「将来の夢」を書かせる前に 〜 大人が忘れている「変化」という現実〜
一般社団法人CAP高等学院の代表理事をしています佐藤裕幸です。CAP高等学院は広域性通信制高校である鹿島山北高等学校と提携しているサポート校で、高校卒業に必要な単位を所属する生徒さんに最適な形で取得をしてもらうためにサポートをする一方、時間割がないオンライン上の学校にすることで、生徒さんの情熱と才能を解き放ち、自分の在り方を考えてもらっています。
そのCAP高等学院を運営しながら、他には増進堂・受験研究社の客員研究員として問題集の作問や編集などをしたり、青山学院大学地球社会共生学部の松永エリックゼミで、アドバイザーをしたりもしています。昨年は4月に刊行された『生徒一人ひとりのSDGs社会論』や10月に刊行された『学びとビーイング〜学校内の場づくり、外とつながる場づくり』に寄稿しました。また、今年度から東京にある上野学園中学・高等学校や岡山にある岡山理科大学附属高等学校など複数の中学・高校で「自分丸わかりチャレンジ」という講座をすることになりました。
そして、11月18日からは広島県福山市にある英数学館で久々の現場復帰もすることとなりました。
先日、ある保護者の方から切実な相談を受けました。
「うちの子は『将来やりたいことが見つからない』と言って...。周りの子は志望校も決まってきているのに、このままでは取り残されてしまうのではないかと、夜も眠れないほど心配なんです」
この悩みって、結構さまざまなところでよく聞くと思います。この言葉には、今の教育現場が抱える本質的な課題が凝縮されていると感じました。今回は、この悩みから僕が思っていることをさまざまな形で触れていこうと思います。
なぜ今、この問題について考える必要があるのか?
2024年、私たちを取り巻く環境は驚くべきスピードで変化しています。AIの進化、働き方改革、価値観の多様化...。今の高校生が社会人になる頃には、現在ある職業の多くが変容し、まったく新しい仕事が生まれているかもしれません。
そんな中で、「将来の夢を早く決めなさい」「具体的な目標を立てなさい」という従来型の進路指導には、結構強く危うさを感じています。
現状の問題点
1. 生徒への過度なプレッシャー
・「夢が見つからない=ダメな人間」という誤った図式
・早期の進路決定を迫られることによる精神的負担
・親や教師の期待に応えなければならないというストレス
2.視野の固定化
・既存の職業や進路にのみ目が向く
・新しい可能性への想像力が制限される
・「普通の進路」という固定観念への囚われ
3.変化への対応力の欠如
・目標を一度決めたら変えてはいけないという思い込み
・環境変化への柔軟な対応が難しくなる
・失敗を恐れる心理の形成
では、どうすればいいのか?
僕が提案したいのは、「未来を探して手繰る姿勢」を育てるアプローチです。
1.「今」を大切にする〜未来志向になる前に〜
・現在の興味や関心を否定しない
・小さな好奇心を大切にする
・日々の発見や気づきを記録する
2.多様な可能性に触れる〜考えすぎず、まずは動いてみる〜
・様々な職業や生き方との出会いを求めてみる
・オンラインでの対話や交流の機会を探る
・失敗や方向転換を肯定的に捉えて楽しんでみる
3.変化を楽しむ力を育む
・新しい選択肢との出会いを歓迎する姿勢
・目標の変更に大らかになる
・むしろ不確実なのは当たり前という恐れない心構えの醸成する
具体的な取り組み案
今後僕自身もこんなことができたらいいなぁと思うことを挙げてみます。
スマホのメモ機能を活用した「私の気づきノート」の作成
日々の興味や疑問を自由に記録し、それを使って定期的な振り返りを対話で実施してみる。同じことに触れたとしても、変化の過程を可視化することで、自分の気づきが深まります。
オンライン対話プログラム
これは以前も実施していたことですが、様々な職業人との対話機会や異文化交流による視野の拡大、世代を超えた学び合いの場の提供することで、今の自分がどんなものと繋がっているのかを朧げながら、思い浮かべることもできるのかなと考えています。
柔軟な進路選択支援の提示
複数の選択肢の並行して検討してみることで、方向転換を前向きに支援することも可能になります。また保護者との定期的な対話することで、以前とは異なる将来観のようなものを、周りの大人とも共有していきます。
僕なりの児童・生徒と向き合う大人へのメッセージ
児童・生徒の「決められない」という状態は、決してマイナスではありません。むしろ、変化の激しい時代には、むしろ強みになる可能性があります。
大切なのは
1.焦らずに寄り添うこと(焦りは確実に伝播します)
2。多様な可能性に触れる機会を提供すること(子どもだけでなく、大人も意外と狭い世界で生きています)
3。変更や方向転換を認め、支持すること(我々大人だって順風満帆な選択をしてきたわけではないはずです)
保護者の皆様へもメッセージを
お子様の「まだ決められない」という状態は、親としてみても非常に焦るのは十分理解した上で、それは決して遅れでも劣りでもありませんということを知って欲しいです。それは、むしろ慎重に自分の道を探ろうとする賢明な姿勢かもしれません。思慮深いと解釈してもらえると嬉しいです。
大切なのは、この「探索の時期」を大人が理解し、支えることです。それは時として不安を伴うかもしれません。しかし、その不安に向き合い、共に歩んでいく過程こそが、お子様の真の成長につながるのではないでしょうか。
僕たち大人は、これからも生徒一人ひとりの「探検」に寄り添い、その過程を支え続けていけばいいと考えています。それは、変化という現実を受け入れ、むしろそれを力に変えていく、新しい時代の教育のあり方なのかもしれません。
繰り返しではありますが、未来は不確実です。だからこそ、一つの夢に固執するのではなく、変化に適応し、新しい可能性を見出せる力を育てることが、これからの時代に求められる本当の進路指導なのではないでしょうか。
最後に
「将来の夢」を書かせたり答えさせる前に、僕たち大人がすべきことは、子どもたちに「変化」という現実を伝えることです。そして、その変化を恐れるのではなく、むしろ新しい可能性として受け止められる力を育むことではないでしょうか。
変化のスピードに関係なく、未来は誰にも予測できません。そして未来を予測して、それが叶わないとなると、一気に不安が大きくなります。だからこそ、一つの夢に固執するのではなく、変化に適応し、新しい可能性を見出せる力を育てることが、本当の意味での“進路指導”なのではないでしょうか。
僕たちがそうであったように、子どもたちの未来は、決して一本の直線ではありません。むしろ、様々な可能性が交差し、それが無限の可能性を秘めているのです。僕たち大人にできることは、その可能性を信じ、子どもたちが自分なりの道を見つけられるよう、寄り添い続けることです。決めつけはしないで、まずは受け止めてみることから始めたいところです。