【徹底解説!】『競馬場の達人』岡田繁幸総帥回 前編

2008年10月5日、全国の競馬ファンのあいだに、震撼が走りました。

新冠から訪れた男性……もとい、ビッグレッドファームグループ総帥、岡田繁幸氏が、グリーンチャンネル『競馬場の達人』に降臨されたのです。

『競馬場の達人』は、各界の著名人が馬券勝負に挑む様子に密着する、グリーンチャンネル屈指の人気番組。岡田総帥はこのときが番組初出演でした。このときすでに「相馬眼の達人」として知られていた総帥ですが、まだ『BSイレブン競馬中継』のレギュラー解説者にはなっていない時期(BSイレブン出演は2011年から)。この『競馬場の達人』で総帥の相馬眼をはじめて思い知ったという競馬ファンも多かったのではないでしょうか。

じつは現在、この『競馬場の達人』「奇跡の相馬眼を持つ男 岡田繫幸 前編」および「後編」が、グリーンチャンネルWEBの見逃し配信アーカイブ内で公開中なのです(配信期間:2022年10月31日まで)。
そこで、総帥の馬体診断理論がぎゅっと詰め込まれたこの伝説の放送回を、岡田総帥を心の師とあがめる筆者が、解説付きで振り返ってみたいと思います。なお映像ソースはグリーンチャンネルWEB上で配信されている『競馬場の達人~タイムマシン!懐かしシリーズ!(岡田繁幸 前編)#12』を使用します。

競馬界のゴッドファーザー


まずは出演者紹介。映画『ゴッドファーザー』のテーマ曲をバックに、おなじみ大塚芳忠さんのナレーションが流れます。

奇跡の相馬眼を持つ男。相馬のカリスマ、マイネル・コスモ軍団の総帥が、ついに、「競馬場の達人」に登場。決戦の地は、札幌競馬場。震撼せよ。達人の名は、岡田繫幸。

ナレーション(以下:NA)

ええ、震撼しました。日本の競馬界でゴッドファーザー・愛のテーマを背負える御仁がほかに何人いることか。 
煽りはさらに続きます。オープニング映像後、総帥がこの日の意気込みを語るシーン。

今日はですね、何度か「競馬場の達人」を見させてもらってますけど、ゲストの方はみなさん、当然、レジャーとして楽しんでおられる。私、だけどね、これ、本業なもんで、生業なもんですから、あんまり外れるわけにはいかないんですね。当てなきゃいけないと思ってますんで、ぜひプラスで終わりたいと思ってますんで、真剣に馬を見て、真剣に予想したいと思ってます

岡田繫幸(以下:総帥)

堂々のプラス収支宣言! いやがおうにも期待感が高まりますね。

筋肉の質は血統と合わせて見よ

ストイックな総帥は当然、第1レースから馬券に挑みます。予想スタイルはもちろん、パドックでの馬体診断。

11番(ロイヤルクリッパー)がね、1800mだと、やっぱりこの馬、2着をはずさないと思いますね。体型がいいのと、前へ進むように馬ができてるんだわ。お尻がつく位置がいいとか、筋肉が柔らかくて全身運動できるようにできてるわけ。それでいて、キュッと収縮力の強さも持ってるの。これやっぱり、(父が)アグネスタキオンだからだと思うんだ。父親から来てますよね。この馬、2着ははずさないと思う。すごくまじめな顔してるし。

総帥

このように、総帥流の馬体診断において重視するのは「筋肉の質」、そして「体型」です。また「血統」も重要です。

全体を見て、なにを見てるかっていうと、筋肉が柔らかくて強いかどうか、体質を見てるんです。で、筋肉が強そうだなと思ったら、何の子かなと思って見るんです。父親が何かなと思って。そうすると、父親が筋肉のない血統だと、「あ~、強そうに見えるけど確かに弱そう……あんまり強くない」とかね。そういうのを見てるわけ。

総帥

ちなみに「父親が筋肉のない血統」でも、母の父で補えればOK。逆もまたしかり。たとえば父ステイゴールド(筋肉が強い)×母父メジロマックイーン(俊敏さに欠ける)などは典型的な成功例でしょう。

奇跡の相馬眼は後の重賞勝ち馬を見抜いていた!

