姉さん、事件です――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑱
璃子「トルカータータッソ!」
姫「いきなり叫んだわね。まあたしかに、口にしたくなる響きの馬名ではあるけど」
恵麻「先週の日曜日、フランスのパリロンシャン競馬場でおこなわれた凱旋門賞の話だね。発送は日本時間で23時過ぎだったけど、もちろん私もTV中継で見てたよー」
璃子「人気サイドのタルナワとハリケーンレーンが並んで内から抜け出してきたところに、トルカータータッソが外から強襲して差し切り。最低人気での勝利ってこともあって、いやー、驚いたよね。日本の馬券プールだと単勝万馬券だよ?」
姫「重馬場になってドイツ調教馬の底力がいかんなく発揮されたって感じかしら。逆に、日本から参戦したクロノジェネシスとディープボンドは馬場に泣かされたクチよね」
恵麻「クロノジェネシスが7着、ディープボンドがシンガリ14着だね……。クロノはスタート直後は馬群から離れた位置を走る『フランキー戦法』で見せ場も作ったんだけど、最後の直線では伸び切れず。ディープボンドは終始グリップが利かなかったみたいで、最後はもう無理もさせなかった感じかな」
姫「あと、日本生産のディープインパクト産駒として注目を集めていたスノーフォールは6着、武豊騎手が騎乗したブルーム11着と、日本関係の馬は今回は残念な結果になったわね」
璃子「日本馬もすでに凱旋門賞を勝てるレベルにあるとは言われているけど、うーん、なかなか難しいよね。斤量面で有利な3歳牝馬なら、とか、現地長期滞在なら、とかいろいろ案はあるけど、最終的には『馬場待ち』なのかな? 『馬場ガチャ』みたいなさ」
姫「そうね。海外競馬参戦のノウハウじたいはもうほぼ確立されているでしょうし、ダービーじゃないけれど、それこそ『運のある馬が勝つ』のかもしれないわね」
恵麻「そう考えると、エルコンドルパサーとかオルフェーヴルとかナカヤマフェスタとか、すごかったんだなぁとあらためて思うよね」
璃子「だねえ。ウ〇ポでもナカヤマフェスタ、やたら強いし」
姫「いっぽうで日本国内の競馬に目を向けると、同じ日曜日は中山でGⅠスプリンターズSがおこなわれたのよね。こちらは3歳馬のピクシーナイトが勝利。母父はキングヘイローで、その父が凱旋門賞を豪快な末脚で制した『80年代欧州最強馬』ダンシングブレーヴ。血のつながりを感じるわね」
璃子「内目をスパッと抜けた福永騎手の手綱さばきも見事だったよね。キングヘイローのダービーで緊張に呑まれたのもいまは昔。もうノースペースとは言わせない……!」
恵麻「あと、イベント事になるけど、日曜日はグリーンチャンネル『炎の十番勝負2021秋』の応募締め切り日だったんだよね。私たちもみんなで考えて応募したよ。指名馬はこんな感じ。
スプリンターズS:ダノンスマッシュ
秋華賞:ソダシ
菊花賞:レッドジェネシス
天皇賞(秋):エフフォーリア
エリザベス女王杯:ウインマリリン
マイルCS:ダノンキングリー
ジャパンカップ:コントレイル
チャンピオンズC:テーオーケインズ
阪神JF:ソネットフレーズ
朝日杯FS:コマンドライン
有馬記念:エフフォーリア
ホープフルS:ジオグリフ
まあ、早くもスプリンターズSでコケちゃったわけだけど……」
璃子「まあまあ、まだまだ先は長いからさ。いろいろ考えて決めた指名馬だし、まずはそれぞれのレースに出走してもらって、良い結果を出すことを期待してるよ。特に2歳戦回顧企画をやってることだし、2歳GⅠが当たってくれると非常に嬉しいよね。というわけで、今回も張り切って先週の2歳戦回顧、いってみますか」
姫・恵麻「おー!」
10/2 中京3R ダ1400m 勝ち馬:リメイク
評価☆6
ハヤタ「え……ど、どうしちゃったの、みんな? のっけから競馬の話しかしてないじゃない? え……ボケは? オチは? 脱線は?」
恵麻「おちついて、ハヤタ君。むしろこっちが健全な部の姿だよ?」
璃子「そうそう。私たちだって別に、絶対にボケないと死ぬ病気にかかってるわけじゃないだから。ご覧のとおり先週は脱線する暇もないくらい競馬の話題がてんこ盛りだったってだけ」
