勉強って『コスパ』『タイパ』悪くね?〜生徒たちが勉強しない本当の理由を考える〜
一般社団法人CAP高等学院の代表理事をしています佐藤裕幸です。CAP高等学院は広域性通信制高校である鹿島山北高等学校と提携しているサポート校で、高校卒業に必要な単位を所属する生徒さんに最適な形で取得をしてもらうためにサポートをする一方、時間割がないオンライン上の学校にすることで、生徒さんの情熱と才能を解き放ち、自分の在り方を考えてもらっています。
そのCAP高等学院を運営しながら、他には増進堂・受験研究社の客員研究員として問題集の作問や編集などをしたり、青山学院大学地球社会共生学部の松永エリックゼミで、アドバイザーをしたりもしています。昨年は4月に刊行された『生徒一人ひとりのSDGs社会論』や10月に刊行された『学びとビーイング〜学校内の場づくり、外とつながる場づくり』に寄稿しました。また、今年度から東京にある上野学園中学・高等学校や岡山にある岡山理科大学附属高等学校など複数の中学・高校で「自分丸わかりチャレンジ」という講座をすることになりました。
そして、11月18日からは広島県福山市にある英数学館で久々の現場復帰もすることとなりました。
毎週水曜日に開始されているオンラインの対話会「生徒の気づきと学びを最大化するプロジェクト」。最近は忙しさを理由になかなか出られていませんが、先週参加した際の話題で、とても気になることがあったので、それを元にさまざまなデータを読み取りながら、僕自身が考えたことをいつものように気の向くままに書いていきたいと思います。
「うちの子、正直言うと勉強にやる気が出ないんです...」
「塾代がかかってるのに、成績が上がらなくて親に申し訳ない...」
これらは、勉強について相談を受けるとよく耳にするセリフです。みなさんも聞いたことはありませんか?僕にはそのセリフの奥に、現代社会特有の価値観と、従来の教育システムとの軋轢が見え隠れしているように感じています。
勉強に関するデータあれこれ
実際、2022年の全国学力・学習状況調査によると、中学3年生の約4割が「勉強が好きではない」と回答しています。さらに、日本財団の18歳意識調査(2019年)では、「学校での勉強に興味がない」と答えた割合が調査対象7カ国中で最も高い結果となっています。
さらに懸念されるのは、学習意欲の低下と精神的な不調との関連です。国立成育医療研究センターの調査(2021年)によると、中高生の約3割が「不安や悩みで眠れないことがある」と回答し、その要因として「学業」が上位に挙げられています。
僕がかつて勤務していた学校でも、進学実績を上げることが重視される一方で、生徒たちのメンタルヘルスの問題が顕在化していました。毎年のように増えていく保健室登校者。文部科学省の調査では、2021年度の高校中退者の約4割が「学業不振」を理由に挙げており、メンタルと学業の関係においても、決して他人事として済ませてはいけない状況です。
「コスパ」「タイパ」という現代的価値観との関係
1.「勉強がコスパ悪い」と感じる生徒たちの本音
現代の生徒たちが感じている学習への違和感の根底には、「コストパフォーマンス(コスパ)」「タイムパフォーマンス(タイパ)」という価値観があるのかもしれません。ベネッセ教育総合研究所の調査(2021年)によれば、高校生の約65%が「勉強にかける時間の割に成績が上がらない」という不満を抱えています。
実際、「頑張って勉強したけど、全然点数取れない」 「塾に通っても結果が出なくて親にも申し訳ない」 のような生徒たちの声を聞くと、「勉強=時間やお金をかける価値がない」と感じてしまう気持ちも見え隠れしているように感じます。時間や費用を投入しても明確な結果が見えづらい勉強は、他の即時的な娯楽や結果が得られる活動と比較すると、魅力が感じられないのはわかる気がします。たとえば、スマートフォンを触ればすぐにゲームやSNSで達成感が得られます。仮にうまくいかなかったとしても、リセットしてやり直しもきく。一方で、勉強の成果は長い時間をかけなければ現れにくい。しかも成績が悪いと、ペナルティをかされるかのように責められる。「こんなに努力しても点数が上がらないなら、意味がない」と思うのも無理はないのかもしれません。