また距離適性を見抜くうえでは体型も重要な要素です。

8番(シェーンヴァルト)も筋肉強くていいんだけど、体型的にちょっとミスがあるんだわ。お尻のつく位置がちょっと悪いんだけど、ミスがあって。ただ、脚が長くて筋肉が強くて、いいところがあるわけ。

総帥

なおこのシェーンヴァルト、のちにG2デイリー杯2歳ステークスを勝つ馬です。その後は勝ち星に恵まれませんでしたが、皐月賞で4着に入るなどオープン・重賞級でなかなかの活躍を見せました。良績は2000m以下に集まりましたから、「体型にミスがあって(距離はもたないが)、筋肉が強い」という総帥の見立てはおおむね合っていたといえるでしょう。ただ、まだ気性面のむつかしさもあったようで、

だけど、馬っ気だして、馬っ気ってのは、性欲をだしてるんですね。おちんちんだしてね、騒いでるの。やっぱりちょっと集中力足りないよね、あの馬。走るほうに夢中になれない、まだ、幼くて。走ることに夢中になれるぐらい頑張るって気持ちがないと、取りこぼしがあるんですね。負けることがあるの。でもこれ、誰が乗ってるか、(騎手が)それを許さないだけ上手ければ大丈夫なの。馬も、(騎手が)またがった瞬間に、「あ、こいつ(なら)、どうにでも自分のわがままできるかな」とか「こいつ上手そうだな、できないな」って思わせる騎手がいるの。馬もわかるの、(騎手が)またがった瞬間に。足で抑えつける、あるいは敏感に反応する、あるいは悪いことしそうになったらバチンと怒られたと、鞭入れられて。そういうことで「あ、この人怖い」って思わせられなきゃだめなの。人間の言うことを聴かせられるかどうかが騎手の技量ですから。

総帥

このときの鞍上はまだ減量つき新人ジョッキーだった北村友一騎手。この頃から腕は確かだったんですね。

相馬眼は競馬場のパドックで磨かれる

さて、この第1レース、総帥は11番ロイヤルクリッパー軸、相手4頭の馬連・馬単を計3万5000円分購入。馬券の買い方としては奇をてらわず王道路線といえるでしょうか。
このあとも総帥、レース発走までの短いあいだにパドックの重要性についておおいに語ります。

パドックでなにを見てるかというと、その馬の個性にあったレースかどうかを見抜いてるだけなの。だからまず、一番最初に、僕は芝の1800ってところに丸するわけ。芝の1800mに一番向いてる馬を探してるわけ、パドックで。直線の短いコースは逃げ馬が結構有利な場合もあるわけ。そういう、個性を見抜く前にまず、どういうレースかっていうのを、それが一番チェックしなくちゃいけないんです。

総帥

馬は、パドックに出てくる状態っていうのは、究極の仕上げなんですよ。結局、1歳とか2歳とか当歳をみても、将来の仕上がった姿じゃないから、いくら見ようと見て、走る馬とはなんぞやってことを洞察しよう、勉強しようと思っても、参考になんないの。ところが、これ(=レースで出てくる馬)って、もう半年も一年も鍛えてきて、トレーニングしてきて、究極の体なの。だからもう無駄なものが削がれてて、その馬の本質が出てるわけ。本当の個性が出てるわけ。で、ここで見て、当たらないと、反省するわけ。なぜ自分が、その馬の受けた感じが違うんだろう、結果と違うんだろうってことで、ものすごく勉強になる。だから、まずは、馬のことをわかりたいと思ったら、競馬場に出かけて来なきゃダメだってことなの

総帥

長年の経験からたどりついた、含蓄ある言葉。

NA

たしかに朝の未勝利戦からメインレースまで一日通してパドックで馬を見ていくと、「オープン馬って体つきが全然違うな」とかやっぱりわかります。また各馬の体格の比較は映像よりじかにパドックで見たほうが断然わかりやすいですね。
「パドックを見てもよくわからない」とは巷間よく言われますが、いろいろと考えて見ないと、そりゃわからないですよ。総帥の言葉からそのヒントをつかんでいただければと願います。

相馬眼は正しかった?

