オンライン授業の先に
「それって全然オンラインっぽくないじゃん!」と言われるかもしれませんが、僕がオンライン授業の中で一番求めていたものを徒然なるままに書いていきます。
1. 急に会えなくなるのはやっぱり寂しいから、オンライン上で会いたい。
前任校に在籍中、3月4日からの休校が決まり、「特別講習期間」として、当時中学3年生(現高校1年生)と本来するはずだった授業ができなくなると分かったとき、生徒達にはまだ辞めることを伝えていなかったこともあり、「このまま会えずに辞めるのはやっぱり寂しい」と思っていました。だから、年度最後の授業のときに、少しばかり格好つけて「休校期間中もZOOMで授業をすることにしました。先生はみんなの学びを止めたくないし、もしみんなが進んで取り組んでくれたら、もしかしてこれまでの学び方が変わるかもしれない。俺たちでこれまでの学びの形を変えよう!」なんて言ったが、本当のところは僕がみんなと授業をしたかったわけです。
2. 生徒達がノリノリで授業をしてくれたから、生徒たちが気持ちよく参加できる授業になった。
僕が言ったセリフに共感してくれたかどうかはわからないが、生徒たちは最初から授業を楽しんでいました。しばらく会えないと思っていたクラスの友達とインターネット上ではありますが、毎日会えます。もちろんLINEなどのSNSでやり取りはしているはずですが、おそらくそれぞれの日常が覗けるところも普段は経験できない楽しみだったのかもしれません。
また、授業に参加する際には進みたいと思っている範囲の予習は全て済ませて授業に臨んでくれました。もともと普段の授業でも予習に取り組んでくれる生徒は本当に多かったのですが、オンライン授業になってからは連日予習率100%。明らかに生徒たちは積極的に授業に臨んでくれていました。
理由はいくつかあったようですが、ブレークアウトセッションを利用したグループ学習に大きなカギがあったようです。
3. 「学び合い」プラス「自由な雑談」で深まるもの
グループ学習の時間帯は、指定場所をお互いに質問や解説をしながら理解を深めていくために行います。グループはアトランダムに決めていました。そして、実際にその時間の中で行われていたことは...
予習でしっかり理解している生徒はわからない友人に教えて理解を深めます。逆に理解できていなかった生徒は、気軽に友人に尋ねられます。生徒たちにとって先生に質問するのは、先生が思っている以上にハードルです。そのハードルが低いから、勉強が楽しくなる。そういうこともあったようです。しかし、実はそれだけでなかったことが少しずつ分かりました。
生徒達の間には、先生が持ち合わせていない共通言語がある。たとえば、子供たちの間ではやっているゲームやYouTuber、マンガ・アニメなどたくさんの言語が存在しています。そんな共通言語で話をする時間はとても楽しい。だから少しでもそういう時間を共有したいと思うのは当然です。その時間に最適なのがブレークアウトセッションの時間です。みんながしっかり理解さえできていれば、残りの時間は生徒たちにとっての自由時間になります。その空いた時間を使って共通言語で話ができる。こんな楽しいことはありません。ブレークアウトセッションの時間に覗きに行くと、急に雰囲気を変えるところがありました。話を聞いてみると「実はあつ森の話をしていました」と正直に教えてくれました。
4. 授業中のメモ回し
普段の授業中にも生徒達には共通言語があります。気になることがあればすぐにでも共有したいと思う気持ちで、メモを回すなんてこともありますよね。恐らくブレークアウトセッションの余った時間が授業中の「メモ回し」に相当していたのかもしれませんね。
僕はその時間の使い方を特に気にしてはいませんでした。むしろ僕がわかることを話していた時には一緒にその話題を話すことさえありました。なぜなら、僕が普段の授業で大切にしていたのは、「生徒たちと楽しい時間を過ごすこと」だからです。進めたいと思っていたことをちゃんと終わらせてから残り時間を有効に使う、個人的にはとてもいいことだと判断しています。
5. 見えないことを任せると...