2.タイパや効率の呪縛
学校教育の中では、「時間をかけて、量をこなすこと」が重視される傾向があります。しかし、生徒たちは「時間をかけても効率が悪い」と感じると、やる気を失ってしまいます。ではやる気を失わせないために、何か効率的な学習方法を伝えているかと言うと、根性論に行ってしまい、具体的な方法が教えられない。生徒も自分に合った学び方が見つからないと、勉強そのものに対する不信感が募っていくわけです。
「数値化できるものだけで評価する社会」が生む問題
僕たち大人も、つい「成績」という数字だけで子どもたちを評価してしまいがちです。でも、例えば進路選択において「偏差値」だけで大学を選んだ場合、本当にその子の将来にとって良い選択になるでしょうか? 学部変更などで対応できるのであればまだいいのですが、拙著『自分まるわかりチャレンジ』(タイトルをクリックすると書籍購入のページに)などさまざまな文章内でも書いていますが、僕が学習塾で最初に担当した生徒は、入学後3ヶ月で有名大学を中退し、マグロ漁師になった例もあります。それがずっと心のどこかに引っかかっていたこともあり、以前、多様な大人と生徒を結びつけるワークショップ「高校生×大学生×社会人 オフラインによる究極の“才能と才能の物々交換”」を行った際、多くの生徒たちが「これまで自分の選択肢がいかに狭かったか」に気づきました。
勉強への見方を変えるフィードバックの重要性〜新しい時代に求められる学びのかたち〜
では、このような状況をどのように改善できるのでしょうか。国立教育政策研究所の研究によれば、「個別最適化された学習」を導入した学校では、生徲の学習意欲が平均20%向上したという結果が出ています。
「成績が上がるかどうか」だけではなく、もっと多面的に生徒を見て、生徒一人ひとりにフィードバックする必要があります。例えば、「君の考え方は面白いね」「ここまで努力できたのはすごい」といった肯定的な視点です。これによって、生徒たちは自分の価値を再認識し、モチベーションを取り戻せる可能性があります。
「生徒一人ひとりに全部フィードバックしていくのは大変!!」
中にはそう考える人もいるかもしれません。それはきっと、今行っていることを見直そうとしていないからです。本来手放してもいいものもあるはずです。そこも考えてみることが必要です。例として、以下の3つを提案します。
1.評価基準の多様化。テストの点数だけでなく、思考プロセスや創造性、協働する力なども正当に評価する。
2.すでに言われていることですが、個別最適化された学習環境の整備。AIを活用した学習支援システムの導入により、生徒一人ひとりの理解度に合わせた学習の提供と先生方へのサポート。
3.社会との接続実感。キャリア教育研究所の調査では、職業人との交流経験がある生徒は、そうでない生徒と比べて学習意欲が約30%高いというデータが。
最後に
「勉強しても意味がない」
「どうせ頑張っても変わらない」
生徒たちがつぶやいていたこれらの言葉が、少しずつ変化してきて、
「自分のペースで学べるって、こんなに楽なんだ」
「将来の夢と勉強がつながった気がする」
となってほしいと言うのが率直な思いです。勉強の価値をコスパやタイパで考えられるのは、やはりどこか寂しく感じます。
確かに、現代の教育には様々な課題があります。その中でも特に大きな問題は、テストの点数や偏差値といった「数値化できる評価」に慣れすぎてしまっています。そうなると、創造性や協調性、粘り強さといった重要な要素が見過ごされがちです。生徒が「勉強しても意味がない」と感じてしまうのは、決して生徒自身の問題ではありません。むしろ、僕たち生徒の周りにいる大人たちの側が、評価の視点を広げていく必要があると言えます。
生徒一人ひとりがまずは学びたいという気持ちになってもらう。「学びたい」という気持ちが出てきてからも寄り添いことを忘れずに、その思いを現実のものとしていく。それは単に「数値化できる成果」を追い求めることではなく、その生徒ならではの価値や可能性を見出し、伸ばしていくことと思っています。