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産経の不当な社説は容認できぬ

自衛隊音楽隊と市内中学校吹奏楽部のコラボ演奏会を、廿日市市が後援して開催したことに、市内の市民運動グループが抗議したことに対して、産経新聞は「不当な抗議は容認できぬ」との社説を11月6日付で掲載した。主権者である市民が市当局の施策に抗議することが、なぜ不当なのか。民主主義社会では当然の権利ではないか。社説冒頭にある文章を借りると、『いまだにこんな時代錯誤の「社説」を書いているのかと、唖然とするほかない』

自衛隊は定員を確保できず、リクルート活動に躍起である。この「自衛隊ふれあいコンサート」もその一環である。高校卒業予定者の氏名を住民基本台帳から転記して、隊員募集のダイレクトメールを送ることまでやっている。警察や消防がこんなことやっているだろうか。ではなぜ、人が集まらないのか。憲法を逸脱して「戦争する武力組織」に変貌させらているからではないのか。

産経社説は「隊員は命がけで、国と国民を守る崇高な任務にあたっている。今回のような抗議は自衛隊を貶めるのに加え、明白な職業差別である。断じて容認できない」と書いているが、命がけでとか崇高な任務とか書けば、ますます応募者が減ることをご存知ないのか。

自衛隊は、戦争になれば、敵国の兵士を殺すことが合法的に許される国内では唯一の実力組織である。近年は、憲法違反である「集団的自衛権」を、安倍政権が強引に閣議決定で認めて、アメリカ軍ともに世界どこでも戦えるようになった。専守防衛、敵基地攻撃能力は持たないとされていた大原則も、岸田政権のもとで変えさせられた。それを「命がけ」「崇高な任務」と賛美する言論が、ますます自衛隊の不人気の原因となっている。だれも人を殺したくない、殺されたくない。人間として当たり前の生きる権利を無視する組織に誰が好んで入るものか。

今回の市民グループの抗議は、そのような自衛隊の実情も踏まえて、中学生を安易に自衛隊音楽隊と共演させるべきではないと訴えた。廿日市市の担当課長らが約30分にわたって真摯に対応してくれた。産経社説が言う「抗議に応じなったのは当然だ」とは様子が違う。抗議がすぐに聞き入れられるとは市民グループは思っていないが、「不当な抗議は容認できぬ」という態度でなかったことは、取材された産経記者も分かっておられよう。

アメリカ大統領にトランプ氏が就任することになった。ロシアのプーチン大統領、イスラエルのネタニヤフ首相らに加えて、またも物騒な独裁者があろうことか超大国のリーダーになる。自衛隊員は本当に命を懸けて戦うことになるかもしれない。そのような自衛隊と中学生を安易に交流させていいのか。その結果、命を落とす子どもたちが出てきたら、私たちはどう責任を取るのか。つい80年ほど前に、日本では日常だった光景を再現させてはならない。

自衛隊が憲法を厳格に守り、専守防衛に徹し、自ら戦争を起こさないと世界に宣言する。そのために憲法前文で定めた「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの平和を維持」する行動を、いま日本国民の総力を挙げて追求する時ではないのか。今回の抗議は、人類の未来を救うこうした行動のようにも思える。

産経新聞11月6日付社説


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