さて、いよいよ第1レースがスタート。総帥が奇跡の相馬眼で見いだした本命は11番ロイヤルクリッパーだったわけですが……

……おかしいなあ(苦笑い)。

総帥

ロイヤルクリッパーは、直線で伸びあぐね、まさかの8着……。

おかしい……。11番どうしたの? だからこういうねえ、やっぱりこれが走らない馬には見えないんですね。だから馬ってのは、そのとき調子が悪いと、あるいはこの週に追い切りを強くしたりすると、疲れてて、もう頑張る気力がない馬もいるんですよ。そこまではなかなかパドックではわかんないから競馬は難しいんですね。

総帥

ロイヤルクリッパーは社台RHの募集馬で1番人気に押されていたくらいですから、ファンからも素質は見込まれていたのでしょう。ただこの馬自身は未勝利の1勝のみで現役を引退。現在は繁殖牝馬となっています。総帥の期待ほどではなかったということでしょうか……。

軸ははずしたものの、ヒモに選んだ馬が1着から3着まで独占。相馬眼は、お見事。

NA

なお4着の12番ウインスカイハイも相手に入れていましたから、実際は1着から4着まで独占。軸馬だけが来なかったんですね。まあ競馬をやってれば親の顔よりも見る外れ方ですよね。

返し馬でのチェックポイント

さて気を取り直して、第2レース。ダート1700mの3歳未勝利戦。総帥はパドックで馬を見たあと、スタンドに移動して返し馬もチェックします。

走る姿勢と、一歩一歩が、ピュ、ピュと軽く進むか、重く進むかっていうのを見るくらいなんですけど。姿勢が悪いってことはエネルギーをロスしますんで、1800mを走ってくる、1700mを走ってくる間に、ロスのない走り方をしなけりゃいけないの。

総帥

たとえば頭の高い走法だったりするとエネルギーをロスしやすく、距離がもたない懸念があるということですね。

ダート向きの馬とは?

それとダートの場合は、後ろ脚で蹴って進むんですね、馬の場合は。だけど、前脚でも走ってるの。後ろ脚ってのはボンと滑るんですけど、前脚は滑らないから、前脚をうまく使える馬はダート向きなんですね。

総帥

一般的にも、いわゆる「前脚を掻き込むような走法」がダート向きと言われますね。個人的には肩や胸の筋肉の発達も重要かと思います。

パドック、返し馬での診断の結果、総帥はこのレース、13番グリッターカーラを中心視するも、背中がちょっと硬めで抜けた強さはないと見切り、軸を据えずに3連単5頭ボックス各200円ずつ計1万2000円の馬券で勝負。

よし、そのまま、そのまま。あ~9来るなよ、9来るなよ、そのまま! そのまま……。そのまま。そのまま、そのまま、そのまま! そのまま、そのまま、そのまま、そのまま……よし!