姫「ここまでの一連の流れじたいがボケな気もしなくはないけど、まあいいわ。ほら、ハヤタ。気を取り直して新馬戦回顧するわよ!」
ハヤタ「う、うん。ええと、それじゃあまずは土曜日の中京3Rからだね」
恵麻「6番人気のリメイクが8馬身差の圧勝だったね。2番手から楽々抜け出すと、鞭も使わず後続を突き放す一方。ここは力が違ったかな?」
ハヤタ「そういうことになるんだろうね。収縮力の強そうな筋肉だし、飛節も伸びるからエネルギー効率がいい。ダートの短いところなら上のクラスまで出世できそうな一頭だよね」
姫「ラニ産駒はこれがJRAでの初勝利なのね。気性面での難しさはありそうだけど、種牡馬としてのポテンシャルにも注目したいわ」
10/2 中京5R 芝2000m 勝ち馬:ヴェールランス
評価☆5
姫「芝の中距離戦ということもあってなかなかの血統馬が顔をそろえた一戦になったわ。勝ったヴェールランスも、桜花賞馬ジュエラーの2番仔となるキタサンブラック産駒よ」
ハヤタ「小柄なわりに脚が長くて、中距離適性を感じさせる体型だよ。皮膚も薄く見えて体に張りもあるし、たしかに血筋の良さが感じられる馬体だね」
璃子「前半、折り合いを欠いていたところはちょっと気になるけど、それで勝ち切るんだからたいしたものともいえるか。直線での反応の機敏さは目立ったよね」
恵麻「なお、このレースでは直線でグレートキャンベラが内ラチに激突してジョッキーが落馬、競走中止に。幸い、落馬した川田騎手にも馬にも大事はなかったみたい。怖い場面だったけど、即座にラチの内側へ逃避した川田騎手はさすがだなと思ったよ」
10/2 中山5R 芝1600m 勝ち馬:ガルブグリーン
評価☆4
恵麻「さて、ここから2レースは私たちのPOG指名馬も出走したレースになるよ。指名してたのはドレフォン産駒のヴァロンダンス。結果は3着だね」
ハヤタ「小柄な点は織り込み済みだし、トモの肉付きなんかは案外悪くない感じ。首と胴がやや短めで前かがみだから、短距離でスピードを生かせる体型だよ。今回はマイルをこなしてくれたけど、より短い距離でも対応できるんじゃないかな」
璃子「レースでも前半から機敏な動きで先行できてたもんね。むしろ道中は少し抑えて我慢をさせたくらいで、末脚も伸ばせたものの、減量騎手でスローペースに落とした勝ち馬を捕えきれなかった感じだね」
姫「その勝ち馬がガルブグリーンね。展開面が勝因のひとつではあるとはいえ、曾祖母がオークス馬ウメノファイバー、近親には7勝を挙げているヴェルデグリーンもいて、血統的にも悪くないのよ」
ハヤタ「うん。適度に筋肉がついていて、良い意味で余裕も感じさせる馬体だった。マイルあたりでしぶとさを生かせれば楽しみはあるんじゃないかな」
璃子「それにしても、指名者数67人とちょっと多めとはい、ノーザンファーム様生産の馬をPOG指名させていただけるなんて、ありがたや……」
姫「様って、どんだけ卑屈なのよ。まあ、シェアポイント狙いの戦略だとなかなかご縁がない牧場なのはたしかだけれど」
恵麻「ちなみにここはクロフネ×リトルアマポーラの良血馬リトルポピーが人気を裏切る13着大敗だったわけだけど、これは?」
ハヤタ「パドックでは柔らかい動きを見せてたし、体型的にも短距離~マイルに適性があるのはまちがいないと思うけどね。ただ、他馬を怖がったみたいで、前半からあまりレースにはなってなかったかな。そのあたりの気性面が改善されれば走ってきておかしくないと思うよ」
10/2 中山6R ダ1200m 勝ち馬:アイヴォリードレス
評価☆5
恵麻「さて、このレースにもPOG指名馬が。これもドレフォン産駒のクルールデュヴァン。なんとこの馬もノーザンファーム生産馬だよ!」
璃子「ありがたや……」
姫「(苦笑)『お得意様』のLEX PROさんから頂戴した1頭よ。この馬、母のファンシーミューズはゴールドドリームの全姉だし、それでいま注目のドレフォン産駒でしょ? 血統的に結構見どころがあるのよ。レースでは出遅れて流れに乗れなかったけど……」
璃子「それでも最後の伸びは目立ったんじゃない? 脚色は勝ち馬と同じくらいに見えたし、実際、上がり3ハロンの時計も勝ち馬に次ぐ36秒4だし。ジョッキーの話だと手前も替えてなかったらしいし、レース振りはともかく、能力は十分通用することを確認できたと思うけどね」
