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『普通の進路』って何だろう? 〜誰も教えてくれない、多様な未来の選び方〜

 一般社団法人CAP高等学院の代表理事をしています佐藤裕幸です。CAP高等学院は広域性通信制高校である鹿島山北高等学校と提携しているサポート校で、高校卒業に必要な単位を所属する生徒さんに最適な形で取得をしてもらうためにサポートをする一方、時間割がないオンライン上の学校にすることで、生徒さんの情熱と才能を解き放ち、自分の在り方を考えてもらっています。
 そのCAP高等学院を運営しながら、他には増進堂・受験研究社の客員研究員として問題集の作問や編集などをしたり、青山学院大学地球社会共生学部の松永エリックゼミで、アドバイザーをしたりもしています。昨年は4月に刊行された『生徒一人ひとりのSDGs社会論』や10月に刊行された『学びとビーイング〜学校内の場づくり、外とつながる場づくり』に寄稿しました。また、今年度から東京にある上野学園中学・高等学校や岡山にある岡山理科大学附属高等学校など複数の中学・高校で「自分丸わかりチャレンジ」という講座をすることになりました。
 そして、11月18日からは広島県福山市にある英数学館で久々の現場復帰もすることとなりました。


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 今回は、あと1ヶ月ほどで実施される共通テストやその後の私立大学一般入試、国公立個別入試など従来型の入試のことを考えながら、“普通”の進路ということについて、僕なりに思いついたことを気ままに書いていきたいと思います。


ベネッセ・リクルートのデータと保健体育のDVD

 毎週水曜日に教育に携わる仲間たち対象に行われている「気づきと学びを最大化するプロジェクト」において、テーマとして取り上げられた、ベネッセ教育総合研究所の「高校生の進路選択に関する調査」(2023年)によると、将来の職業を「決めている・ほぼ決めている」高校生は約30%、「まったく決めていない」は約15%、残りの約55%が「考え中・迷っている」状態だということが触れられました。
 この数字を見ながら、ある生徒との体育の教科書DVD視聴中に流れてきた言葉が、妙に心に響きました。

「短距離走におけるクラウチングスタートは、ゴールを見ずに地面を見ながらスタートする。それに対して、長距離走のスタンディングスタートは、前を見てスタートするものの、ゴールが遠いので、ゴールが見えることはない。つまり、結果的にどちらもゴールを見ていないのだ」

 リクルートの調査(2023年)では、約70%の高校生が「将来の仕事について不安がある」と回答し、特に「AI技術の発展による仕事への影響」を不安に感じる生徒が増加傾向にあることが明らかになっています。また、「やりたいことが見つからない」という回答も約45%に上ります。「自分まるわかりチャレンジ講座」を通じて、生徒たちのやりたいことを探ろうとしている僕としても、なかなか気になるデータではあります。

今改めてこの問題について考えてみたい!!

 さらに、日本財団が実施した「18歳意識調査」(2023年)では、自分の将来に希望があると回答した高校生は約40%、日本の将来に希望があると回答した高校生は約30%と、他の先進国の同年代と比較すると、将来への希望を持つ割合が相対的に低い傾向にあることが分かっています。
 しかしながら、その一方でちょっとした違和感も持っています。2023年4月に刊行された『生徒一人ひとりのSDGs社会論』の中でも触れたように、学校の探究の中で、「まずはSDGsのゴールの中から興味・関心のあるものを見つけ、そこから問題をみつけてみよう」というような、抽象化されたあまりにも大きな目標なのに、あたかもそれが具体的なゴールのように示される場面を見ると、「生徒たちはその目標を"自分ごと"にできているのであろうか?」「その目標に対して、本当に持続的に取り組むことができるのだろうか?」など、さまざまな疑問を感じるようになっていました。

調査データが示していると考える具体的な問題点

 僕は、上記の調査データが示す具体的な問題点を以下のように考えています。

1.将来への不安と目標設定の困難さ
 ・高校生の約70%が将来の仕事に不安を感じている。
 ・「やりたいことが見つからない」という声が45%
 ・自分の将来に希望が持てない生徒が60%以上
2.求められる社会変化への適応
 ・AIなどの急速な技術革新への不安の増加
 ・従来型の進路選択の限界とアップデートされない進路指導
 ・周りの大人も含めた新しい職業への理解不足
3.進路指導の現状
 ・今なおも行われる画一的なアプローチによる視野の制限
 ・求められている個別化への対応不足
 ・加速度的に変化する社会に追いつけないことによる準備不足