総帥

1番人気の13番グリッターカーラが7着に沈み、見事、3連単が的中! 2万円馬券となり、払い戻しは4万1060円でした。

やっぱりなあ、この、あれもたいしたことないんだよ、背中が硬いから、13番ね。

総帥

馬券が当たって総帥の口も滑らかです(笑)。

続く第3レースの予想では、パドックで馬を見る位置についても語ります。
パドックで立つ位置は、馬の側面をなるべく長く見られるよう、真ん中あたりがいいといいます。また、馬が奥側を歩いているときに見るのがいいとのこと。手前側だと足元が隠れて脚の動きが見えなくなるからです。歩様については、元気よく前へ踏み込んでいるか、うしろまで蹴りきっているかなどを見るといいます。そしてこれも総帥独特の言い回しなのですが、「地面にへばりつくように走る」ことが重要になることがあるそうです。

6番のピエナミッチーってのがいるんだけど、これがダート向きなんです、こういうのが。上に飛んで走るんじゃなくて、地面に張りつくように(走る)。上に飛ばないんですよ。

総帥

バネをきかせて走るのではなく、最後まで地面を蹴りきるような走り、ということでしょうか。ダート馬ではないですが、ディープインパクトは「飛んでいる」という武騎手のコメントとは裏腹に、エアボーン時間(四肢すべてが地面から離れる時間)がほかの馬よりも短かった、つまりそれだけ地面を蹴りきって推進力を作っていた、という研究結果もあります(JRA競走馬総合研究所編『競走馬の科学』)。
もちろん走る速さはストライドの大きさと脚の回転の速さの掛け算ですから、脚をすばやく動かす能力、つまり筋肉の収縮力も大事になってきます。

(1番ストロングジャックは)お尻がすごく大きくて、推進力はあるんだけど、余計なところまで筋肉がついてるのが1番なの。後ろに引っ張る筋肉ばっかりが発達してて、前に引っ張る筋肉が発達弱いの。

総帥

映像で見るとこのストロングジャックは筋肉量豊富で、ダート戦なら思わず飛びつきたくなる馬ですが、「前に引っ張る筋肉の発達」までは素人目ではなかなかわかりませんね。

競馬は個性の戦い

ちなみに「体型や筋肉は調教で変わりますか?」というスタッフからの問いには、

変わんない。もう個性だから。おそらく遺伝子、受精したときにもう決まってますね。個性の戦いだから、馬は。鍛錬だとか、後天的に変えようと思って努力しても無駄ですよ。ただ、精神的に鍛えるとか、肉体的に鍛えて、精神も肉体もタフになる馬がいるんですね。で、たたき合いになって鼻差勝負になったときに、非常にタフな、精神的にタフな馬ってのは、出るの。それを、牧場だとか、調教師とかいうのは、あきらめない馬(にするため)、精神的にも肉体的にもタフにするために頑張ってるわけです。それも個性だから。タフになれるやつとなれないやつがいて。

総帥

と総帥は答えています。
競馬は個性の戦い」。これも総帥が残した箴言のひとつですね。
なお、このレースにはビッグレッドファーム名義の所有馬コスモザグレートが出走していたため、馬券は1-6の馬連1点3000円に留め、愛馬の応援に徹しました。結果は1番ストロングジャック5着、6番ピエナミッチー9着、9番コスモザグレート8着と、いずれもふるわず……。

サンデーサイレンス悲喜こもごも

さて、ここでインタビューVTRが挿入されます。「想い出のレース」として総帥が挙げたのは、1986年の日本ダービー。所有馬グランパズドリームが2着に入ったレースです(1着はダイナガリバー)。

まあもうねえ、グランパズドリームってのは、あの時期ってのは、日本の競馬もやっぱりあんまりレベルが高くなかったんですね。で、あのレベルのなかでは、そんなにまだ馬が卓越して見れてたわけじゃないんですが、やっぱり東京の芝の2400mのレースってのは、あの馬、すごく飛節もピシっと伸びましたし、筋肉も柔らかくて強かったし、僕はダービー勝てると思ってたわけ。だから父親(蔚男氏)の、もう亡くなって、その半年前に亡くなってたんですけど、勝つつもりで、仏壇から遺影を持ってですね、おふくろと家族で応援に行ったのを思い出しますけど。ほんとに、負けたときは悔しくて、ってのは覚えてますね。だから、生涯で一番印象に残るレースって言われれば、間違いなくグランパズドリーム(の日本ダービー)ですね。

