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諸見浩二のコラム(3)

■『焼酎楽園』 2004年4月

諸見浩二

2004年の『博多一番鶏』福岡市西区姪浜店

北部九州での焼酎受容の実態を探るレポート、第三弾。

小生、今回は福岡県をはじめとする九州各県から中国・四国にまで現在57店と勢力を拡大している焼鳥チェーンの成長株、『博多一番鶏・あらい』さんにグッと迫ってみた。

本誌13号の『益正』さんでは福岡都市圏中心部における焼酎受容を探ってみたが、本号では福岡・佐賀・長崎・大分4県から基幹店舗1店を抽出して北部九州でのあり方の差を見てみたい。

まず『博多一番鶏・あらい』さんだが、母体は『あらいグループ』で昭和22年の創業という老舗の食肉鶏専門の企業。1号店の出店は平成12年7月とまだまだ新しいチェーンである。運営の基本コンセプトは「ファミリー層を中心とした幅広いターゲットに、気軽に安価に、自然が育んだ美味しい鶏肉を、最も美味しい状態で提供する」こと。例えば価格で見ると、最低ラインは鳥皮一本70円という値頃感のある設定だ。またそれに合わせて、出店も基本的に郊外中心の展開を行っている。

さて。北部九州各県の実態についてお話を伺ったのは、本社FC担当の樫村健一氏。平成15年11月時点での姪浜店(福岡)・鳥栖店(佐賀)・佐世保店(長崎)・南大分店(大分)の詳細なデータを頂戴した。飲料のカテゴリー分けは「ビール・一般焼酎(「飲み放題」+「銘柄ご指名」含む)・地焼酎・清酒・チューハイ ウィスキー・ワイン・果実酒・ソフト・カクテル」としている。以下に全体の傾向を見てみよう。

❶佐賀・長崎で高い本格焼酎の比重

図1でご覧の通り、佐賀と長崎では一般焼酎の比重が極めて高い。というのは、佐賀・長崎・大分の3店については「飲み放題」というメニューがあり、それが相当数に上るため。樫村氏の話では「最初はビールで乾杯なんですが、その後は焼酎がほとんどです。それにカクテルが若干入る位ですね。焼酎は『黒霧島』です」とのことで、「一般焼酎」に組み込んだ結果である。

特に佐賀と長崎では飲み放題と一般焼酎(銘柄指名)の比率は約「9:1」と差があり、宴会で利用する若者やサラリーマンが多い客層が大きく影響しているという。値段が手頃なこともあって焼酎の人気は圧倒的となっているようだ。

❷やはり強い『霧島』ブランド

次に、飲み放題を除き、銘柄が把握できる「指名分」でブランドごとの受容の傾向を把握してみる(図2)。

 福岡の料飲店に強い影響力を持つ『霧島』ブランドだが、その例に漏れず、『博多一番鶏・あらい』さんでもレギュラーの主力は同社の製品が占めており、創業当初からの定番である。銘柄は『黒霧島』『ほ(麦)』『そば作(そば)』『花懐石(米)』で、一般焼酎における『霧島』ブランドと他の地焼酎のシェアは約6:4と、その差は圧倒的。

またPBである『博多一番鶏焼酎(麦・光酒造製)』を一般焼酎として加えると、7割以上になる店もあり、やはり安価に飲めるレギュラー系が強い。

❸地域性が出た麦と米

現在の芋焼酎ブームを反映してか、全般的に『黒霧島』やこだわり系の芋焼酎が支持を集めている状況だが、やはりその土地の地域性が現れている部分もある。

興味深いのは、各地で原料の嗜好に差があること。日本酒の勢力圏・佐賀では米の『花懐石』が、麦焼酎の本場である大分は『ほ』が抜きんでている点だ。またデータは無いが、熊本では当然ながら米焼酎のシェアが圧倒的に高いという。歴史や風土などの背景が、嗜好にも表れていると言えよう。

 余談だが、佐賀県のある蔵元さんの話では、昨年秋ぐらいから佐賀市内の料飲店でも芋焼酎が突如として浸透し始めたそうだ。今後、佐賀での嗜好が大きく変動する可能性も伺える。

❹最近伸びが著しい黒糖焼酎

現在、『博多一番鶏・あらい』さんが最も注目しているのは黒糖焼酎。樫村氏は「『れんと』がよく出ますね。想像した以上です。今後は黒糖、そして泡盛も強化したいと考えているんですよ」と語る。

『れんと』が焼酎全体に占める%は低い。しかし、関東でも黒糖の伸びは著しいと聞くが、それは北部九州でも同様だ。店毎によってこだわり銘柄に異同はあるが、『長雲』を置いている店もあり、黒糖焼酎の今後の伸びが気になる。

❺飲みきりサイズのPBが健闘

先に触れたPB『博多一番鶏焼酎』。福岡県にある光酒造さんの製品で、これが佐賀以外の県では7%台と結構シェアが高い。同店の味に合わせて開発されたもので、飲みきりサイズの小瓶入り。全部飲めなければ持ち帰りもOKで、そのあたりも人気の秘密かもしれない。樫村氏は福岡エリア全体では麦焼酎が強いと言う。

 今回は北部九州にチェーン展開している焼鳥屋での焼酎受容の実態を横断的に探ってみた。前レポートと同様に『霧島』ブランドの圧倒的なパワーが発揮されている現状ではあるが、しかし確実に焼酎ブームによる嗜好と銘柄の多角化が進行していることも実感できた。

 樫村氏はチェーン全体における焼酎人気について最後にこう語った。

「実際、焼酎は出方としても増加しています。やはり“安く飲める”というのが、支持される理由だと思いますね。清酒や他の酒類は値段がどうしても高いですから。私共でも、より手軽な値段でお客様に提供したいと思っています」。

詳細は伺わなかったが、店舗展開している広島や愛媛でも、若い人たちの間に本格焼酎の受容が徐々に広まっているとのこと。

現在、福岡都市圏では、個店や2〜3軒のチェーン店でも焼酎の品揃えを強化する店が増加している。ましてや焼肉チェーン店にさえプレミア焼酎がメニューに並ぶ状況だ。今後、スペースや資本力に余裕のある大手料飲店との焼酎競合はさら激化することは間違いない。


■2022年追記:タイトル画像にある「博多一番鶏」姪浜店は、福岡市西区にあって、2002年当時店の近くに住んでいて一緒に正調粕取焼酎探索に走り回った若い友人とよく飲みに行っていた。キープしていたのは『霧島』(現『白霧島』)、その後新発売なった『黒霧島』に代わった。

『黒霧島』は、福岡市場でのローンチのために、一億数千万円の予算を掛けて大キャンペーンを打って一気に生存圏を密にした。知り合いなどがみんな”黒キリ”ばかり飲んでいたもんである。

時代は変わり、「博多一番鶏」姪浜店はコロナ禍の影響で閉店し、昨年取り壊されて更地となった。跡地にドラッグストアが建つそうだ。あの頃”黒”ばかりだった福岡の飲み屋や量販店の棚は、数年前から”青”に染め上げられるようになってしまった。黒から青へ、霧から雲へ、そんな巷の20年の移り変わりである。


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