恵麻「そうだね。これで指名者数48人ならまずまずの掘り出しものと言っていいんじゃないかな」
ハヤタ「牝馬だけど体格にも恵まれているし、脚の付く位置が少し後ろ気味で短距離向きの体型だね。筋肉の質も悪くないと思う」
恵麻「勝ったアイヴォリードレスはどう?」
ハヤタ「ややコンパクトな体格だけど、柔らかい筋肉が体全体に程よくついている感じで、バランスのいい馬体だよね。飛節の伸びも上々だし、ダートでも走りにブレるところがない。ストライドも大きく取れて回転も速かったし、芝でも走れる可能性もありそう」
璃子「スタートこそ速くなかったけど、じわじわ追い上げてきて、結局危なげない勝ちっぷりだったもんね。この感じなら、距離は少し伸びても対応できそうだよね」
10/3 中山3R 芝1200m 勝ち馬:トータルリコール
評価☆4
恵麻「混戦ムードもあった短距離戦を制したのは4番人気のトータルリコール。お父さんは産駒成績も好調なシルバーステートだね」
璃子「スタートを決めつつ、外から行きたい馬たちを行かせて4、5番手で控える競馬。減量騎手の恩恵もあったとはいえ、直線での脚は力強かった」
ハヤタ「首が短めで少々詰まった馬体。典型的な短距離タイプだね。繋の角度も程よくて、筋肉の良さと繋のバネで弾むような走りができたんじゃないかな」
10/3 中京4R ダ1800m 勝ち馬:クラウンプライド
評価☆5
ハヤタ「ここはダートの中距離で見どころがありそうな馬が結構いたんだけど、クラウンプライドもその一頭だね。かなり頭が大きいからか胸が浅くも見えちゃうんだけど、体格があるから問題なし。意外と繊細さもある筋肉で、ダート馬だけど敏捷性も目立つ。ダートの2000mでも走れると思う」
璃子「タイム面では特筆すべきものはないけど、前半でペースがガクンと落ちた時にこの馬はかなり引っかかっちゃってたからね。そんな状況で最後は突き放したし、もっとペースが流れたほうが競馬はしやすいのかもしれないね」
10/3 中京5R 芝1600m 勝ち馬:タナザウイング
評価☆4
姫「内枠から枠なりに好位につけたタナザウイングが、直線では内と外の馬の間から抜けだして快勝したわね」
ハヤタ「首が長くてちょっと平尻っぽいのがエピファネイア産駒っぽいよね。母父アグネスタキオンの力強い筋肉の感じもあるし、いいブレンドの馬体だと思う。持続力に長けたタイプで、距離は2000mでも大丈夫そうだよ」
10/3 中山5R 芝1800m 勝ち馬:ダノンティアラ
評価☆5
璃子「川田騎手らしく2番手でがっちり先行。直線に向いて少しふらつきかけたけどすぐに加速がついてそこからはしぶとかった。最後は内から2着馬に迫られたけど、ゴール前ではまた振り切ったからね」
ハヤタ「前脚が少し長めのバランスで、首にも力があって前がちの馬体。ピッチ走法だし、小回りの1800mがぴったりだと思う。自分の得意条件でしっかり走るタイプじゃないかな」
璃子「このレースは国枝厩舎所属でルメール騎手を起用してきたウィズグレイスがかなり評判を集めてたわけだけど、どうだった? 5着だったわけだけど……」
ハヤタ「うーん、飛節は伸びるし、均整の取れた体型だから、筋肉の良さを出せればもっと走れると思うんだけどね。さほどパワフルな体つきとはいえないし、平坦コースや軽い馬場のほうがいいんじゃないかな」
恵麻「まあ国枝厩舎だし2戦目で変わる可能性もあるよね。もう少し見守ろう」
10/2 中山3R 未勝利 ダ1800m 勝ち馬:ワカミヤプレスト
璃子「未勝利戦からはこのレースを取り上げたいんだよね。POG絡みで恐縮だけど」
恵麻「え? このレースには私たちのPOG指名馬は出てなかったよね?」
璃子「そうなんだけどさ、勝ったワカミヤプレストの前走を見てよ。そのレースの勝ち馬は?」
恵麻「あっ! コスモルーテウス! 私たちの指名馬だ」
璃子「そういうこと。前走でコスモルーテウスが1秒6差で負かした馬が、次の未勝利戦で勝ったんだよ! ついでに言うと、そのとき2着のコパノニコルソンもすでに未勝利勝ちしてる。これはコスモルーテウスの価値も上がるってもんでしょう?」