総帥

別のところで語っていたように思いますが、この当時は総帥、いずれすぐにダービーをとれるだろうと手応えを感じていたようです。ところが1991年に社台グループが1頭の種牡馬を日本へ導入すると、状況は一変します。その種牡馬とはそう、歴史的大種牡馬、サンデーサイレンスです。

自分が買った馬で、ロージズインメイ、すごく期待してるんですけど、サンデーサイレンスと比較したらやっぱり硬いところあるんですね。だからサンデーサイレンスってのはすごい馬ですね。だからサンデーサイレンスの後継種牡馬である、(アグネス)タキオンとディープインパクトは、もう世界でも絶対にあんな馬いないです。僕は(自分を馬の)プロだと思ってるし、世界中の馬を全部知ってるつもりでいますけど、タキオンとディープインパクトは世界のまったくのトップクラス……じゃなくてトップです。確信をもって言えます。あの馬(=サンデーサイレンス)が(日本に)入っちゃったってのはもう、僕にとってももう、人生を抑えつけられたって感じがしますね。もしサンデーサイレンスが日本に入ってなかったら、たらればを言ってもしょうがないですけど、僕はダービーもとってるし、ジャパンカップも有馬記念も、皐月賞も、エリザベス女王杯も、いろんなレース、大レースを僕はとってますね。みんなそれら(=サンデーサイレンス)の子どもたちとか孫に、自分の馬が抑えつけられて、クラシックがとれない、G1もなかなかとれないっていうことを、この10年間で抑えつけられたって気がします。しかしそのおかげで、なんとかならないか、なんとかならないかって思ってたことが、かなりのレベルまで馬を見る目ができたってことが、逆に言うとサンデーサイレンスに感謝しなきゃいかんかなというふうに思ってますけど、ホントに抑えつけられましたね。ちょっと辛かったって感じますね。

総帥

サンデーサイレンスが日本競馬のレベルを著しく向上させたことは、もはや論を待たないでしょう。サンデーサイレンスは初年度産駒がデビューした翌年の1995年から2007年まで13年連続で国内リーディングサイアーに輝き、ディープインパクトをはじめとする数多くの後継種牡馬を残しました。
そして総帥が2000年のセレクトセールでフランクアーギュメントの2000という当歳馬を3億2000万円で購入したこともつとに有名です。カームと名づけられたこの馬は調教中の怪我もあって現役時代はあまり活躍できず、生涯獲得賞金はわずか757万円。種牡馬としても目立った産駒を出せませんでした。そら人生抑えつけられて辛かったって言いますわ……。

なぜ飛節なのか

VTRが明けて、第4レースの予想。芝1200mの新馬戦です。

ちょっと筋肉が硬いんだけど、5番(イイデエース)がトモのつく位置も悪くないし、牝馬にしては骨格がしっかりしてて、筋肉もまあまあサンデー系の、(父)スペシャルウィークの筋肉の強いの持ってるからいいんだけど、ちょっと……硬いよね。まあスペシャルウィークもそういうところあるから。飛節がもうちょっと伸びれば絶対推奨するんだけど。1番(プリンセスパトラ)が1200だと差される可能性ありますよね、体型的にミスがあるから。で、どれに差されるかっていうと、3番(ブラストアート)か7番(マルマツビューティ)なんだけど、7番ってずいぶん太く見えるんだけど。まだ仕上がり途上に見えるんだけど、でもいいとこあるねえ、飛節は伸びるし繋の粘りもいいし。あと3番は普通の血統だったらあれだけ骨が細くて飛節もちょっと深めでパワー不足なんだけど、これ(父が)サンデー系のマーベラスサンデー、こんなんでまた筋肉の力あるのいるからわかんないもんなあ。
たぶん5番負けないと思うんだけど、やっぱりこれ欲を言えばもっと強い馬だったら、ホントは飛節が伸びる飛節が伸び切らないんで、負けないと思うけど、もし負けるとしたらその欠点が響いちゃうんだねえ。

