メリークリスマス
この地域では、バイクや車などの交通手段を手に入れたら
冬のデートの定番は【夜景】だった。
盆地だから、どこでも少し丘をあがると
眼下には素晴らしい夜景がひろがる。
他県から観光で来た人は、有名な「星の丘公園」か「見晴台」にでも行くのだろうが、地元の人は混雑するからという理由で、毛嫌いし、「自分だけ」のスポットを必ず持っていた。
私にもある。
住んでる街から車で20分くらい。
目印のない山道を覚えるのは大変だった。
けど、たまに一人でふらっと出かけるほどキレイだ。
今日はクリスマスイブ。
先月から付き合っている彼氏をここに案内する。
彼の車に乗り込み、道案内をする。
他の人は一切来ないとこ。
工事現場の先に道があるなんて、知ってる人のが少ないはず。車を停めてボンネットに二人で座った。
さっきまでエンジンのかかってたボンネットはまだ温かく、私は寝そべった。…満点の星空。
「きれいだなぁ」
彼がつぶやく。私は「うん」とだけ答えた。
しばらくの沈黙。
頬を撫でる風が最高に冷たいのに、冷える前に寝そべったボンネットはまだ温かい。
「なぁ…」
彼が少し真面目なトーンで言うもんだから、体を起こして彼を見つめた。彼は、夜景を見つめたまま
「この光の中で何人がヤッてると思う?」
しばらくの沈黙。
彼の肩に頬を寄せる私。
右半身だけが汗をかくほど熱る。
「光になろうか。」
恥ずかしくて夜景を見つめたまま消えそうな声で答えると、彼は黙って車に乗り込みエンジンをかけた。
私達は来た道を戻って街中で光になった。光になった私たちを今頃誰かがロマンチックだなんだって言いながら見てるんだろうな。
きれいだな。
メリークリスマス。