教室という立体的な空間とは異なり、インターネット上では生徒たちの姿を全部見ることなんてできません。したがって、どんなに教室での授業を再現しようと思っても、絶対無理なことはわかっています。そこをあえてルールを作って管理しようとすることは寧ろ生徒たちに負担を負わせることになると思っています。
しかし、見えないことは全部生徒たちに任せると、ちゃんと自分たちでルールを作り、少なくとも参加している生徒達や僕が気分を悪くするようなことは一切起こりませんでした。
6. 僕が生徒たちに身につけて欲しいこと
僕が普段の授業の時から生徒たちに身につけて欲しいと思っていることは、「自ら学ぼうとする力」「協力して問題解決する力」「自分で考えて行動する力」「困っている人を救う力」「状況を楽しめる力」「想像力と創造力」です。ちょっと欲張りですね。
1か月にわたるオンライン授業で、生徒たちはほぼ全てを磨いてくれました。普段の授業でももちろん身につけようと努力をしていましたが、コロナによってもたらされた「不自由」をある意味しっかりと受け止めつつ、ある意味状況を楽しみながら、成長していく姿を感じることができました。
7. 自分を「主語」にして考え、行動する。
休校期間中に生徒たちが最も成長したと感じているのは、「私」「僕」を主語にして話したり、行動することが増えたことです。授業の最初に行っていたチェックインの場面でも、「僕は今日~~を身につけるために〇〇をしました」と話してくれることが増えてきました。もはや生徒達には頼もしさしか感じません。
8. オンライン授業で気になること
僕がオンライン授業を始めた2か月前に比べて、本当に数多くの学校や先生方がオンライン授業に本格的に取り組み、児童・生徒たちの学ぶ機会を確保する動きが見えてきました。中には通信環境が十分ではない中で、先生方が苦労をされながら、何とか子どもたちに学びの機会を与えようと頑張っている姿勢を目にする機会も増え、称賛に値することばかりです。
しかし、気になることがあります。
「先生方の頑張り、本当に生徒の方を向いていますか?」
先生方はもともととても真面目で、何かを身につけると、極めるまで一生懸命に頑張るかと思います。「少しでも生徒が学べるように動画を制作しよう!」「生徒たちの学びを止めないように、できるだけたくさんの課題を作ろう!」など、生徒への想いを馳せながら、日々お忙しく仕事をされているかと思います。
ただ、その一方で、生徒たちが何を望んでいるか尋ねてみたことはありますか?単に先生方が「きっとこうしたら生徒たちのためになるだろう」と想像だけして、仕事をされていませんか?
3月末に前勤務校を退職した後、様々な学校の高校生と話す機会があります。高校生たちは決して先生方を悪くは言わない一方で、出された課題で押し潰されそうになっている高校生がいることも間違いありません。
また、先生方が作成した動画を「必ず見るように」と指示を出されることがあるようですが、すでに教科書などを読んで理解できている生徒にとっては結構つらいものがあるようです。
まだまだ休校期間が続くかもしれませんし、仮に休校期間が解除されたとしても、以前と同じような教室環境で授業ができるとは限りません。そうなるとまだまだオンライン授業や課題配付は続くことも考えられるでしょう。そのような状況下で、先生方だけで決めたルールで拘束し、学びに制限が出てしまうとしたら、それは弊害でしかありません。個人的にはオンライン授業には一定の効果があると思っていますし、今後の状況次第ではオンライン授業を1年間続けることにもなるかもしれません。だからこそ、個々は思い切って生徒たちを信頼し、任せられる部分は生徒たちに任せた授業の組み立てをしてみてはいかがでしょうか?
ZOOMやG Suiteの使い方も重要ですが、その前に生徒たちが「学ぶ」ための本質を乞う一度考えて欲しいというのが僕の願いです。