総帥

ここでは繰り返し飛節の重要性を語っていますね。飛節とは、馬の後ろ脚の真ん中あたりにある関節で、後ろ脚が腹側へ折れ曲がるジョイントとなっている部位です。人間でいえば足首とかかとに当たる部分ですね。相対的に見て飛節が大きく曲がっているものを「曲飛(節)」とか「飛節(の折り)が深い」とか言います。逆に飛節の角度が浅いものは「直飛(節)」です。また、人間が足首を多少は上下に動かせるように飛節もある程度は可動しますから、地面を蹴るときに飛節がどこまで動くかで、「飛節が伸びる、伸びない」と言われるのですね。それでは、なぜ飛節の伸びが重要なのか。

飛節が伸びない馬って、もっと後ろへ蹴ればいいのに、飛節が、後ろ脚が全部伸びないために、蹴りが足りないの。地面をもっと蹴れって、もっと後ろへ蹴れって言いたいわけ。体型的にうしろへ蹴れる体型にできてれば、ぐうん! と最後まで、ぐうん! と蹴ったらギュ! と進むから、当然強いはずなの。ところが飛節が伸びきらないために、蹴る前にもう返しにかかっちゃうの。だから無駄なエネルギーばかり使ってるの。でトモが中に入りすぎる。飛節が深いから、曲がってるから、トモが中に入りすぎちゃって、それが入りすぎたやつが、あ、入りすぎたっつって下ろせって、もう地面に下ろせって言いたいんだけど、前に行きすぎちゃって、あ、行きすぎたっていって下ろすのにロスがあるの、時間的に。うん……かなり教えてる(笑い)。

総帥

サンデーサイレンスが典型的な曲飛で、その子どもや孫にも曲飛が多いことから、曲飛か直飛かはあまり重要でないという意見もあります。また曲飛は瞬発力に長け、直飛はパワーに長ける、と適性の差につなげる識者もいますね。このあたりはなにが正しいか判断の難しいところですが、総帥は上のようなロジックで飛節が伸びる馬を好んでいたようです。

話は戻り、第4レースの馬券。総帥は5番イイデエースの単勝と、5番軸の馬単を4点、計2万2000円分を購入。しかし……

5→6じゃない。6→7じゃない。5→7です、これ。つけ間違ったですね……まあいいや。

総帥

弘法も筆の誤りといいますか、5→7を買うつもりがマークミスで6→7を買ってしまったようです。こういうときって買うつもりだった目が来たりすることもありますが……。

この5番、力強いから先行できると思うんだけど、ホントはダッシュ力がないタイプなの。背中が短くて。これが……3番手ついてくのが一番いい。意外と体の使いは、バネないね。硬い。(直線の攻防。1番と5番の叩き合い)ソレ! ソレ! ソレ! ソレ! ……あ~、タッタッタ! あ~……頭負けた(悔しげな表情)。

総帥

5番イイデエースが、馬券で馬単の相手に据えた1番プリンセスパトラを叩き合いでかわすことができず、2着に。惜しい結果です。
ちなみにイイデエースはその後、芝の1800m、2000mを中心に使われ、3勝。好位、中団からのレースが多かったですが、すんなりと2、3番手に先行できたときが好走パターンだったようです。総帥、この馬の個性をしっかり見抜いていましたね。

「前かがみ」とはなにか

続いては第5レース。3歳未勝利、ダート1700m戦。

一番可能性高いってのは13番(シリコンフォレスト)ですね。もうちょっと筋肉強いほうがいいなって気もするしあれだけど、体型もまあまあいいし、前かがみだし。ただ一番心配なのは、この中で一番汗かいてるわけ。あんまり汗かいてびしょびしょになっちゃうってことは、もうすでに1レース使ったくらい疲れちゃう馬もいるわけ。ホントにあの、実力拮抗です、2番目は。3番(カラーチャージ)、6番(カネスダンク)、8番(モルエラン)、11番(ハクサンレジェンド)。この4頭、もう実力ものすごい拮抗してる。調子のいいやつが勝つ、展開が向いたやつが勝つって感じ。