恵麻「そうだね。この未勝利戦のレベルだって決して低くなかったし、そうなるとコスモルーテウスの次走もますます楽しみになってくるね」
璃子「ちなみにワカミヤプレストは芝だった初戦から私たちは適性はむしろダートとジャッジしてたよ。評価は低すぎたから4まで上げておくね」
10/2 中京2R 未勝利 芝2000m 勝ち馬:ダンテスヴュー
姫「世間的な注目度でいえばこのレースでしょ。POG界隈ではおなじみの母クロウキャニオンのダンテスヴューが2戦目で順当に勝ち上がり。好位から直線抜け出す危なげない勝利だったわね」
ハヤタ「筋肉の質の良さはさすがだよね。もっとスケール感は欲しいところだけど、クラスが上がっても勝ち負けに加われるポテンシャルは秘めてると思うよ」
10/2 中山9R 芙蓉S 芝2000m 勝ち馬:ラーグルフ
修正評価☆5
璃子「もーしわけございませんでした!」
姫「なによ突然、高嶋〇伸ばりの全力謝罪して」
璃子「いやね、私たち、このレースに勝ったらラーグルフの評価を、なんと2にしてたんだよね。オープン特別勝ちの馬に2はないだろうと」
ハヤタ「これに関しては僕からも謝らせてください。ちょっと力を見誤っちゃいました……」
姫「この馬、初戦は9着から次走の未勝利戦で1着。そしてここで連勝を決めたわけだから、変わり身を見せてるってことでいいのよね?」
ハヤタ「そうだね。初戦と今回のパドックを見くらべると、体のラインがはっきり出て仕上がりが良くなってきた感じがする。長くて太い首を使って力強く走れる馬だね」
姫「レースでも道中は中団後方で我慢して、直線で追い出されると弾けるような走りで前の馬たちを差し切ったわね」
璃子「というわけで、この馬の評価は☆5まで引き上げます。掌返しみたいで恐縮だけど、未勝利戦からの成長も含めての評価ってことでご容赦を」
10/2 中京9R ききょうS 芝1400m 勝ち馬:ドーブネ
修正評価☆6
恵麻「ドーブネが抑えきれない感じで途中からハナへ。直線へ向いて追い出されるとさらに後続を引き離していって1馬身半差の快勝。ここではスピードが一枚上手だったって感じかな?」
ハヤタ「そうだね。筋肉の強さはやっぱり素晴らしいし、直線でストライドを伸ばして走れてた。ここでは抜けた存在だったと見て間違いなさそう」
恵麻「初戦は手前を替えずに走って完勝。今回は控える競馬を試みたかったけどスピードの違いでハナへ押し出されちゃった感じかな。能力がありすぎてかえって競馬を教えられない感じだけど、相手が上がっていちど壁に当たれば、逆に覚醒する可能性があるかも。今後が楽しみな一頭だね」
10/3 中山9R サフラン賞 芝1600m 勝ち馬:ウォーターナビレラ
姫「過去の勝ち馬からは牝馬クラシック戦線での活躍馬も輩出し、ひそかに出世レースとも言われているこの一戦、制したのは札幌の新馬戦から中5週で参戦してきたウォーターナビレラよ。デビューから二連勝を飾ったわ」
璃子「スタートを無難に切って2番手から追走。折り合いがついて4コーナーもスムースに回ってきて、あとは逃げ馬をかわすだけだった。レースセンスの良さが光る競馬だったよね」
姫「これも好調のシルバーステート産駒。そして母父はスプリンターズS覇者となったピクシーナイトと同じキングヘイローよ。凱旋門賞に挑戦したディープボンドも母父キングヘイローで、ここ最近、キングヘイローの血にかなり勢いがあるのよね」
璃子「血統面でも注目の一頭ってことだね、ウォーターナビレラ。意外と人気になりにくいタイプな気もするし、今後、レースセンスを生かせる舞台で人気馬を蹴散らす場面もありそうだよね」
璃子「というわけで以上、先週の二歳戦回顧でした。いやー、今回は脱線もなくまじめに競馬の話を続けられたね。私たちもやればできるんだよ」
ハヤタ「そうだね、脱線なし……って、高嶋〇伸は?」
璃子「今週末は注目の2歳重賞、サウジアラビアロイヤルCが組まれてるよ。暮れのGⅠにもつながる重要な一戦。私たちのPOG指名馬コマンドラインも出走予定だから、ぜひ頑張ってほしいよね! ではまた次回!」
ハヤタ「ねえ、高嶋〇伸は?」