実践からの気づきやヒント

 僕がかつて勤務していた中高一貫校で出会った生徒たちの変化は、特に印象的でした。
 入学当初、薬剤師などの医療系を考えていたある生徒は、とても絵が上手でした。文化祭のポスターでは、実に上手に特徴を捉えたデッサンでクラス担任である僕の似顔絵を描いてくれました。
 少しずつ自分の将来を見つめ直していた頃に、カナダへの修学旅行がありました。
 現地のセカンダリースクールで、美術の授業に参加したその生徒は、担当の先生の絵に対する向き合い方に触れ、絵を描くことへの情熱を少しずつ高めていきました。
 さらに、週末ホストファミリーと出かけたフリーマーケットで見つけた骨董品や美術品を手に取って眺めるうちに、「私、やっぱり絵が描きたいかも」と自分の思いがはっきりと溢れ出てくるのを感じました。
 帰国後、文化祭に出展すべく絵を描くことに没頭し、たくさんの作品を仕上げました。絵に対する思いが一気に爆発した感じです。
 そして、文化祭当日のことです。展示した絵をALTが写真を撮って、友人に送ったところ、友人から「この絵は私のところに来たいと言っている。ぜひこの絵を売って欲しいと、絵を描いた人に伝えてほしい!」と返信がありました。そのことを生徒に伝えると、とても驚くと同時に、「私は自分の絵で人を喜ばせることができるんだ」ということに気づき、絵に携わる仕事をすることを決意しました。
 その決意がはっきりと固まったのは、高校3年生になってから。かなり大胆な進路変更のため、入試という点では非常に苦労をしました。現役で合格した大学もありましたが、より高みを目指して1年浪人することを決意。翌年は志望の大学に合格し、入学後半年で、新東京美術館に作品が展示されるほどの力を身につけることができました。

その生徒が描いた僕の似顔絵ポスター(今よりだいぶ顔が丸い…)

 “普通”に進路を考えるのであれば、きっとめちゃくちゃ遠回りをしていますし、「絵で飯なんか食えるかわからない!」みたいなことを言うのかもしれません。しかしながら、来てもいない将来を考えて、ずっと悩んで、結果的に何も踏み出せずに、不安だけを募らせるよりも、あることや人との出会いをきっかけに一気に前進していったこの生徒は、本当に幸せとしか思えません。成績や偏差値という“普通”とみなされている偏った価値だけで判断することのほうが、場合によってはものすごく遠回りをしているとさえ思えるのです。

CAP高等学院としてのこれまでの具体的な取り組み例

 さまざまな形で僕のクラスを卒業していってくれた生徒たちの行動や取り組みが、ある意味通信制高校サポート校・CAP高等学院の設立にも大きく影響していますが、そんな生徒たちからインスパイアされ、これまでさまざまなことに取り組みました。

1.イケてる大人とのオンラインDialog
 ・地方議員や起業家との対話
 ・ニュースメディア関係者との交流
 ・様々な分野の第一線で活躍する方々との出会い
2.「私の○○自慢」プロジェクト
 ・大学生や教授による「私の属大学・学部・ゼミ自慢」
 ・様々な職業についている人による「私の仕事自慢」
3.海外サマープログラム・留学推奨
 ・海外サマープログラムに2名が参加
 ・1年以上の海外留学に2名を送り出し
 ・現地フィリピンの高校生と文化や価値観についてのオンライン意見交換

保護者を含めた児童・生徒の周りの大人の皆様とともに考えたいこと

 リクルート進学総研と全国高等学校PTA連合会の調査によると、高校生の83.0%、保護者の89.4%が進路について話し合っているとされています。また、高校生の約70%が、保護者が自分の考えを尊重し、温かく見守ってくれていると感じています。本当にありがたい限りです。
 しかし、その一方で私たちは、この数字の裏にある現実にも目を向ける必要があります。
 ゴールをイメージすることはとても大事です。しかしながら、そのゴールは100m走やマラソンのように、ゴールラインがはっきりしたものではなく、状況によって絶えず変化するものであり、当初短距離走と思っていたのが、実はフルマラソンだったということも十分にあり得ます。

僕なりに思う「これからの時代に必要な考え方」

 これまで共著や特別寄稿で書いてきたことや、現在提供している「自分まるわかりチャレンジ講座」を通じて、僕なりに思っている「これからの時代に必要な考え方」をまとめると、

1.「自分ごと」からの出発〜自分をまるわかりにする
 ・現在の興味関心を大切にする
 ・感情の本質を探る
 ・行動の原動力を見出す
2.「自分たちごと」への発展〜自分ごとから自分たちごとへ
 ・社会との接点の創出する
 ・多様な価値観との出会いを求める
 ・対話を通じた視野を拡大する
3.持続可能な未来への貢献〜自分たちごとから他人ごとへの興味・関心
 ・個人の成長と社会の発展を接続する
 ・変化を恐れない心構えの育む
 ・新しい可能性への開かれた姿勢をもつ

最後に

 文頭では短距離走・長距離走の話を取り上げましたが、短距離走・長距離走いずれの場合とも同じように、まだ見ていない、もしくは見えていないゴールを無理に見ようとするのではなく、現在目の前にある"自分ごと"に問いを投げかけ、その問いに対する自分なりの答えを見つけようとしながら、"自分なり"の解決法を探り、結果的にそれが"自分たちごと"に変容していく。さらには"他人ごと"を"他人ごと"のままにしない心構えが出来上がるのではないか?
 そしてそれこそが、本当の意味での持続可能な未来の選択へとつながるのではないかと考えるようになりました。
 私たちは、これまで出会った生徒たちが、"自分ごと"から持続可能な未来選択に意識が向かうまでの経緯を大切にしながら、今後も生徒一人ひとりが真に自分らしい未来を選択していくことが、“普通”の進路選択となってくれることを願いたいと思います。

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