総帥

前かがみ」。これも独特の総帥用語ですね。意味としては、「地面にへばりつく」に近いのかな。前脚を伸ばして推進力を生み出せるということだと思います。ゆえにダート向きでもありますね。
そして発汗についても言及していますね。これは一般的にもよく言われるように、レース前にあまり発汗が激しいとよくないということです。

総帥理論は運動生理学的にも妥当

総帥は言葉遣いが独特なので、パドック診断がそれこそ「職人芸」みたいに見られることもあるのですが、じつはそこには膨大なデータの積み重ねがあるのです。

(テロップ「Q.達人の相馬眼は直感によるものですか?」)直感も含めて、いかにデータが多く入ってるかってことなんですよ。データがたくさん入ってる中から直感が生まれてくるんですね。もちろん考え方としてはロジック的な考え方をしなきゃいけない。いかにデータをたくさん持ったうえで、ロジックを組み立てるだとか、直感を働かせるってことだと僕は思います

総帥

この場合はデータは、それこそ「このコースは内枠、先行馬が有利」だとかもあるし、このあと語られるように過去の名馬の記憶だったりもするのでしょう。要するにパドック診断においてもあらゆる角度から競馬に精通していなくてはいかんということですね。だから当然、レースの見方にもこうしたデータが関係してきます。

あ! 出遅れた、13番。(思わず立ち上がり、苦い顔で)あのー……大外の馬は不利なんですよ。コーナーを外回らなきゃいかんから。外回るの嫌だから、しょうがないから先頭に立って、出遅れたにもかかわらず気合つけて先頭に行くでしょ? そうするとスタートから200m、400m、かなり吹かしてるわけ。あれ相当実力差がないと、あれじゃ勝てないのですよ。もし勝ったら、かなり実力差が、実力の差があると見といてください。

総帥

これは運動生理学的にも正しいと思います。レースの前半、スタートダッシュで消費されるエネルギーは、グリコーゲン、あるいは乳酸から由来する無酸素性エネルギーなんですが、レース前半で飛ばしすぎると、筋肉に蓄えられたグリコーゲンをラストスパートまで残しておけず、また疲労物質でもある乳酸の血中濃度が高まるわけです。つまり最後の直線で1ハロン12秒台、11秒台で走るために必要なエネルギーが枯渇し、スピードが落ちます。これがいわゆる「バテる」「タレる」といった状態です。
出遅れて、レース前半に脚を使わざるをえなくなった13番シリコンフォレストはどうなったでしょうか?

ソレ頑張れ! 頑張れ頑張れ13! ソレ頑張れ! 藤田(伸二騎手)頑張れ! 藤田頑張れ! 藤田頑張れ! 藤田頑張れ! 藤田頑張れ! よし、そのままそのまま! よし! そのまま! そのまま、そのまま……よし! ……とれた。

総帥

ここはいい意味で予想がはずれたといいますか、シリコンフォレストがゴール前詰められるも、なんとか粘り切りました。ただシリコンフォレストの上がり3ハロンは40秒1とかかっていたことから、やはり前半の無理がたたって脚は上がっていたのでしょう。それでも勝てたのは夏場の3歳未勝利戦でメンバーレベルも低かったからかと。シリコンフォレストも含め、このレースの出走馬でその後、大きく出世した馬はいなかったようです。
とはいえ馬券は13番を軸にした馬連4点と、同じ5頭での馬単ボックスを計3万4000円分購入していたので、ダブル的中。払い戻しは4万4800円となり、徐々にですが盛り返してきました。

