国分酒造 焼酎イノベーションの系譜(3)-国分酒造パースペクティブ
現在、経営者である蔵元が杜氏を兼ねる酒造会社は多い。
しかし、かつては蔵元は杜氏を雇うものであり、
また蔵元は杜氏の造りに口を出さないという不文律もあった。
笹山が蔵に戻って、2年目の2000年、
「自分の思い通りの焼酎を造らせてほしい」と、安田は笹山に申し出た。
以来、笹山は安田に造りの全てを任せている。
その信頼関係が生んだ作品の系譜を辿ってみたい。
■国分酒造のアイテム発売時系列
■国分酒造アイテムのスペック一覧
「香り焼酎」ジャンル創出につながった3つのKey、
「原料芋」「酵母」「熟成芋」。
①原料芋「サツママサリ」
スペック一覧表をご覧になって気づかれただろうか。国分酒造では仕込みに「コガネセンガン」を使っていない。
2013年から「サツママサリ」による仕込みを開始し、2018年には「コガネセンガン」の全量を「サツママサリ」に切り替えることができた。
「サツママサリ」は「コガネセンガン」と比べて、いもの凹凸も少なく貯蔵性が良く、原料当たりのアルコールの歩留まりも高い。さらに出来た焼酎は甘い果実系の香りとさわやかな味が際立つ。
香り焼酎の嚆矢となった『フラミンゴオレンジ』の誕生は、「サツママサリ」があってこそと考えている。
②「鹿児島香り酵母1号」
鹿児島香り酵母1号(ko-CR-37)は、鹿児島県工業技術センターで開発された芋焼酎用の香り酵母で、一般的にはバナナのような香りが高くなる酵母である。
2017年秋、この酵母が解禁された。すぐに取り寄せた安田は『フラミンゴオレンジ』の仕込みで使用してみた。
それはもろみの段階ですでに、とても心地良い果実系の香りが立ち、前年に鹿児島2号酵母で仕込んだ時と香りが全く違っていたのである。安田でさえ、その芳香にとても驚いたほど。
「この酵母との出会いがなかったら、『フラミンゴオレンジ』は生まれてこなかった」と、安田は語る。
③熟成芋の活用。
それは農家の気持ちに応えたい杜氏の想いが発端だった。
「香り焼酎」誕生のきっかけとして、芋畑でしばらく置かれたために熟成した芋の存在がある。
2012年10月、「蔓無源氏」の芋を使った芋100%焼酎に初めて取り組み、上々の出来に仕上がった。
初年度はこれで終わりの予定だったが、12月に入った頃、「蔓無源氏」農家である谷山秀時氏から連絡が入った。畑にまだ「蔓無源氏」の芋が残っているというのである。
芋は畑でしばらく置かれた間に傷んでいたが、谷山氏が傷んだ箇所をわざわざ切って蔵に持参されたのだ。安田は、この谷山氏の思いに応えるために、熟した芋を使って仕込んだ。しかし、結果は非常に刺激臭の残る焼酎になってしまった。
ところが、である。貯蔵していた翌年夏の頃から、この刺激臭に変化が出てき始めた。刺激臭の中にも、少しずつ、果実系の香りを感じ始めたのだ。
2013年10月、芋焼酎『安田』と命名して、この焼酎を発売した。
不安いっぱいの中での発売だったが、これまでにない香りの焼酎ということで、『安田』は、すぐに完売となったのである。
■国分酒造イノベーション相関フロー
一言でいうなら「温故創新」。
「技術の革新」と「伝統への回帰」とが融合して、
新たな次代のイノベーションを生み出した。
業界初の芋100%焼酎『いも麹芋』を起点に、
安田の酒造技術の集大成ともいうべき『安田』を結節点として
発展形となった『フラミンゴオレンジ』『クールミントグリーン』により
”香り焼酎”という新たな本格焼酎の沸点に到達した。
(4)に続く。
一部画像は「めぐりジャパン」さんの記事より承諾を得て転載させていただいております。