s.ノンデザイナー比率にすると、6:4程度といったところでしょうか。AdobeやFigmaなどのグラフィックデザインスキルはあるに越したことはありませんが、出願する上で必須ではありません。
カリキュラム・出願書類
詳細なカリキュラムや出願書類については、大学の公式サイトをご覧ください。
特徴的な点としては、Term1からTerm2にかけて、デザイン系学部横断のGrand Challengeと、大学(アート系学部含む)横断のAcross RCAというプロジェクトに取り組むことです。普段のService Designコースのプロジェクトと並行して行われるので、タイミングによってはかなりIntenseなマルチタスクになることもあります。メインのコースを優先してフリーライド的に取り組む学生もちらほらいますが、とはいえ2つとも必須のコースなので、個人的にはできるだけ主体的に取り組むほうが最終的な満足度は高まると感じました。私自身、Across RCAの中で今までの人生で一度も作ったことのないウェブサイトを制作したりと色々チャレンジをした結果、チームメイトのネイティブから超人扱いされました。
また、サービスデザインのコースの中で、Imperial College Business SchoolやLondon Business SchoolとのJointコースがある点もデザインスクールの中ではユニークかと思います。Imperial College Business SchoolとのJointコースであるDeep Tech Acceleration Weekには運良く参加することができ、MBAの学生と仲良くなってその後ご飯に行ったりもしました。
出願条件に関して、基本的に提出した書類は以下の通りですが、提出書類に関しては必ず応募年度の募集要項をご確認ください。
ポートフォリオ
ビデオ
エッセイ(志望動機等)
推薦状一通
IELTSスコア
その他職務経験等のキャリアの詳細
また、私の場合は面接はありませんでした。少なくとも私の代は必要に応じて面接が組まれるようでした。
考慮しておくべきこと
ここまで散々RCAの良い面ばかり記載してるので、あえて考慮しておくべきこと・周りの学生が不満に感じている点も書き残してみようと思います。以下の点は少なくとも出願・渡英前に考慮すべきと感じています。
近年高騰傾向にある学費
スクールシステムの違い
実践型 vs 研究型の違い
近年高騰傾向にある学費
こちらに関しては、RCAに限らずイギリスの大学院全体に言えることですが、年々学費が高騰している傾向があり、RCAも例外ではありません。ここ最近は+αで円安の影響もあり私費留学者にとってはかなり厳しい状況です。
そうした背景もあり、あまりコスパがよいと感じられない人も多いかもしれません。個人的にも大学院からの直接的な受益価値だけでペイするとは思えないのが正直なところですが、自分自身で学びを最大化する努力をしてきたことやイギリスにきて得たネットワーク等は確実に修士号以上の価値があると心から感じています。
スクールシステムの違い
一番イメージしづらい点かもしれませんが、RCAのスタッフやチューターは個人レベルで接すると良い人が多いものの、学業の生産性やプロジェクト進行のサポート体制に関しては残念ながら非効率に感じることが多いです。
例えば、レクチャーのスケジュールが頻繁に変更になったり、オフライン/オンライン実施のアナウンスが直前になったりするなどのレベルで支障をきたすことがあります。※学期の後半はだいぶマシになりました。ちなみに基本的にレクチャーはオフラインで行うというのが2024年現在の大学全体のスタンスです
個人的には、「海外の大学院なんてそんなものだろう」という感覚でイギリスにきたので自分はあまり気にならなかったのですが、日本の大学やビジネス系学部のかっちりしたスケジュール管理等に慣れている人にとっては耐え難いかもしれません。実践型のカリキュラムであることの弊害とも言えます。
特に、私の一年前の代('22年入学)は2年コースから1年コースへの転換期の代でしたので、学校横断でかなり混乱もあったようです。アルムナイの方々から人づてに聞いた情報ベースにはなりますが、既に1周したこともあり現在はその代の時よりだいぶ改善されているように思います。授業内容やパートナーの質という文脈では全く問題ありません。
また、イギリスの他の大学の似たようなコースに通われている学生も同じような経験をされているという情報を聞いたりもしたので、RCAだけというよりはデザインスクール全体のスクールシステムの傾向なのかもしれません。とにかく、ビジネススクールなどと比べるのはApple to appleではないのでやめておいたほうがよいです。
私は1年で卒業できるコースを探していたこともあり、個人的にはむしろ1年になって助かりました。私のようなビジネスバックグラウンドでキャリアの空白期間を懸念する人も多いですが、今後そのような人の選択肢にもなっていくと思います。
実践型 vs 研究型の違い
この点に関しては既に少し触れていますが、教授陣がレクチャーを通じて手取り足取り教えてくれるわけではなく、常にプロジェクトベースでコースが進みますので、そのつもりで出願を検討したほうがよいと思います。
私は普段から意識的にアカデミックな論文や書籍を読むようにしていますが、レクチャー等で論文や課題図書などが提示されるわけではありません。専門性が身につく、というより経験を通じた学びが蓄積するというイメージです。
ただ、そうは言っても専門家や実務家を招いたサービスデザインに関連するレクチャーなどは豊富にありますので、そちらは純粋に楽しみにしておいて損はありません。
最後に
以上になります。
本記事はあくまで2024年3月時点の情報であり、最新の情報や詳細はRCAの公式サイトをご覧ください。
本記事が少しでも多くの方のお役に立てていれば幸いです。