「理想の体型」の基準は過去の名馬

さらなる巻き返しを図りたい、第6レース。

これ、ミソはね、ポイントはね、芝の2000mなんですよ。2000mってのは、走る間に、エネルギーをロスする、体型にミスのある馬って。じゃあどういうのが理想的な体型なのかってのは、みなさんは、写真でもビデオでも、名馬、たとえばテンポイントだとか、名馬になった馬いますね、そのビデオをずぅーと見続けるんです。それ(=名馬の体型)をイメージの中に焼き付けて、それを基準に見てれば、「この馬、テンポイントから見たらちょっとお尻が大きすぎるな」とか「なんか背中が短いな」とか「肩が立ってるような気がする」「首が高いような気がする」とか、そういうのがわかってくるんです。

総帥

名馬を基準にして体型を見るというのは、素人でも比較的取り組みやすいです。テンポイントまで遡らなくても、ディープインパクトだとかロードカナロアだとか、あるいはアーモンドアイだとか、いまならアーカイブにもアクセスしやすいでしょう。
また、これは筆者の個人的な見解ですが、体型を遺伝させやすい種牡馬もいて、そういう血統も含めて馬体を見ていくと、どの種牡馬の産駒なのか、見ただけでなんとなくわかるようになってきます。今だとモーリス産駒(筋肉量が多い)とかビッグアーサー産駒(幅が合って体格が大きい)はわかりやすい。またその種牡馬の代表産駒の馬体を覚えておくと、「この種牡馬はこういう体型の産駒が走る、逆にこういう体型の産駒はイマイチ」という目安になります。もちろんいろいろなタイプを出す種牡馬もいますが。
あと、東京競馬場内にあるJRA競馬博物館には、過去の大種牡馬の写真や絵画が展示されていたはず。これらを見るのも非常に勉強になります。「やはりあファラリスあたりが現代のスピード競馬の基礎なのか」とかマニアックなことを考えながら見ると楽しいですよ。競馬を深く学びたい方は一度は訪れてみることをお勧めします。……総帥じゃないけど、かなり教えてるな(笑)。

達人の口から、企業秘密がこぼれ出た。

NA

これが競馬なんです

さてこのレース、総帥は1番人気の16番マコトボムケッチを中心と見るも、迷いもあるようです。

これも……ダートだったら16番(マコトボムケッチ)絶対買うんだけど、芝の2000mだと……。なんで……俺ならダート使うけどなあ、って思いながら16番見てたの。でも、このレースは16番が中心だと思います。

総帥

総帥フリークたる筆者の私見では、こういう口ぶりのときの総帥の予想は危ないですね。相手はどうでしょうか。

えー、やっぱりねえ、5番(ラヴォランテ)なの。人気あるんだけど。なんでかっていうと、この馬ねえ、2000mの芝のレースが合ってるの。直飛で、最後まで地面を蹴りきれるとか、いろいろ理由があって、まあ体質も、あんまり筋肉強くないんだけど、柔らかくて地面にへばりついていけるっていうか、最後まで蹴りきれる体質なの。あとはねえ、やっぱり1番(フェイバリットサン)が、2000mなもんで、もしかするとやっぱり1番かなあと。それから8番(ブレイジングスター)が、筋肉が結構よかったんで、選んだの。10番(ゴールドヘラクレス)が、柔らかくていいとこあるんだけど、ちょっと柔らかすぎるよねえ。

総帥

馬券は16番を軸にして、上記4頭を相手に据えた馬連を計1万4000円分購入。
そして結果は……16番マコトボムケッチがゲート内で立ち上がって出遅れ。いい位置を取れなかったことで13着に惨敗し、芝2000mの適性を見込んでいた5番ラヴォランテが1着という結果に……。

しょうがない。これが競馬なんです。

総帥

というわけで、前半は6レース中2レース的中で、収支はマイナス3万4140円。後半戦、巻き返しなるか⁉ というところで、次回へ続きます。

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